合わせ鏡のような事件
だが、昔は、確かにいいことではなかったが、犯罪行為だなどという意識はなかった。もっとも、意識のないことが、次第にエスカレートしてくる中で、歯止めが利かなくなり、犯罪が起こるのではないだろうか?
つまりは、
「遅かれ早かれ、いつかは犯罪に結びついていた」
ということになるのだろう。
それが一気に爆発したのが、平成に入ってからの、10年間くらいであると言えるのではないか。
だから、昭和の末期くらいと比べると、今ではいいことも悪いことも、まったく様子が変わってしまったと言えるだろう。
そんな社会において、覗きのような犯罪は、
「可愛い」
といってもいいだろう。
これが盗撮などであり、SNSなどで拡散されてしまうと、取り返しのつかないことになりかねない。
それこそ、プライバシーの侵害であり、今でいう、
「卑劣な犯罪の一種」
を、形作ってしまったといってもいいのではないだろうか。
プライバシーの侵害」
この問題が、一番厄介である。
プライバシーや、個人所法保護の観点」
ということから、何が何でも、情報を得られないということになると、犯罪捜査にかなりの支障をきたすだろう。
例えば誘拐事件などで、一刻を争う時に、個人情報を盾に、犯人だと分かっている相手のことを一切聞き出せなかったことで、結果、取り返しのつかないことになどなると、これは、
「悔やんでも悔やみきれない」
ということになるのではないだろうか?
「犯人が憎い」
というのは、誰もが同じなのだが、
だからと言って、自分のプライバシーが犯されていいというわけではない。
捜査が進まないのはしょうがないのだろうが、当事者はそうはいかない。
もし、それで被害者が殺されてしまい、返らぬ人になってしまえば、残された人はどうすればいいのだろう?
怒りに震えながら、一生を過ごせというのか。
いくら時間が過ぎても、そう簡単に諦めがつくものではない。
日本では、私恨などから復讐は許されていない。江戸時代までは、
「仇討」
などというものがあったが、それも、ちゃんと奉行所に願い出て、その証文を正式に発効してもらい、藩が許しを与えたうえで、藩立ち合いのもと、
「仇討の場」
というものを、正式に設けることでの仇討となるのだ。
当然返討に遭うこともあるだろう。
その場合は、
「気の毒に」
ということで、一件落着となる。
仇討する側に、
「助太刀」
というのもあるが、それも、
「正式な申し出があり、許可した場合」
でしか許されないに違いない。
「昔の封建制度だから」
といって、バカにできるものではない。
今とまったく違い、今では存在しない武士中心の時代なのだ。当然、理解できるわけもない。だから、中世の人間だって、今の時代を簡単には理解できるはずはないのだろうが、たまに、
「昔の人間がワームホールに入り込んで、こっちの時代に来る」
というのがあるが、
「本当にこっちの世が理解できているのか?」
と思うようなことがあるではないか。
ドラマなどでは、結構早い段階で、馴染んでいるように思えるが、文化も考え方もまったく違う、武士がこっちの世で、どう生きるというのか、明治維新の際でも、武士を抑えつけ、反乱が起これば武力で鎮圧するというような、強引なことを押しすすめて、やっと、近代の時代ができあがったというのに、そんな時代を知らずに、本当に理解できるというのだろうか?
まあ、確かにドラマなので、
「そのあたりは、適当で」
と言ってしまえばそれまでだが、本当にそれまでなのかも知れない。
「文化というものを理解するのは、考え方を理解するということだけでも、かなりの労力を必要とするのだろう」
と言えるのではないだろうか。
たった、半世紀でも、世の中が劇的に変わった戦前から戦後にかけての時代に匹敵するくらいの文明の発展に、追いつけるかどうかは別にして、慣れてくるというのがあるわけなので、
「タイムスリップしてきた、昔の武士」
というものに、順応性がありさえすれば、馴染むことも決して無理ではないと言えるだろう。
そもそも、タイムマシンの概念がないだろうから、そこから理解することが大切だ。
普通はなかなか理解できないだろう。人に聞いても、どこまで理解しているか分かったものではない。
理解できていたとしても、理解できているだけで、人に説明できるだけのバイタリティがあるかどうか。
科学者であっても、
「理屈だけでは理解することはできない」
と思っていることだろう。
それを考えると、
「今の世の中、いきなり飛び出してきた人間がいるとすると、どこから理解できるのかということを考えるのが先決であろう。将棋や囲碁でも、最初にどこに打つかということが、一番の問題なので、そこから始まるといってもいい」
と言えるのではないだろうか?
そんなことを考えながら、当たりを探っていると、
「あっ」
という声が聞こえ、二人は、そこに何かが転がっているのを見つけた。
「何、これ?」
大きさからいうと、巨大な黒い物体が転がっている。
石というには大きすぎるし、黒い物体というもの、石としてはおかしい。よく見ると、女は、それが何か分かったようだが、それを口にするのを怖がっていた。
男の方は、完全に震えていて、震えが止まらない様子だった。
「ここは私がしっかりしないと」
と女の方がそう考えた。
割り切れたのか、開き直ったようだった。
割り切れたというわけではなく、そこに転がっているものを認めようという考えが、認めたくないと思っている男と、決定的に違っていた。
「これでは、SMの関係がまったく逆ではないか?」
と言えるのではないだろうか?
それは、最初に女の方が分かった感覚で、男は、そのことも認めたくない。
まわりに認めたくないことが転がっているくせに、必死に認めたくないと思うことで、最終的な判断が遅くなったり、見誤ってしまうと、自分でも感じていた。それだけ、自主性に欠けるのかも知れない。
「それで、ご主人様とは、へそで茶を沸かすようなものだ」
と言えるのではないだろうか?
しかし、よく見てみると、そこに転がっているのが、堅いだけのものではないことが分かると、女がゾッとしたように、後ずさりした。
それを見て、男が勇気を出して覗いてみると、
「ぎょっ」
といって、それ以上、何も言えなくなったのだ。
「どうしたの?」
と女が聞くと、男は女の顔を見て、助けを求めるかのようば目をしたかと思うと、
「イヤイヤ」
するかのように、顔を必死で、横に振っていた。
明らかに、
「今見たことを、なかったことにしたい」
とでも言いたげであった。
「とにかく、まず、警察よね」
と女性は言った。
男はそれでも、戸惑っている。
いや、男はパニックになっていたが、実はすぐに正気を取り戻していた。あまりのことに一瞬、
「逃げ出そうか?」
と思ったくらいだが、すぐに我に返った。
作品名:合わせ鏡のような事件 作家名:森本晃次