小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

パンドラの殺人

INDEX|15ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

 そもそも、長女の聡子が嫁に行ったのは、元々、家の方で、
「許嫁」
 のようなものを決めていた。
 令和の時代では、そんな許嫁などというような制度を聞いただけで、
「へそで茶を沸かす」
 というほどに、ちゃんちゃらおかしいというものであったろう。
 しかし、当時は当たり前に存在していた。
 しかも、金持ちであればあるほど、封建的な制度が色濃く残っているものであり、それが、柳沢商事の体質でもあったのだ。
 さすがに、
「そんなの時代錯誤も甚だしい」
 といって、最初は飛び出すように駆け落ちまがいのことをして長女は家を飛び出したのだった。
 長女が家を出た時、まだ先代も若かった。
「親のいうことを聞けないような娘はどこにでも行ってしまえ」
 とばかりの剣幕だった。
 しかし、次第に寂しさがこみあげてきたのか。
「聡子に会いたい」
 と思うようになり、相模氏を使って、探させたのであった。
 相模氏は、会社のことだけではなく、社長の案件もこなすという、社長付けの、
「秘書兼参謀」
 だったのだ。
 そのおかげで、和子の消息も、相模氏がどのようなルートで見付けたのか分からないが、相当素早く見つけてきた。
 半年もかからなかっただろう。さすがに社長も舌を巻いていたが、それだけの情報網と、自分のための部隊のようなものを持っているということであろう。
「やつは、味方であれば、これほど助かることはないが、敵に回せば、厄介なものになりかねない」
 と言えるのではないだろうか?
 長女には、
「何も帰ってきないさいとは言わないので、たまに、社長の話を聞いてあげるくらいしてほしい」
 ということであった。
 さすがに娘も親が気になるのか、
「それくらいなら」
 ということで、一件落着したのであった。
 そんな長女は、実は結婚したことを後悔していた。
 親に対してということと、自分の性格からのプライドで、決して誰にも言わなかったが、相手の男というのは、
「結婚して初めて分かる」
 ということを、たくさん持っている男だった。
 最初の人当たりはとてもよく、元々お嬢さん育ちで、男がどういうものなのかを知らずにいたかすみは、
「結婚したら、こんな人だったなんて」
 と思うようになるとは思ってもみなかった。
 だが、彼女のまわりの女の子は、
「あの男はやめといた方がいいわよ」
 と、つき合い始める時から、忠告していたのだった。
 最初は、
「私が彼と付き合うことになって嫉妬しているんだわ」
 と、完全に男しか見えていなかったということを、自分から証明しているようなものなのに、まったく何も気づいていなかったことで、まわりに対して、
「自分に嫉妬しているからだ」
 という妬みを抱いていたのだった。
 それだけ男を見る目がなかったということである。好きになったのかどうなのかも分からないのに、まわりから言われると、
「嫉妬されているんだ」
 という気持ちになる。
 今までであれば、嫉妬されていると感じると、嫌な気はしなかった。それが、
「お嬢様のお嬢様たるゆえん:
 なのかも知れない。
 つまり、かすみは、
「自分のことしか見ていない」
 ということであった。
 ここまで話が続く中で、旦那のことは一言も出てこない。本当であれば、
「彼は、こういうところがいい人なんだ」
 ということで、紹介すれば、それがそのまま好きになった証拠であり、それ以上、まわりに余計なことを言わせないという気概になるだろう。
 それに、好きになったのが自分だということが分かれば、まわりも何も言わないだろう。それを何かいうということは、
「あの男は好きになるだけの価値はない」
 ということが言いたいのか、
「あなたの目が節穴なのよ。さっさと目を覚ましなさい」
 と言われているのかということを考えてしまう。
 ただ、どちらでもなく、
「ただ、あの男はやめときなさい」
 という言い方をする。
 たぶん、
「今のかすみには、何を言っても同じだ」
 と思ったのだろう。
 だとすると、
「友達から言われて、頭に残る言われ方は、どういう言われ方なのか?」
 と考えた時、抽象的な言い方ではあるが、後から思い出した時、時間が経っているだけに、
「どうとでも取れるような言い方で言われると、相手が何を言いたかったのかということが気になって仕方がない」
 ということになり、そこから先は冷静になって自分で考えられるのではないかと思うからだった。
 しかし、かすみは結婚してしまった。後悔が襲ってきた時に最初に頭に浮かんできたのは、父親である先代の顔だった。
「お父さん」
 と思ってみたが、後の祭りである。
 結婚してからは、あまり夫婦の会話はなかった。
「そんなことは最初から分かっていたことだったわ」
 と考えるが、話をしてみると、どうも、
「男として女の許せない」
 というようなところがあるような感じだった。
 女としても、男の許せないところがあるのはあるのだが、それを相手に言わせないという威圧感があるのだ。
 ただ、それは、迫力ではなく、威圧である。要するに、
「暴力に訴える」
 というような、
「形のある暴力」
 である。
 しかし、夫婦間では、許されるのだ。
 今であれば、コンプライアンスや、DVなどと言って問題になるが、当時は、どうしても、男が強い時代だったのだ。
 泣き寝入りしかなかったのだが、その強欲な部分が、次第に色あせてくるのだった。
 会社では、
「強い人間には、ヘコヘコし、自分よりも立場の弱い人間に大して、威勢を張るのであった」
 そんな人間なので、会社での立場も悪くなり、会社の上の人から、責任を押し付けられる形で、会社を追われた。
 ただの解雇であれば、まだいいが、上司の責任を負わされた、
「トカゲの尻尾切」
 として辞めさせられることになったのだ。
 会社の人は誰も庇ってくれない。それどころか、この時とばかりに、
「新海さんのせいで、俺たちがどんな目に遭わされたか」
 と言い出す始末だ。
 今自分の身に起こっていることは、今まで、自分が部下たちにしてきたことの報いではないか。いわゆる、
「因果応報」
 というやつである。
 その時になって、旦那は初めて気づいたようだ。
 自分がやってきたことが、自分では、
「正しい」
 と思ってきていて、そのためには、まわりの少々の犠牲は仕方がない。
 そんな風に考えていれば、
「お前が今度は会社の犠牲になる番だ」
 と思われて、それで終わりである。
「いい気味だ」
 と皆ほくそえんでいることだろう。
「勧善懲悪の神は、本当にいたんだ」
 と、旦那を糾弾した連中が、まるで神のごとくに。奉っていたに違いない。
 旦那は会社を追われた。
 もちろん、誰も助けてくれるはずがないにも関わらず、それでもすがろうとする。
 自分の親には何度もすがったが、ダメだったという。
「済まない。実査のお義父さんに何とかしてもらえないだろうか?」
 と、
「まさか、今までの経緯から、これだけは言い始めるはずはない」
 と思っていた、
「禁断の一言」
 を口にしたのだ。
作品名:パンドラの殺人 作家名:森本晃次