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双子

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 だから、本当に暴行はしない。ちょっとした悪戯程度である。
 そういうことなので、忠直を始めとしたメンバーは皆、
「童貞」
 だったのだ。
 そのターゲットにラブレターを渡した女の子が引っかかった。
 彼女は、
「まさか、自分の好きな人は、そんなひどい人間だった」
 などということを知る由もない。
 手紙を受け取った忠次も、
「兄貴がそんなひどいやつだったなんて」
 と、後になって言っているくらいだったので、知らなかったのは間違いないだろう。
 相手が知らない相手だったら、まず、忠直が声をかける。軽い気持ちで、どこかに遊びに行こうか話していると、そこに、不良が絡んでくる。それを忠直が、巧みに男たちを説得する。
 そのテクニックは、仲間の一人がよく分かっていた。
 その仲間というのは、ホストに知り合いがいて、女を誑し込むにはどうすればいいのかということを聞いていた。そして、桜を撃退する方法もシナリオを書いてくれて、助けることができるのだ。
 もちろん、その場を大げさにするわけにはいかない。警察でも呼ばれると本末転倒だからだ。
 かといって、普通に説得して相手が引き下がるようなうまい話しにするわけにはいかない。
 さりげなく、大げさにせず、相手を屈服させる方法である。結局、女の子を少し離れたところで待機させ、こちらが何を言っているか分からないくらい小さな声で話をしているかのように見せかけ、実際には女の子に、
「俺は、不良の説得ができればいいんだ」
 というだけのことである。
 昔のように腕力にものを言わせるというのが、実に浅はかであるということと、あまりにもベタで、
「何かおかしい」
 と相手に思わせるだけである。
 しかし、少し離れたところで、威勢よく相手を説得できれば、彼女の方も、
「まさか相手までグルだ」
 という、いわゆる、美人局のようなやり方をしているなどということは思わないだろう。
 それが、
「贔屓目」
 というもので、男の何たるかを知らないことから、陥りがちな罠なのかも知れない。
 男も数人いれば、それくらいのことを分かる人間が一人くらいはいるだろう。これだけ大胆なことをしようというのだから、それくらいのことを分かっている人がいないと成功するものもしないだろう。
 それを思うと、
「そんな悪知恵など、いい方に使えば、どれだけの人が助かるか」
 と言えるのであろうが、
 それくらいのことが分かっているのであれば、こんなちんけな計画に嵌ることはないだろう。
「それだけ自分に自信がない」
 のか、それとも、
「自分の知恵が浅はかだということで、これが限界だ」
 と思っているのかの、どちらかであろう。
 忠直に、忠次は、渡してほしいといって託された手紙を渡さなかった。
 彼女に対しても、もし聞かれたとすれば、
「うん、渡したよ」
 と言おうと思っていた。
 忠次とすれば、
「まず聞かれることなどない」
 と思った。
 聞くくらいであれば、自分で渡す勇気だってあるだろう。最初は勢いで、忠次に依頼したが、きっと、今、後悔しているかも知れない。
 後悔にもいろいろあって、
「自分で渡せばよかった」
 という後悔である。
 せっかく自分が書いたものなので、自分で渡したいと思うのが本当だ。それができないということは、
「目の前で突き返されたら、ショックが大きく立ち直れない」
 と思っているからに違いない。
 だが、
「実際に自分で渡さなければいけないものだ」
 と思っているはずなので、渡せなかったということに自分が自分で歯痒いに違いない。
 だから、弟に渡してもらおうと思ったのだろうが、もし、自分たち兄弟が本当に仲が良く、弟が兄に、
「あんな手紙を自分から渡せないような女の子、やめておいた方がいいよ」
 というかも知れない。
 または、これは自尊心が強い場合のことだが、彼女からすれば、
「弟の方が、私のことを好きになって、兄弟で私を取り合うということになって、結局、お兄ちゃんが弟に譲るなどということになれば、溜まったものではない」
 と思った。
 というのも、
「本当はお兄ちゃんが好きなのに、弟と付き合うというのはどういうことを意味するかというと、本当に好きな人が目の前にいながら、別の男性とお付き合いをしていることになり、もし、お兄ちゃんに彼女でもできれば、その仲睦まじい姿を、見せつけられながら、好きでもない人と付き合っていくことになる」
 ということになる。
 これほどの二重苦はないだろう。
 そんなことを考えると、弟に手紙を渡して、お願いするというのは、これほど、後味の悪いこともないだろう。
 確かに、
「手紙を渡す」
 という目的だけなら、一番いい方法なのかも知れないが、その目的からすれば、まったく正反対のパターンもあり得て、自分が苦しむことになるなど思ってもみなかったことであろう。
 しかも、相手は気づいていないだろうが、手紙を託された方も、
「面倒なことを言われたものだな」
 と思うということに気づかない。
「本当は兄弟仲が悪かったら?」
 ということを考えなかったのだろうか。
 そうなると、手紙が兄の手に渡ることはまずありえないだろう。普通の日常会話すらしないのに、弟の方から話しかえるにも、相当に気を遣っていかなければならないし、話しかけられた方も、面倒臭そうにするに決まっている。
 仲が悪いということはそういうことだ。
 特に兄弟であれば、相手に対して、最初は威圧的な意識を与えて、自分の方が立場が上であるということを知らしめなければいけないだろう。
 まず、立場関係をハッキリさせることが大切なのだ。
 たった数時間、生まれ落ちるのが違っただけで、兄と弟というか垣根をつけられたのだ。
「生まれる時に自由がない」
 ということを思い知らされているような気がした。
 これは、双子にしか分からないことであり、二人の間での以心伝心で、相手が考えていることも分かるのだった。
「実に厄介だよな」
 と、忠次は思っていた。
 忠次がそんなことを考えていると、忠直は、自分がモテるというのをいいことに、いろいろな女の子と一緒にいるのが目立つようになっていた。
 忠次は、自分が太り始めたことからか、自分の身体にコンプレックスを感じたことで、女性に対しても、さらにコンプレックスを感じるようになっていた。
 それが、兄である忠直を意識しているからだということに、まだ本人は気づいていない。まさか、コンプレックスというものに、他人が影響しているなどとは思っていなかった。あくまでも、他人には関係のない。自分だけのことだと思っていたからだ。
 しかも、兄に渡してほしいというラブレターまで預かる始末。その場で断っておけば、こんな余計なストレスを掛けることなどなかったはずなのに、どうしたことだというのだろう?
 そんなことを考えていると、
「コンプレックスの原因が、兄にある」
 とまで思うようになってしまった。
作品名:双子 作家名:森本晃次