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忌み名

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 スキャンダルになるくらいであれば、キチンと認知し、養育費も払う。そのどちらも、そんなに痛手ではなかった。それくらいのお金は弘前財閥から出ているし、普段表に出るわけではないので、執権が外で女を作り、子供を作っていたとしても、別に問題になるわけではなかった。
 弘前財閥は、きれいな商売をしていた。
 それは表から見ていて、そう思われるだけなのかも知れないが、それだけではないだろう。
 それが、
「執権:柏田家」
 の面目躍如たるものだった。
 ただ、息子である誠一は、母親に対して、日陰に押しやった父親を許すことはできないと思っていた。
「父親自体が決して表に出るわけではないのだから、そんな父親に奥に追いやられた母親は、一体どうなるというのだ?」
 ということであった。
 母親が死ぬ時、
「後は、お前の好きに生きなさい。お前はもうそれができる年齢にもなったし、それだけの資格があるんだ。私はこのまま死ぬけど、心残りは父親のこと」
 といって、こと切れたのだった。
「おかあさんは何が言いたかったのだろう?」
 という思いが誠一の中にくすぶっていた。
 くすぶっているだけに、次第に不安になる自分を感じていた。
「ただでさえ、お母さんが死んで、心細いのに」
 と思っていた。
 何を言いたかったのか、想像もつかないが、母親は言ったではないか?
「お前の好きなようにしていい」
 とである。
 そこで、誠一は、何か思うところがあった。そして、最初はつぐみに近づいたのだが、つぐみという女性は、
「いかにも、財閥というお金持ちの家の家族だ」
 と思った。
 誠一には、妹がいた。
 その妹は、誠一よりお5つ年下だったのだが、今の誠一が、28歳だが、
「生きていれば、23歳になっているよな」
 と思っていた。
 そう、
「生きていれば」
 という問題があるのだ。
 妹は、母親が、自分を生んでから育てるために、勤めた小料理屋で主人をしていた人との間にできた子供だった。
 しかし、今度はキチンと結婚した相手の子供だから、普通に幸せに生まれた妹だったのだ。
 そんな妹のだったが、せっかく結婚した母親だったのだが妹が中学二年生の時、離婚した。
 すでに、誠一は高校を卒業して就職していたので、母親から、
「お義父さんと離婚しようかと思うんだけど」
 と相談を持ち掛けられたが、
「もう、俺はどっちでもいいよ。俺に相談するよりも、妹の心配をしてあげた方がいいんじゃない?」
 といわれた。
 母親は、
「誠一はそう言ってくれると思ったわよ。でも、好きなようにしていいといわれることが一番辛いということを覚えておいた方がいいよ」
 と言ったが、母親が死の間際に、
「お前は自由に生きればいい」
 と言ったのと同じ口がいうのかと思う程であった。
「死の間際のたわごとのようなものではないか?」
 といってしまえばそれまでだが、実際にどうなのか分からない。
 本心から、息子に、
「自由にしなさい」
 と言いたかったのか、それも、自由にするという無限の可能性や選択肢があることを、病の床で意識すらできなかったのかも知れないと思うのだった。
 ただ、息子としては、
「母親のたわごとだ」
 と思いたかった。
 だが、後から思えば、母親の言ったことは至極当然のことであり、それに抗うことはできないような気がするのであったのだ。
 しかし、先ほど妹のことを、
「生きていれば」
 と言ったのだが、
 あれは、両親が離婚してからのことで、彼女が短大に入学した年、大学の友達と、山へキャンプに行った時のことだった。
 池でボートを漕いでいたということなのだが、ボートが転覆し、三人が池に放り出されたのだが、その中に妹もいたようで、助けられはしたが、その中で妹だけが、水をたくさん飲んでいての水死だったというのだ。
 だが誠一も母親も信じられなかった。
「妹は泳ぎは達者だったはずなのだ。少なくとも、もっと抗うはずである」
 と思ったのだが、警察の検死報告としては、
「抗った様子は見られない。池に投げ出されて、身動きが取れない状態で、結局水を飲んでしまい、動けなくなったのではないか?」
 ということであった。
 だが、いくら水をたくさん飲んだからといって、簡単に死ぬわけはないということから、
「そこに何かある。他の人の証言も聞いてみたい」
 と思っているようだった。
 その時の状況を警察にもう少し捜査してもらうように話をしたが、警察は、
「十分に捜査した」
 として、それ以上動こうとはしてくれない。
 これが、他人事であれば、
「やはり警察は自分から動こうとはしない」
 普段は何かが起こってからしか動いてくれないくせに、実際に何かがあっても、必死には動こうとしない。通り一遍の捜査をやっただけで、やったということを示しているだけなのだ。
 警察というところは、国家権力に弱く、そして、一般市民に対しては、まるで公務員のごとくである。
「俺たちはできるだけのことはやった」
 という証拠らしいものを提出すれば、あとはどうでもいいという考えだ。政治家と一緒で、
「自分たちさえよければいいんだ」
 ということではないだろうか。
 警察というところは、本当に縦割り社会で、横のつながりが縄張り意識があって、どうしようもない。
 そんな組織だからこそ、何かあっても助けてくれるわけではない。
 政府だってそうだ。
 数年前に起こった、
「世界的なパンデミック」
 だって、確かに最初は、国家が主導して、書く自治体から、緊急事態宣言の発令などを行ってもらいたいがために、何とか努力をしていたが、そのうちに、
「経済も回さないといけない」
 などと言って、感染が爆発し、医療がひっ迫し、さらには、崩壊しているにも関わらず、
「表ではマスクを外してもいい」
 などといい、お盆などの民族が移動する時にも、行動制限を掛けようとしない。
 しかも、国家の中心であるソーリが、何と自身の夏休み中に、感染するという、実に情けなく恥ずかしいことになっているのに、それでも、まだ、体勢を治そうとはしない。
 つまり、
「自分の命は自分で守れ」
 といっているに過ぎないではないか。
 つまりは、
「国は、お前たちを縛ったりはしないが、それで蔓延して死んでも、国の責任ではない」
 ということが言いたいのだ。
 確かに、元々国家がいろいろ動いてくれて、もちろん、お粗末な政策があったこともあったが、それでも、
「国民を救おう」
 という気持ちが見えた。
 その代わり、あからさまに、自分たちの利益を追求するやり方を取っていたりするので、腹が立つのだが、それでも、国家として、国民を盾に逃げ出そうとするような、ひどいことはない。
 昔の戦争では、腰抜け将校のいるところでは、一般市民を盾にして、逃げようと考える輩もいたようだが、今の政府は、その連中とほぼ変わりない。露骨なことをしているくせに、姑息にごまかそうとしている態度が情けないのだった。
 そんなことを考えていると、
「今回の犯罪捜査をする警察も、完全にやる気がないのが分かり切っていて、一人でもやる気のある人がいても、すべてをやる気のない人間の、
「多数決」
作品名:忌み名 作家名:森本晃次