パンデミック禍での犯罪
というほどに、怒り心頭だったことで、もう、抑えつけてでも、鎮圧するしかなくなったのだ。
もうこうなると、戒厳令は必然となってしまった。
これが天皇の意志であれば、国民も逆らえないというものだ。
反乱は三日で収まり、兵は、原隊に帰したが、青年将校の一部は自決し、一部は投降した。
投降した連中は、
「裁判で、自分たちの決起を明らかにし、世間に、正しかったことを訴える」
というものであったが、彼らの裁判は、
「弁護人なし」
さらには、
「非公開」
ということで、表に出ることはなく、全員、銃殺刑であった。
この数年前に、海軍の青年将校が起こした、
「五・一五事件」
においては、刑が重くても、死刑になる人間はいなかった。
それを見ていた陸軍将校たち。彼らの中には、
「クーデターを起こしても、死刑になることはない」
とタカをくくっていたのかも知れない。
しかし、事の目的が、派閥争いであり、天皇が、
「反乱軍だ」
と認定したことで、事態はまったく違っていたのである。
そもそも、
「政治には不介入」
とされている天皇にここまでさせたのだから、その罪は重いということであろう。
天皇が、政治に口を挟んだのは、これも3回あり、一回目は、
「満州某重大事件」
と呼ばれた、当時中国で内乱があったが、その一角にいる北伐のドンであった、
「張作霖」
という人物を、満州鉄道の列車ごと、爆殺したという事件である。
この時、当時の首相、田中義一に対し、天皇が、どういうことなのかと訊ねるので、
「調査して、犯人を見つけ出し、対応します」
といっていたにも、関わらず、数日後に、
「結局犯人は分かりませんでした」
と答えた。
それを聞いた天皇は激怒し、
「この間は、ちゃんと対処すると言ったではないか。お前の言っていることはサッパリ分からん」
といって叱責したのだった。
まもなく、それが原因で、内閣は総辞職したのだった。
天皇は、これをたいそう気にしてしまい、
「政治不介入」
の精神をもう一度考えたという。
ただ、さすがに、226の時はそうもいかなかった。基本軍内部のことだが、政府の人間が暗殺されたということに口出しはできないのかも知れないと考えたのだろうが、さすがに我慢できなかったのだろう。
そして、最後に天皇の意志が明確になったのが、大東亜戦争の終結であった。
御前会議では、普通は発言することのできない天皇が、
「国民のため」
ということで、
「自分はどうなってもいいから」
ということでの、玉音放送となったのだ。
この3回が、天皇が政治関係のことに口出ししたものであった。
どれも、天皇とすれば、黙っていることができないことだったに違いない。
見つかった死体
業者が入ってから、3日ほどが経ってからであろうか。
「ぎゃー」
という悲鳴が聞こえてきたのを聞いたのは、校長だけではなく、教室で授業を受けていた生徒はもちろん、教員室の先生にも聞こえたことだろう。校長が、
「何事だ」
といって駆けつけた時には、すでに人だかりができていた。
そこに、業者の人が腰を抜かしたようにうずくまっている。
「何があったんですか?」
と人だかりを押しのける形で中に入った校長を見上げる形で業者の人が、
「何でこんなものが、早く警察を」
といって、奥のまだ雑草の残った付近を、震える手で、指さしたのだった。
「どうしたんですか?」
と言いながら、校長が、茂みを覗き込むと、
「ぎょっ」
と、今度は息を呑みこむようにして、悲鳴とも思えない声を挙げた。
大きな声で叫ぶよりも、こっちの方がむしろ、恐ろしいものなのかも知れない。
「け、警察を」
と、その様子は、雰囲気こそ違えども、腰を抜かして震えている業者の人と変わりはなかった。
それを聞いた教頭はビックリして、警察に電話を掛ける。その時校長は、
「殺人事件だ」
というと、その場にいた生徒は一斉に後ずさりをした。
「きゃっ」
という声が女の子から聞こえたが、時間が経っているだけに、ショックが大きかったのは、間違いなく最初に見た業者の男性だったのだ。
「何か怖いものがある」
ということが分かって見る場合は、それなりい覚悟ができているからであろう。
通報を聞いた警察は、K警察から、数名やってきた。刑事、さらに警官、そして鑑識である。
すぐに、捜査の線が敷かれて、生徒はその外に追いやられた。
発見者である業者の人と、学校の責任者である校長は、別の場所で待機させられていたのは、いうまでもないことだったのだ。
さすがにパトカーのサイレンを聞きつけた野次馬がやってきた。
何しろ、
「子供を預かる立場である学校」
というところにけたたましいサイレンの音、警察のパトカーがくるのは、尋常なことではない。
「何があったんだ?」
と、膨れ上がる野次馬、それを押しのけようとする制服警官。
ドラマなどで、よく見かける光景であった。
刑事が二人しゃがみこみ、引き出された死体の方を見たり、校長の顔を見たりしていたが、校長を呼ぶと、
「この方に見覚えはありますか?」
と言われ、
「はい」
と言ったことで、まわりは凍り付いたかのような空気に包まれたのだ。
死体はうつ伏せになっていた。そしてかなり汚れているのだが、その様子は、少し腐敗しているかのようにも見えた。
転がっている死体を見ると、最初は顔が確認できなかった。しかし、刑事がハンカチのようなもので泥を落としていくと、校長にはそれが誰だか、すぐに分かったのだ。
だが、他の人たちは、気持ち悪さからか、視線を直視できない。校長も本当であればそうなのだろうが、自分が責任者だという自負もあってか、見逃すわけにはいかなかったのだ。
「校長。これは誰ですか?」
と刑事に聴かれて、
「鮫島さんです」
と、答えると、その後ろから一人の生徒の声で、
「えっ」
という声が聞こえてきたのだ。
刑事もそれが気になってか。
「君は、何か気になることがあるのかい?」
と聞かれたその女生徒は、
「いいえ、別に」
とバツが悪そうに答えたのだった。
刑事は、それを放っておいて、話を元に戻すかのように、校長に向かって、
「この人は一体、どういう人なんですか?」
と聞くと、
「ええっと、用務員をしていただいた人です」
と、校長は正直に答えた。
すると刑事は、鑑識を呼んで、鑑識にひそひそ話で何かを確認していたが、
「実はだね。この死体は、死後、一か月以上は経過しているということなんだよ。いくら用務員さんとはいえ、校長先生であれば、用務員の人がいなくなったりすれば、気が付きそうなものだけど、そのあたりはどうだったんですか?」
と聞かれた。
すると校長は、
「この鮫島さんという用務員は、実は、今から三か月前に退職いただいたんですよ」
というではないか。
「退職の理由は?」
と聞かれたので、まわりの生徒に聞かれるのがまずいと思ったのか、まごまごしていると、その様子を不審に感じた刑事が、
「ちょっと、こちらにきていただきましょう」
作品名:パンデミック禍での犯罪 作家名:森本晃次