小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

合わせ鏡のような事件

INDEX|16ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 そんな父親が、そういえば、昨日少しおかしかった。普段はほとんど表で呑んでくることなどないのに、その日は、酔っぱらって帰ってきた。
 運転代行の車に乗って、車を運んでもらったようだが、
「どうしたんだい?」
 と聞いてみると、父親は何も言わずに、自分の部屋に引きこもり、カギをかけて、どうやらそのまま眠ってしまったようだ。
 その時の父親の顔は完全に、梶原を睨みつけていた。
「俺が一体何をしたんだ?」
 と思ったが、すぐに顔を背け、明後日の方向を見ると、睨みつけている表情に変わりはなかった。
「俺を睨みつけていたわけじゃなかったんだ」
 と、思った。
 正直、父親がどれだけ飲んだのか分からないが、それほど飲める人ではないはずだ。
 ちょっと飲んだだけでも、べろんべろんに酔っ払い、どこにでも、構わずに寝てしまうほどだった。
 自覚があるだけに、
「お父さんは、決して表で呑んでくるひとじゃないんだけどね」
 と母親も言っていた。
 父親が探偵として、どれほどの手腕なのかは、よく分からない。
 何しろ、私立探偵というもの自体が、ほとんどないといってもいいだろうから、比較対象がないのだ。
 だから、ある意味。
「誰も頼むところがないから、お父さんのようなところにでも頼むしかないのさ」
 と、言って笑っていた。
 完全な独占企業だと思っているようだった。
 それがいいのか悪いのか正直分からないが、確かに依頼はあるようだった、
ただ、依頼と言っても、大きな事件などはない。
「浮気調査」、
「行方不明者の捜索」
 などである。
 要するに、警察が立ち入れない、民事関係のことがほとんどなのだ。
 何しろ、警察は、
「民事不介入」
 いくら分かり切ったことでも、動いてはくれないのだ。
 だからこそ、刑事事件であっても、
「警察は、事件が起こらないと何もしてくれない」
 というわけだ。
 その一番というのが、
「ストーカー事件」
 であろうか、
 ここ20年くらいの間に起こり始めたストーカー事件は、誰かが殺されたり、けがをさせられたりしないと動かない。下手をすれば、傷害事件くらいでは、警察は真剣に動いてはくれない。
「今度は殺されるかも知れない」
 といって、訴えても、
「警備を厳重にしますから」
 というだけで、パトロールの回数を増やすくらいのことしかしてくれないのだ・
 だからと言って、
「何をすればいいのか分かっているわけではない」
 というのが、警察の言い分であろう。
 また、行方不明者の捜索であるが、これも、警察は、
「人がいなくなった」
 というだけでは動いてはくれない。
 事件性がなければ、いくら、捜索願を出したとしても、警察は真剣に捜査などしてはくれないのだ。
「自殺するかも知れない」
 といっても、動かないだろう。
 せめて、遺書くらいが残っていれば、ひょっとすると探してくれるかも知れないが、そのあたりも、決して警察を信用してはいけないのだ。
 今でこそ、ネットが普及しているので、そのあたりのことは、公然の秘密となっていて、ネットには、ハッキリと、
「警察は事件性がなければ、捜索願を出しても、捜索はしてくれない」
 と書いてある。
 行方不明でそうなのだから、何かを無くした程度では、気にも留めるわけはない。誰かが故意に盗んでも、
「盗んだもん勝ち」
 というものである。
 だから、探偵というものがあるのだ。
 警察に相談しても、なかなか腰が重かったり、ひどい時には、まったく動いてくれない場合がある。
 例えば、捜索願を出す場合などもそうだ。
 もちろん、その人の生存確認をすることで、
「安心したい」
 という、精神的なこともあるだろう。
 しかし、探偵に相談して捜索してほしい時は、そういう感覚ではない。そもそも、事件性のあることであれば、警察でも捜索はしてくれるだろう。しかも、警察の捜査の方が、明らかに早いからだ。
 何と言っても、警察には、組織力がある。組織を持って捜索すれば、それに勝る者はない。全国に手配することもできるだろう。
 さらに、警察には、
「捜査権」
 というものがあり、これは民間探偵にはないものだ。
 警察手帳を見せれば、それだけで、捜査も進む。さらに、犯罪が関係しているかも知れないと思えば、裁判所に願い出て、捜査令状を貰うことで、家宅捜索というようなことまでできるのが、警察の力であった。警察の、
「組織力と捜査権」
 という力は、あなどりがたく、
「日本の警察は優秀だ」
 と言われていた時代もあったくらいなので、今でも、そこは変わっていないだろう。
 ただ、それは、
「刑事事件にかかわる事件性」
 というだけのことである。
 そうでなければ、警察は、
「一切動かない」
 といってもいいだろう。
 そんな警察をどこまで信じればいいというのか、民事関係になると、もう民間探偵に頼るしかない。
 だから、浮気調査、行方不明者の捜査などということが、多いのだ。
 それでも、一応、探偵は引き受ける前に、
「警察に、一応の相談だけはしてください」
 とはいうだろう。
「行方不明になった人がいる」
 ということを証明するために、警察にも、証拠を残すということであろう。
 行方不明者の捜索で、警察が、
「事件性はない」
 つまり、急いで探さなくても、
「ただの家出ですぐに帰ってくるだろう?」
 と思っているのは、もちろん、
「自殺もない」
 という考えである。
 しかし、捜索願を出す人間にとっては、切実な問題である場合がある。
 それは遺産相続に絡む場合だった。
 その場合は、一刻も早く探し出す必要がある。しかし、
「民事不介入」
 という原則がある以上、相続が民法上のことであるので、完全に不介入となるのだ。
 また、浮気調査においても同じである。
「夫婦喧嘩は犬も食わない」
 と言われているが、まさにその通りだ。
「浮気が本当であれば、離婚も辞さない」
 ということで、探偵にお願いして、できる限りの証拠を集めようとする。
 それは、離婚の話し合いにおいて、慰謝料問題や、その他の財産的な問題などに大きくかかわってくるからだ。
 子供がいたりすると、親権問題、さらには、養育費の問題と、子供の問題も大きかったりする。
 慰謝料を払いながら、子供を養うというのは難しい場合、養育費が関わってくる。どこまで可能なのか、調べるのも探偵の仕事になるのだろうか?
 弁護士との兼ね合いもあるだろうが、少なくとも探偵は証拠集めを行い、その証拠を元に、訴訟などの法的抗争に入ると、そこから先は、弁護士の仕事になるのだろう。
 主にであるが、父親のような民間探偵に来る捜査というのは、そういうものがほとんどである。
 そうなると、大きな仕事は、証拠探し。あるいは、足取りを追うということで、尾行や張り込みなどという。昭和の時代を彷彿させるものであろう。
 だが、探偵というと、どうしても小説の世界での話になってくる。
 日本でも、戦前戦後に活躍した探偵たち、これまでに、何度も映像化され、そのたびにブームとなり、一度は絶版になった文庫本が、また復刻してくるという、
「いいものは、色褪せない」
作品名:合わせ鏡のような事件 作家名:森本晃次