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パンドラの殺人

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 この遺言書の内容は、警察にも開示された。
 これが殺人事件でなければ、開示まではいかなかったかも知れない。
 しかし、殺人事件が実際に起こっている以上。黙っておくわけにはいかないだろう。
 さすがに内容までは、マスゴミにばらすことはできない。警察が捜査の上で必要な情報として開示されたのであって、その内容は完全に緘口令が敷かれたのだった。
 警察が見ても、
「何だい、これは?」
 と言われる内容だった。
 一見すれば分からなくもないが、それを見た時、依田島刑事が、
「まるで殺人を予見するような内容だ」
 と叫んだ。
「さすがに、殺しあええとまではいかないが、当事者とすれば、血で血を洗うまさにミステリー小説のような遺言ではないか?」
 まず考えられたのは、嫁の和子が、
「本当は、この家の血族なのではないか」
 ということであった。
 しかしそうなると、
「近親結婚」
 ということになり、
「許されることなのか?」
 と言わざるを得ないだろう。
 近親相姦というと、普通であれば、
「タブーだ」
 と言われるが、ここでは、それほど気にしている家系ではなかったというのも事実のようだ。
「近親相姦というのは、何が悪いんだ?」
 とそもそも、先代は思っていたようである。
「それは、血が交わるということでまずいんじゃないか?」
 という人がいた。
 だが、血が交わることのどこがいけないというのか、昔であれば、
「指が三本しかないような子供が生まれたりする」
 などと言われていたが、本当にそうなのだろうか?
 ほとんど例がない中で、偶然生まれてきた子供にそういう例があったということというだけなのではないだろうか?
 そもそも、天皇家だって、近親結婚もあったりしている。それは、逆に、
「続いてきた血を絶やさない」
 という意味があるからではないだろうか?
 今まで、ミステリーなどでは、結構、近親相姦に関連した殺人というのもあったりしている。
「兄と妹が」
 あるいは、
「父と子が」
 しかも、その子供が、それとは知らずに、異母兄弟と愛し合うようになるなどという、話もあり、それを、
「悪魔」
 という表現で呼んでいるが、そこまで神経質になる必要があるのだろうか?
 そういう意味で、近親相姦に寛容な先代だったが、本人は、
「私は、寛大な性格だからな」
 といって笑っていたが、実際には精力絶倫だったようだ。子供たちの知らないところで、結構、
「お盛んだったりする」
 といってもいいだろう。
 実は先祖には、
「近親結婚が結構あったらしい」
 ということを先代は聞かされていたが、子供たちには話していない。
 意識していないように見えて、実際には一番気にしていたのが、先代だったといってもいいのではないだろうか?

                 大団円

 先代は、近親相姦を気にしていた。それは何も、
「近親相姦が悪いから」
 というのではなかった。
 その逆で、
「近親相姦を気にしている輩が多いと聞くが、何が悪いというんじゃ」
 という意識であった。
 ただ、ある程度まで病気が進んでいることもあって、最期の方は、見ているだけで、お気の毒とさえ言われるほどに、意識が憔悴していた。
 本当にボケてしまったかのように、その言動をまともには信じられないほどになっていたのも事実で、
「先代は、このご遺言を書かれたのは、1年半くらい前になります。皆さんご存じのように、半年前くらいから、先代は考え方も言動もいい加減危ないところまで来ておりました。そういう意味で、いつ、倒れてもおかしくない状態だと、医者からは言われておりました。しかし、先代は、皆さんには言うなとおっしゃっていたんですよ。心配も掛けたくないという意味でですね。いや、もっといえば、その考え方は、この遺言に受け継がれておいでだったのかも知れません。正直、私もこの遺言書の内容は知りません。ご相談を受けたこともございません。だから、読み上げている私は、最期には気を失ってしまうのではないか? と思ったほどでした。皆さんが、先代のことを気遣っておられることも、先代はご存じでした。ただ、これはれっきとした先代のご意思なんです、そのことはしっかりと分かっていてください」
 と、坂下弁護士は、そういうのであった。
 坂下弁護士はそう言いながら、視線は一つに集中していた。
 その視線の先というのが、自分のすぐ横に鎮座している相模氏だったのだ。
 相模氏は、何事もないかのように落ち着いている。正面から見ている家族の人たちは、そんな歪な弁護士の視線に気づかないわけはない。
「どこ向いているだ?」
 という漠然としたものではないだろう。
 本当であれば、家族みんなに話をしているはずなのに、その目線が注がれているのは、相模氏にだった。
 家族の半分が、弁護士を見つめ、その様子を、
「おかしいな」
 と思っているようだが、残りの半分は、その視線の先にある相模氏を見つめていた。
 それぞれの目線は、特徴があった。
 弁護士を見ている人たちは、弁護士に対して、怒りのような表情を向けている。
「このような大切なことを話している時、よそ見をしているとは、どういうことだ」
 とでも言いたげなのだあろう。
 しかし、視線の先に向けられた相模氏を見つめているその目は、
「見つめられているのに、どうしてそんな無意識でいられるんだ? 普通だったら、もっと緊張したり、見つめられることで苦痛を表す表情になってもいいのではないだろうか?」
 という、そんな疑問の表情になっているようだ。
 普通だったら、その視線を、それぞれに定期的に向けている人がいてもおかしくないのに、まるで、
「目線が金縛りに遭った」
 かのように、最初に見つめたその先から、目線を切ることはできないのであった。
 そんなことを考えていると、
「相模氏と、坂下弁護士のこの視線、坂下弁護士からのものだけのように感じるが、顔を向けていないだけで、相模氏も、坂下弁護士を見つめている。だから、一度合わせてしまった目線から、どちらを見ていたとしても、切ることはできなくなってしまったのではないだろうか?」
 と、考えることもできるのであった。
 この場の、主人公でないはずの二人、一人は司会役で一人は黒子に徹しているはずの二人が、逆に自分の役に徹するがあまり、視線の先から、誰もが目を離すことのできない、一種異様な空間を作り上げてしまったのではないだろうか?
 さて、弁護士と、この参謀ともいえる、相模氏の関係は、
「火に油」
 のように見えていたが、実はそれは、まわりを欺く仮の姿だったようだ。
 先代を中心の、
「トロイカ体制」
 まさにその通りだったわけである。
 あまりにもその通りであれば、今度は、まわりが二人に対して疑念も抱かなくなり、
「抑止力」
 が利かなくなる。
 これが、先代の作戦であった。
 そんな状態を作り上げてきた先代が、遺言で、なぜこのようなことを書いたのかということは、もちろん、坂下弁護士も、相模氏も分かっている。本来であれば、今まで必死になって隠してきたことだったのだ。
作品名:パンドラの殺人 作家名:森本晃次