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忌み名

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 それだけ、弘前家というのは、
「臨機応変」
 で、機転の利く、元華族だったのだろう。
 だからこそ、今も、
「財閥系」
 としてやってこれるのであり、日本という国に、今でも君臨できているのだった。
 しかし、今回の誘拐事件は、完全に、
「寝耳に水」
 と言ったところで、まったく予期できることではなかった。
 それに関しては、執権を責めるわけにはいかない。とにかく、まず執権のいうことを聞いて、いかに、事件を解決するか? いや、娘を無事に返してもらえるかということが先決なのであった。
「警察に相談した方がいいんだろうか?」
 というと、執権も少し考えていたが、
「そうですね。とりあえずは私の方から話をしてみましょう。状況を説明してきます。警察が、介入やむなしということであれば、それも仕方のないことだと思いますので、そのあたりの警察の事情も、私の方で確認してきます」
 と、執権がいうのだった。
 今まで、何をおいても、執権のいうことに間違いはないとして、安心して任せていたのだが、今回は命に係わること、しかも、その命というのが、大切な孫娘であった。社長の方も気が気でないということは、あからさまに分かるのだった。

                 営利誘拐の果て

 警察に行くと、誘拐専門の部署に、執権は通された。そこには、専門家というべき部隊が揃っていて、相談に行くと、
「相談に来られたのだから、警察が何もしないというわけにはいかないんですよ。もちろん、誘拐された被害者の救出が一番なので、ここから先は、専門家である我々に任せていただきたい」
 ということであった。
 当然、警察の上の方にも事情が話され、
「すべてを、極秘に」
 ということで、捜査が勧められることになった。
 まずは、昔のように、逆探知の装置が用意されたが、実際には、今の時代、ケイタイであったり、スマホであったりと、昔とは連絡方法も違っているので、警察の方もいろいろ考えるところがあるだろう。
 ただ、スマホなどでは、GPSなどもあるので、警察の機械がどこまで相手を特定できるかということを考えると、犯人としても、誘拐というのは、リスクが高い犯罪なのではないかと考えるのだ。
 しかも、誘拐というと、捕まった時の罪が結構重いことを考えると、こちらもリスクが高すぎるというものだ。
 それなのに、誘拐をするということは、警察側の刑事が考えるに、
「身代金要求というよりも、どちらかというと、もっと奥の深い、そう、復讐が動機としてあるのかも知れない」
 とも考えていた。
 誘拐というのが、そもそも時代に合わない。確かに、切羽詰まってお金が必要な時は、リスクを犯してでも、誘拐だったり、強盗などが手っ取り早いのだが、誘拐などは、基本目的は、身代金である、
 そもそも、誘拐のリスクで一番の問題としては、
「一番逮捕される可能性があるのは、身代金の受け取りの場面である」
 と、よく言われているではないか。
 これは、隙という問題で、
「まるで将棋の世界の話のようではないか?」
 と言えるであろう。
「将棋で、一番隙のない布陣というのは、どういう布陣であるか、分かるかい?」
 と言われ、それに答えた内容として、
「一番隙のない布陣というのは、最初に並べたあの形なんだ。だから、一手打つごとにそこに隙ができる」
 というもので、つまりは、一種の、
「マイナス思考」
 と言えるだろう。
 さらには、そのマイナス思考に合わせて、
「攻撃を仕掛ける時に、どうしても守りに穴ができる。そうなると、その守りの穴がそのまま隙ということになる」
 ということである。
 誘拐も、それまでは必死にバレないようにしていても、身代金を受け取るという、目的達成が近づくと、それまでいくら警戒をしていても、わずかな隙が生まれ、それが警察にとって唯一で実に、
「限りなくゼロに近い」
 と言われる可能性の中で、警察も必死なのである。
 それだけに、犯人のちょっとした隙が下手をすると、警察の視線と重なってしまうと、案外簡単に逮捕されるものなのかも知れない。
 それだけに
「身代金を受け取る瞬間が危ない」
 と言えるのではないだろうか?
 それを考えると、犯人のリスクは、本当に高いと言えるのではないだろうか?
 警察は、弘前家にやってきて、いろいろな装置のセットをしたが、その間、誰も無口で、緊張感だけが漲っていた、
 さすがの、弘前家の面々も、皆顔が青ざめていた。
 といっても、弘前家では、当事者以外に家族がいるわけではない。しいていえば、誘拐されたつぐみの母親は、かなり狼狽えていた。
 どちらかというと、富豪の奥さんにありがちの、
「世間知らずの奥さん」
 だったからだ。
 奥さんは、とりあえず、興奮状態ということもあり、医者に鎮静剤を注射してもらい、しばらく眠ってもらっていた。
 その間に、犯人からの要求を待つことになったのだが、その間というのは、実に長いもので、
「数時間は経っただろう?」
 と思っていても、
「まだ30分も経っていない」
 などということも当たり前にあった。
 だから、実際には、この時点で、
「拷問」
 だったのだ。
 そんな拷問を受けなければいけない時間を過ごし、帰ってくるかどうか分からない相手を待ち続けるのが、どれほどの苦痛なのか、それが問題だった。
 考えるだけでも、ぞっとすることなので、警察を含めたその間、精神的にかなりやられてしまい、寿命が数年縮んだといっても過言ではないだろう。
「これも犯人の狙いか? そう考えれば、本当に身代金目的なのかも疑問だ。復讐なのかも知れないな」
 と刑事が考えたが、逆に、
「それなら、何も誘拐などという方法でなくても、他にいろいろやりようがあったはずだ」
 と言えるのではないだろうか。
 誘拐というのは、やはりそれだけ、
「まわりを巻き込む」
 という意味でも、理不尽な犯罪だ。
 それを考えると、誘拐捜査と言いながらも、刑事は、誘拐自体を、疑ってかかっている節があった。
 さすがに狂言は考えられないと思ったが、
「どうも、単純な誘拐事件ではないような気がする」
 とも考えたのだ。
 ただ、それには、あまりにも、何も分かっていない。
 誘拐というのも、ポストに、
「娘を誘拐した」
 という手紙が届いていたという、アナログな形での事件の発覚だった。
 だから、本当に誘拐なのか分からないが、正直、手紙が届いたその日から、娘が行方不明になったのも事実で、それを調べようとしても、いくら財閥系の金があるといっても、捜査能力には限界がある、
 当然、警察のような、捜査権がなければ、どうしようもないのだ。
 民間であれば、探偵であっても、警察権がなければ、何もできない。それが、
「法治国家」
 というものだろう。
 だから、警察に相談したのだが、警察には、執権のような、手放しに信用できる人がいるわけではない。
 確かに、警察上層部を動かして、その捜査を最優先で行うことはできるだろうが、こと、誘拐ともなると、
「人の命に係わる」
 という、デリケートな部分を孕んでいる。
「それを考えると、
作品名:忌み名 作家名:森本晃次