合わせ鏡のような事件
きっと、これは、誰もが感じることなのだろうが、どこがどのように変わっているのかということを指摘できる人は果たしているだろうか?
そんな風に考えるのだった。
だが、やはり、直感だった、
「昭和の刑事」
というのは、あながち間違っていないような気がする。
「的を得ている」
といってもいいだろう。
顔もよく見ると、強面の雰囲気が、
「刑事かやくざか」
と言われても仕方のない人相だ。
実際に、暴力団関係の刑事は、
「強面の人が多い」
と言われている。
実際にそうなのだろうが、皆が皆そうではないような気がする。警察の人事は一体どうなっているというのだろうか?
そう、片倉刑事は、〇ボーのようではないだろうか?
片倉刑事は、やたら、梶原を意識している。
「何かを言いたそうにしている」
という雰囲気は感じるのだが、何が言いたいのかは、正直分からなかった。
もっとも、その相手である梶原に分かるというのも難しいもので、
「自分の顔は、鏡や水面の媒体を使わないと、映すことができない」
というのと、同じことであろう。
ただ、刑事は、こういう時、
「相手に悟られないようにする」
というのが大切なことではないだろうか?
それを分かっているから、刑事は、何を考えているかを相手に悟られないように、いつも難しい顔をしているのだと、梶原は思っていた。
実際に、父親からも、子供の頃、似たような話を聞いたことがあった。
父親の世代は、見事に昭和の刑事ドラマを見て育った世代である。
熱血根性ものも、再放送で見たりしただろうが、テレビドラマとして、
「二時間サスペンス」
と呼ばれるようなものが、毎日のように放送されていた時代が懐かしい。
ちょうど昭和の終わり頃から、平成の中盤くらいまでがその放送時期であろうが?
最盛期というと、昭和の終わりから、平成の序盤くらいであろうか?
「二時間ドラマの帝王」
であったり、
「二時間ドラマの女王」
などという俳優も生まれたりした。
また、数年前くらいには、パチンコ台になったりもした。ストーリーリーチなどでは、おなじみの断崖絶壁のところで、主人公が、事件を解決するシーンがあるが、そこが、ちょうどリーチの場面になっていた。
「言い当てた犯人が、自白すれば、大当たり」
というようなことではないだろうか?
それを思うと、2時間サスペンスというのは、
「ギャグとしても面白いのかも知れない」
と感じるのだった。
そんな二時間ドラマの時代というと、いわゆる、
「安楽椅子探偵」
と呼ばれるものが流行り始めた頃だった。
これは、それぞれのシリーズで出てくる探偵が、異色な職業を持っているというようなもので、何が走りだったのかまでは思い出せないのだが、有名なところとして、
「ルポライター」
が探偵だったりするあのシリーズですね。
異色としては、
「家政婦」
というパターンもある。
殺人事件などではないが、それなりに事件性があるもので、気取らずに見ることができるということで、好きな人は嵌って見ることだろう。
それを考えると、
「安楽椅子探偵」
というのは、単発でもできるし、
「シリーズ化」
ということもできるのだ。
「法医学探偵」
などというのもあったりして、医学からの探偵もいたりするので、それは別の切り口から見ることもできて、多面性に満ちていると言えるであろう。
つまりは、医学的な観点からの斬新な謎解き、さらにオーソドックスに、犯人の動機や立場を突き詰めていく。その時に、誰かパートナーでもいれば、事件解決にはスピード感が増すだろう。
そんな時、
「主人公の旦那が、刑事」
というパターンもある。
だからと言って、
「パートナー」
というわけではない。
何と言っても、刑事というのは、
「勝手に動くことができないからだ」
というところに戻ってくるのだ。
ただ、ストーリー展開としては、旦那が刑事だというのは、ストーリー的には面白い。旦那は建前では、
「危険なことをするな」
と戒めているが、心の中では本当に心配もしているのだ。
さらに、表立って協力はできないまでも、ヒントのようなものを与えることもできたりして、結果的に、
「夫婦で事件を解決した」
ということだって、結構あっただろう。
そういう意味で、似たようなシチュエーションであっても、職が違うだけで、いろいろなバリエーションができるというものだ。
刑事が探偵であったり、泥棒が探偵であったり、何でも探偵になるから面白い。
中には、
「探偵であるということがバレないように、捜査をする難しさ」
というような、安楽椅子探偵もあるのではないか?
それを思うと、結構楽しくなってくるのだった。
しかし、今回のような事件では、そんなことは言っていられない、
「何か、この刑事は、明らかにこの俺を意識している」
と感じたからだ。
今までに、刑事という人間にかかわりがあったことはない。いくら父親が探偵だといっても、刑事に知り合いがいるわけでもない。
もし、父親の知り合いに刑事がいたとしても、息子を合わせたりなどはしないだろう。なぜなら、
「探偵というような仕事をしていれば、刑事と同じで、いつ誰から恨みを買うか分からない」
ということを、父親は以前から言っていた。
だから、仕事関係の話を家ですることもなかったし、よほど何か気を付けなければいけないことでもなければ、話題に出ることもなかった。
それを思えば、探偵と刑事は、ある意味、
「水と油」
なのかも知れないのだ。
刑事というと、子供の頃から、どうしても敵対して見ていたのだが、そのせいだったのかも知れない。
そういう目で見ていたので、睨まれているという感覚になったのかも知れない。
それはあくまでも妄想であり、決して刑事が睨んでいるわけではないのかも知れない。しかし、すぐに女が耳元で、
「あの刑事さん怖い」
といって、心底怯えているのが分かると、梶原も、最初の思いにウソはなかったのではないかと思うのだった。
ここでは父親が出てきているわけではないのに、なぜか、今のこの状況で、父親の圧が強く感じられるのはなぜであろうか?
そんなことを考えると、どこからか、言い知れぬ強い視線を感じ、思わずあたりを見回してみた。
それを見た片倉刑事が、
「おい、どうしたんだ? 何かいるのか?」
といって、一緒になって、当たりを見渡している。
その表情は先ほどまでと違い、どこか、怯えがあるように見えるのだった。
「あ、いえ、別に何も」
と言ったが、片倉刑事も何か気になっていると思うと、余計に不気味な感じがした。
何もないのに、何かがあるかのように思うというのは、気持ち悪いもので、しかも、それが相対している相手も同じ思いがあるというのは、それこそ、不気味であった。
そんな中において、もう一人の刑事が奇声を上げた。
「あそこで誰かがこちらを見ていたような気がしたんですよ」
というではないか。
作品名:合わせ鏡のような事件 作家名:森本晃次