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パンドラの殺人

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「普段からの薬も結構きついもので、苦しい薬に関しては、免疫ができていたんじゃないか?」
 ということだったので、担当医に聴いてみると、
「ええ、そうですね。闘病は結構きついものでしたね、体力が衰弱したり、なかなか眠れなかったりと、挫折する人も結構いて、延命を望まない人もいるくらいです。ただ、自殺というのは思い切ったことをされたものです。治療がかなり苦しかったことは、想像できますね」
 ということであった。
 そこまで裏付けを取ると、さすがに、
「もう事件性はない」
 ということで、何も言われることはなかっただろう。
 それから一週間も経たないうちに、ある殺人事件が勃発した。
 まさか、この間の自殺をもう一度思い出すことになるとは、誰も思うことはなかったであろう。

                 先代の遺書

 早朝になって、警察署の方に一報が入った。どうやら、近くに団地が建てられるということで、バラックも撤去されるというところであったが、そんな今は無人となっているところに、男性の死体があったのだが、どうしてそれが分かったのかというと、
「通報があったから」
 ということであった。
 ただ、その通報というのは、
「死体が転がっている」
 ということではなく、
「ひったくりにあった」
 ということで、警察がパトロールをしているところで、ちょうど死体を見つけたということであった。
「ひったくりなどなければ、早朝、あんなところをパトロールなどしない」
 ということである。
 そもそも、ひったくりというのは、当時としては珍しくもなかった。さすがに、戦後すぐというほどの混乱はなかったが、まだまだ貧富の差が激しいのは、周知であり、実際に、まだバラックに住んでいる人も少なくはなかった。
 行政も必死になって復興をしているのであろうが、物資の問題、さらに、政治家などと、土建屋との癒着などがあり、工事に着手するために、問題は山積していた。
 しかも、その土地の立ち退きというのも、買収に時間もかかっていた。
 さすがに、大日本帝国時代のような、
「建物疎開」
 を理由にできるわけもなく、
「区画整理」
 というだけでは、難しかったりする。
「住宅ができれば、今の場所に優先的に入れるようにする」
 ということを言っても、その家賃が払えるかどうかで、行政ともめているのだった。
「政府や自治体が出せる金」
 というのは限られていて、
「いくら約束をしても、その時になってみないと、事情がどうなっているか分からない」
 というのが、住民側だった。
 自分たちが今と同じであればいいが、食うだけで精いっぱいであれば、ここに住み続けるのは難しいかも知れない。
 ということになれば、お金を貰って、他の今から住めるところに移る方がいいのかも知れないということになる。
 しかし、
「先祖代々の土地」
 ということであり、そう簡単に手放すわけにはいかないということで、難しい選択に迫られるのであった。
 今であれば、
「先祖代々などという、家という発想は、ないだろう」
 と言われるだろうが、あの頃は、
「家系であったり、住んできた土地を守る」
 というような、まるで中世の封建主義のような考え方は、脈々と受け継がれてきていた。
 その頃の探偵小説にもあったのだが、
「昔の旧家ということで、恥を公表することができないというだけの理由で、殺人事件が起こる」
 というような内容である。
 しかも、その作家の代表作と呼ばれるものは、田舎の村などの旧家の家系にその殺人動機が隠されていたり、逆に、それが動機だと思わせて、実は、復讐だったりと、文字通りの、
「血で血を洗う」
 というような殺人事件が多かったりするのである。
 さすがに、都会で起こった殺人事件なので、旧家の跡取りというような話ではなかったが、
「先代が自殺し、その遺産相続で、これから遺言書が公開されるというところで、その渦中である、いや、一番の中心である長男が殺されるというのは、まるで判で押したような殺人事件ではないか?」
 と言えるだろう。
 殺人事件において、一番最初に考えることとしては、
「この人が殺されることで、誰が得をするのか?」
 ということであった。
 そういう意味では、まだ遺言状が公開される前ということなので、そのタイミングは微妙におかしなものである。
「遺言書に、殺害された人が著しく得をするような遺言だった」
 ということであれば、殺害の動機としては十分なのだが、まだ遺言書が公開されているわけではない。
 もし、これが遺産相続に駆らぬことであれば、
「前もって、犯人は遺言状の内容を知っていたということになるのだろうか?」
 と考えられるが、実際に鑑識が調べたところでは、
「封を開けて中を見た」
 ということはないという。
 だったら、
「犯人は、生前の先代を脅迫するか何かで、遺言の内容を知っていたのではないか?」
 ということも考えられた。
 しかし、そうなると、今度は問題となるのが、
「先日の、先代の自殺というのも、本当に自殺だったのだろうか?」
 ということもクローズアップされることになる。
 ここにおいて、長男の死体が発見されたことにより、
「会社社長子息殺人事件」
 ということになったのだ。
 たぶん、近い将来社長就任の予定であっただろうが、今はまだ、社長ではなかった。
 重役というわけではなかったの、ただの会社員であるが、この戒名のつけ方は、
「先代の自殺から、尾を引いている事件だ」「
 ということを、公表しているようなものだった。
 捜査本部は、K警察署に置かれた。
 県警本部からは、
「古だぬき」
 として有名な、桜井警部がやってきたが、依田島刑事は、この桜井警部が、K警察署で警部補をしていた頃からの付き合いだった。
 だから、面識はあるのだが、それだけに、気合を入れないといけないと思うのだった。
 捜査本部が置かれた中で、まずは、今回の事件のおさらいが行われた、まずは、社長の自殺からであった。
「あの事件は、元々、かたがついた事件ではありましたが、今回の事件と相関性がないと決まったわけではないので、もう一度、確認してまいりました。ただ、実際には、すでに事件性はないということで、会社内での、会社葬、さらに、親族での家族葬が行われ、荼毘に付されましたあので、もう、解剖などということは不可能になりました。ただ、鑑識としては、まったく外傷がなかったことと、カルテによる病気の進行具合、主治医の尋問等により、これ以上はしょうがないということでした。あくまでも、病気を苦にしての自殺。青酸カリを服毒しての自殺ということですね」
 との報告に、
「青酸カリの出どころは?」
 と聞かれて、
「はい、今の会社ができる前、つまり戦前から、あの会社は存続していたようで、戦争中には、軍需工場のような感じだったということです。軍需工場では、戦時中には、虜囚の辱めを受けずという戦陣訓に習って、青酸カリが配られたといいます。その時のが残っていたんじゃないですか?」
 というと、
「それにしても、戦後かなり経っているんだから、そのあたりの管理はしっかりしているんじゃないのか?」
作品名:パンドラの殺人 作家名:森本晃次