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パンデミック禍での犯罪

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 それは、事件が発生し、捜査本部ができあがって、初動捜査の報告が行われ、捜査方針を決めようという、最初の捜査会議があってからすぐのことであった。
 捜査方針としては、まずは、被害者が学校を辞めてからの足取り、さらに、事件当日、いや、一か月も経っているので、その前後数日の、目撃者などの捜索、もちろん、中学校内部のことなので、生徒への尋問は、かならず教師を通してのことになるのは分かり切っていることなので、そのあたりの確認も行われた。
 何といっても、相手は中学生、義務教育の範囲なので、学生ではなく、生徒、児童なのである。
 そのあたりは、警察も気を付ける必要があるだろう。
 特に、中学生というと、苛めの問題や、学校不信、その他いろいろとあるだろう。 
 何と言っても、思春期の真っただ中、多感な時期であることは分かり切っている。
 それを考えると、
「教師と一緒」
 というのが一番であろう。
 刑事が教育現場についてどれほど理解しているかは分からないが、少なくとも、刑事が単独で生徒に聴くよりも、先生同伴というワンクッションがある方がいいに決まっている。
 そのことを刑事も分かったうえでの行動で、あくまでも、証人探しであって、生徒の中に犯人がいるとは思っていないことを示す必要がある。
 警察としては、本当は生徒も犯人として見なければいけないというのが、捜査の鉄則なのだろうが、それを顔に出してしまうと、警戒されるだけだ。
「思春期の子供は、意外と勘が鋭い」
 ということは刑事も分かっている。
 というのは、ベテラン刑事や警部補くらいになると、年齢的に、中学生の子供がいても、不思議のない年代だ。
 それを思うと、刑事も、
「あの子たちも、自分の子供と変わらないくらいの年齢だ」
 と思い、どうしても、思い入れは出てきてしまうだろう。
 そんな中学生に応対する前に、事件の様相が変わってきた。
 それは、死体が発見された翌日の昼前くらいのことであった。K警察署に一人の訪問者があったのだ。
 その男は、ラフな格好をしていて、髪はボサボサ、服もよれよれのものを着ていて、顔もひきつっていて、うだつが上がらない。
 他の場所で見れば、ただの、
「目立たないおじさん」
 というだけであろうが、場所が、
「警察署内」
 ということで、その様子が、異様に感じられたのだ。
 いや、そもそも警察というのは、何かの事件の犯人ということになると、その様子は、ただでさえ、異様なものであろう。そういう意味では、警察署内部とはいえ、その男の雰囲気は、確かに異様であった。
 最初は、その男が入ってきたことに誰も気づかなかった。受付を始め、署員はそれぞれに仕事があるからだ。
 男は、モジモジとしていて、最初からその男のことを気にしている人がいるとすれば、そのおかしな様子に気が付いたことだろう。
「どうされましたか?」
 と、ウロウロしていれば、市役所なのでは声をかけるのだろうが、警察ではなかなかそうもいかない。
 それでも、そのうちに一人の婦人警官が気づいて、声を掛けたのだ。
「どうされましたか?」
 と声を掛けると、男の表情は急に安心したかのようにホッとした表情に変わったので、声を掛けた婦人警官も安心した顔をした。
 そして、
「まずは、こちらに」
 といって、長椅子に腰かけさせ、その横で話を聞くことにした。
 二人とも、マスク着用していることは、言うまでもないことである。
 椅子に座らせたのは、その男の足取りが怪しかったからだ。しかし、それは、憔悴していてのものであったり、薬物やアルコールによって、フラフラしているわけでもなさそうである。
 年齢からしても、まだ中年くらいなので、そこまでくたびれているわけではないが、その恰好からすれば、憔悴しているとしても、その理由は分かるような気がしたのだった。
「どうされたんですか?」
 と、椅子に座って、少し間をおいて、彼女が再度聞いた。
 男は、必要以上に、息が荒いようだった。緊張からなのか、それとも、本当に体調が悪いのか、彼女には分かりかねていた。
 本当であれば、誰か刑事がついていてほしいと思うところであるが、受付のある階には、刑事のいる部屋はなかった。しょうがないので、
「ちょっと、ここで待っていてくださいね」
 といって男を待たせたまま、彼女は上司に相談に行ったようだ。
「あの方が、ウロウロと、挙動不審なところがあったので、あそこに座らせていますが、刑事さんを呼んだ方がいいでしょうか?」
 といいに行ったが、
「私がちょっと聞いてみよう」
 といって、あくまでも、刑事を呼ぼうという意識はなかったようだ。
 上司が近づいて、男からすれば三度、
「どうされました?」
 と聞かれるとさすがに今度は答えた。
「実は、自首をしに来たんです」
 というではないか。
「自首? 自首というと、何かをされたわけですか?」
 と聞くと、
「ええ、人を殺しました」
 という。
 こうなってしまうと、刑事を呼ばないという選択肢はない。さっそく、捜査一課に連絡を取り、一課の刑事が降りてきた。
「人を殺したというのは本当か?」
 と、明らかに、強い口調で言った。
 完全に犯人だと決めつけているわけではないだろうが、自分で殺したといっているのだから、遠慮することはないだろう。
「じゃあ、そこで誰を殺したんだい?」
 と聞くと、
「K中学校で、用務員の肩を殺しました」
 というので、連行しようと思い、やってきた二人の刑事は顔を見合わせて、一瞬、その場が凍り付いてしまったかのようになったのを感じたのだった。

                 アリバイ

 さっそく、捜査本部に報告され、
「よし、じゃあ、その男をまず、連行して、取り調べを行ってくれたまえ」
 と、本部長からの命令で、男を刑事課に連れていき、取調室に入ってもらうことにした。
 刑事課は、いつになく慌ただしくなり、ちょうど、他の事件がなかったことで空いている取調室に入った。
 刑事が二人と、書記が一人、とりあえず、3人が1人の男の相手をすることになったのだ。
 取調室の扉は開けられたままだった。
 もし、取り調べをしている男が犯人だった場合、起訴して裁判ということになった時、
「拷問された」
 あるいは、
「自白を強要された」
 などということが相手の口から洩れれば、それはまずいことになる。
 裁判において実に不利になるということにもなるし、何よりも今の時代、コンプライアンスの問題から、冤罪を防ぐという意味もあるだろう。
 だから、昭和の時代のように、刑事が、
「タバコでも吸うか?」
 といって渡したり、ドラマでよくあるような、かつ丼を食べさせたりというようなことはしない。
 それこそ、
「自白強要の買収」
 と受け取られないとも限らないからだ。
 相手は、百戦錬磨で、しかも、
「依頼人の財産と権利の保護を至上命令」
 とする弁護士が相手なのだ。
 警察のちょっとした気のゆるみをついてくることは、火を見るよりも明らかなことであった。
 そんな取調室での、刑事と容疑者、参考人とのやり取りは、昭和の頃とはかなり違っていることだろう。