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パンドラの殺人

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「そんなものは、放っておけばいい」
 と思っていた。
 しかし、そうもいかなかったのは、嫁の聡子の存在があったからだ。
 聡子は、清正と違って、貪欲だった。
「殺されたお兄さんには悪いけど、これであなたが、表舞台に立つことができるわね」
 といって、喜んでいた。
 そんな喜んでいる妻を見るのが、清正は嫌だった。
「そんなことはないさ。俺はわき役でいいんだ」
 と言えればいいのだろうが、そんなことをいうと、
「何言ってるのよ。しっかりしてよ。あなたに出番が回ってきたのよ」
 といって、けしかけてくるに違いない。
 けしかけられると、元々楽天的なところがある清正は、そのおだてに乗ってしまうところがあった。おだてられると、乗りやすい性格は、兄にはなかった。兄は、
「石橋を叩いだだけでは渡らない」
 というような、超がつくくらいに用心深い人だった。
 だから、神経質であったのだし、それこそ、
「自分の机に、人が触れたというだけで、いちいちアルコール消毒をする」
 と言ったような、異常なほどの潔癖症だったのだ。
 その性格は、行動だけではなく、精神的にも大きかった。
「勧善懲悪」
 まさにそれを言葉がそのまま性格にも表れていて、
「俺が社長になったら、少しでも、裏での動きを減らしていこう」
 と思っていたようだ。
 そのことを父親に話すと、父親は、
「何を言っているんだ。そんなきれいごとだけで、世の中を渡っていけるわけはないじゃないか」
 というのだったが、それを聞いて、
「そうですね、お父さん」
 と、その時はアッサリと引き下がったが、それは、父の気持ちを試すためだった。
 心の中で、そう思っていたとしても、それを押し隠して、何も言わなければ、
「お父さんもまだ、人間らしいところがある」
 と思っただろうが、少しでも自分に言ったことで、しかも、それが、まるで教科書のような回答だったことで、清秀は、少し幻滅していたのだ。
「俺よりも、厳格だと思っていたのに」
 と思ったが、逆に今度は、
「自分が社長に就任してしまうと、会社を守りたい一心で、父が変わっていったように、自分も、変わるに違いない」
 と考えるようになり、大きなショックを受けることになると思うのだった。
 長男のところは、本人が野心家で、潔癖症なのに、奥さんは、普通の性格で、いかにも、
「一歩下がった、良妻賢母」
 というところであろう。
 ただ、長男も次男も、子供がいない。長男は殺されてしまったので、もう、子供を期待することはできないのだ。
 だが、次男は違う。ここは兄のところとは正反対で、野心家なのは、奥さんの方だった。うだつの上がらない亭主の尻を叩いて、やる気にさせる女房。そんな構図が、柳沢家にはあったのだ。
「長男、次男、長女」
 とそれぞれに、性格も違い、まったく違った性格や、足取りのあった兄弟であったが、父親の四十九日の法要が終わり、一区切りついたのか、柳沢家の一族は、いよいよ佳境に入ってきたのだった。
 当然いきり立っているのは、次男の嫁であった。
「目の上のたんこぶである、長男が死んでくれた」
 と、本人には悪いのだが、
「これからは、私の時代だわ」
 と思わないわけではなかったのだ。
 実際に、今のままいくと、社長の座は、自分の夫にくるであろう。そうなると、自分は、裏から何とでも手を回すことができるからだ。
 しかも、次男の清正は、会社を切り盛りできるだけの、才覚があるわけではない。自分のようなサポートがなければやっていけないだろう。
 とそんな風に思っていると、気になるのが、相模氏の存在だった。
 相模氏の存在は、会社でも、
「公然の秘密」
 当然、聡子が知らないわけではない。
「あの男をいかに利用するかが、今後の問題よね」
 と、考えていたのだ。
 そう、聡子は、義兄である清秀が死んでからというもの、遺産相続というものよりも、いかに会社を自分のものにできるかということの方が頭の中で大きかったのだった。
 そういう意味では、
「長男の清秀への殺意が、遺産相続ということであるとすれば、聡子は、容疑者から外れることになる」
 と言えるのだが、聡子のそんな思惑を知っている人がどれだけいるというのか?
 当然警察の人間が分かるはずもなく、聡子の存在は捜査を進めれば進めるほど、
「黒に近い」
 ということになるのだった。

                 遺言公表

 そんな中にあって、いよいよ遺産相続の内容を公表する場面が訪れた。
 坂下弁護士事務所に集まった面々を元に、全員の顔をいったん見渡した坂下弁護士だったが、その坂下弁護士の横には、相模氏が鎮座していた。
 彼は、先代社長秘書であり、今後もポストが変わることはなく、また、裏工作でも、大きな力を発揮することは分かっているので、誰にも増して、そこに彼が鎮座していることに違和感を感じることはなかったのだ。
 もちろん、意義を申し立てる人は一人もおらず、それよりも、
「早く、もったいぶっていないで、公表してよ」
 と、皆が思っていたことだろう。
 全員が集まったことを確認した弁護士ん坂下は、おもむろに取り出した遺言書を、皆の前に提示し、分かるように、目の前で裏にして表にして、封印が破られていないことを確認させたのだった。
 そして、実際に挟みで封を開けると、その瞬間、真空状態になってしまったかのように、その場はシーンと静まり返る、ツーンという耳鳴りがしたかと思うと、そのせいなのか、唾を飲み込む声が聞こえてきた。
「固唾をのむ」
 という表現があるが、
「なるほど、こういう緊張した雰囲気では喉が渇いてしまうので、自然と、唾を飲み込むという動作をすることになるので、当たり前の表現なんだろうな」
 と感じるのだった。
 弁護士の坂下氏も、若干緊張しているようだった。
 弁護士なのだから、こんな緊張した雰囲気は初めてではないはずなのに、どうしたことなのだろうか?
 やはり、顧問弁護士ともなると違うということなのか、それとも、大財閥といえる柳沢商事というところの大きさなのだろうか。
 それとも、隣に沈砂している相模氏の存在が大きいのだろうか?
 実際には、そのどれもすべてなのかも知れない。
 しかし、坂下弁護士としては、気持ちとして、
「相模氏の存在が一番大きい」
 と思っている。
 正直、裏の部分を一手に握って行動してくれていることは、坂下にとっては有難いことだった。
 弁護士という立場上できないことを、彼がやってくれるからだ。
 しかし、彼はそれをひけらかすことはない。裏の人間なのだから、当たり前と言えば当たり前だが、
「本心は何を考えているのか分からない」
 ということが、余計な気を遣わされてしまい、本職である、
「弁護士という立場を忘れてしまうのではないか?」
 とまで考えさせられるのであった。
 だが、今回は、臆することはないのだ。
「遺言状の公開」
 というのは、弁護士としての、職務としては、重大な仕事である。
 しかも、顧問弁護士なので、実際に遺産相続対象者を皆知っていることになる。ついでに言えば、相模氏にしても同じだった。
作品名:パンドラの殺人 作家名:森本晃次