小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

双子

INDEX|4ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 兄は、生まれつき、まわりが判断してくれるという、
「恵まれたタイプ」
 であり、弟の方は、自分から変えていかないと、まわりは気づいてくれないという、
「損なタイプ」
 だったのだ。
 そういう意味では、サバイバル精神は、弟の方が強かった。その分、嫉妬心も強く、当然のごとく。猜疑心も人一倍だった。
 しかも、中学時代の思春期の時期に、女の子から呼び出されたので、思わず舞い上がった気持ちになり、ノコノコやってくると、
「お兄さんの忠直さんに渡してくれる?」
 と、ラブレターを渡されたりした。
 忠直は、意外と古風なものが好きで、
「ラブレターなど貰ったら、舞い上がっちまうだろうな」
 と、男友達の間だけで話をしているにも関わらず、女の子がなぜ、その情報を知っているのか分からなかった。
 どうやら、忠直の仲間の中には、相当、口が軽いやつがいるようだったのだ」
 忠直を好きになった女の子は、まるでストーカーのように、忠直を注視していたに違いない。
 だから、忠直のまわりに口の軽いやつがいれば、自分に靡かない程度に近づき、忠直の情報を仕入れるくらいのことはしているだろう。
 しかし、あまり近づきすぎると、今度は自分がストーカー被害に遭わないとも限らない、それを思うと、気を付けることに超したことはなかった。
 しかし、そこまで大胆なことができるくせに、本人の前に出ると何もできない。はにかんでしまって、何も言えなくなるのだろう。
 本当はそんなことはないのかも知れない。
 しかし、そういう女の子は、自分のことを、そういうはにかみ屋で、
「本人の前に出ると何もできない女の子だ」
 ということを自覚するタイプなのではないだろうか。
 だからこそ、ラブレターも忠次に渡せばいいと思うのだった。
 彼女は二人が双子だということはもちろん知っている。だから、それぞれを見ていて、今は、双子にしては性格も何もかも似ていないように見えるのに、心の中では、
「双子というのは、見た目ではなく、まわりが思っている以上に似ているものだ」
 と思っていた。
 双子が普通の兄弟くらいお距離であれば、
「普通の兄弟というと、赤の他人だといえるくらいの距離があるに違いない」
 と思っている。
 だからこそ、本当の忠次の性格を見ようともせず、
「この二人は似ているんだ」
 と勝手に思い込み、
「弟は兄の分身だ」
 というくらいに感じているのではないだろうか。
 だから、
「ラブレターを渡す」
 という任務を与えられても、弟だったら、
「兄のために」
 ということで、甘んじて受けてくれると踏んだのだった。
 しかし、それが考えが甘いというもので、しかも、その考えを忠次は見抜いていた。
「この女、俺を利用することに対して、良心の呵責が揺らぐことすらないんだな」
 と感じた。
 忠次は、こういう女が、いや人間が一番嫌いだった。
「好きな人のことが徹底的に調べるくせに、肝心なところで手を抜く」
 というやつである。
 そんなやつのことを、許すことはできないが、だからと言って、こんなやつのために、自分が気を揉んだりするだけバカバカしいというのも分かっていて、
「だったら、どうすればいいんだ?」
 と考えながら、ある程度までは頭が回るのだが、まるで電池が切れてしまったのか、急に思考回路がばったりと動かなくなるのである。
「さあ、どうしよう?」
 と思い、考えた。
 思考停止するまでには、計算ではまだまだあった。
「このままほっぽっておけばいいのかも知れない」
 という考えである。
 それが一番当たり前のことのように思えた。
 しかし、バレた時が、忠直とぎこちない関係になることを嫌ったのだ。忠直は、どちらかと疎いところがあったので、少々のことでも気づかないところが扱いやすかったのだが、ここで我に返られると、操縦がしにくくなる。
 ということは、忠直を怒らせないようにしないといけないということであった。
 このあたりが、
「双子の双子たるゆえんだ」
 ということなのだろう。
「以心伝心とはこのことをいうに違いない」
 と、この時だけ、双子の底力というものを思い知らされることになるのだった。
 かといって、このまま流れに乗って、ラブレターを渡すのは辛かった。
 いや、むしろ、こっちの方が辛くて苦しく、地団駄を踏んでしまうことになるだろう。
 それを思うと、
「兄にだけいい思いをさせるのは癪だ」
 と思うのだった。
 この感覚は、本当の普通の兄弟であれば、ここまで感じることはないだろう、
「双子だから、相手のことが分かり切っていると思うから、このように感じるのであった」
 と言えるだろう。
 結局、ラブレターを手渡しするのは忍びないので、せめてもの妥協案として、
「下駄箱の中に入れておく」
 という純愛を絵に描いたような、背中が痒くなるような方法しか思いつかなかった。
 ただ、正直、いろいろ考えたのは間違いなく、
「一周回って、辿り着いた」
 と言ってもいいだろう。
「双子って、何て厄介なんだ」
 と思う。
 それは、兄の忠直も同じことを感じていて、
「兄弟でほとんど狂いなく同じことを考えているのが、このことだというのは、これ以上の皮肉はない」
 ということであった。
 そんな忠次は、
「今回は二人の顔を立てて、ラブレターを曲がりなりにも渡すという役を引き受けてやったが、いずれは、似たような仕返しをしてやる」
 ということで、それから、兄を虎視眈々と何かを狙っているのであった。
 忠直は、弟のそんな気持ちは知らなかった。
 ただ、忠直という男、見た目と違って、腹黒いところがあった。
 正直、スタイルもよく、高身長であることから、女の子には結構モテた。
 双子であるから、
「俺だって痩せていれば、あれくらいモテたのにな」
 と、忠次は考えたが、
「太ってしまったのは、俺のせいだからな」
 と、嫉妬はしょうがないとしても、それで兄を責めるわけにはいかないのは分かり切ったことだった。
「じゃあ、しょうがないか」
 といって、簡単に諦めがつかないというところは、
「弟だからかな?」
 と感じたが、どうやら関係ないようだ。
 ただ、
「たまに自分を必死で言い訳がましく考えてしまうところは、弟らしいのか?」
 と考えるのは、間違っていないようだった。
 忠直はその時、ラブレターを忠次に渡したその女の子を、
「次のターゲットにしよう」
 と狙っていたらしい。
 実は、忠直には、普段とは違う、
「別の顔」
 があった。
 その顔というのは、実に卑怯なことであり、割る仲間連中をつるんで、忠直がイケメンであることを利用して、忠直がナンパした相手を、
「皆でもてあそぶ」
 ということをしていたのだ。
 中学生なので、変な過激なことはしなかったが、すくなくとも、警察に分かれば、取り調べなどが行われ、一歩間違えると、退学になるのは間違いないことであった。
 だから、
「よほど、名乗り出ないような気弱な女の子しか狙わない」
 というものであった。
 ただ、本当に暴行してしまえば、一発少年院などに送られてしまい、下手をすれば、人生はそこで終わりということになりかねないのだった。
作品名:双子 作家名:森本晃次