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忌み名

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 同じような人気の女の子たちは、皆すでにベテランとなっていて、年齢も少々高めだったので、ちょうど新しい看板になる子がほしかった店からすれば、つむぎは恰好の女性であった。
 もちろん、ホームページやパネルでは、目だけは出していたが、顔が分からないように加工している。
 いわゆる、
「パネルマジック」
「パネマジ」
 と呼ばれるものであった。
 それでも、つむぎの容姿は、
「逆パネマジ」
 と呼ばれ、
「他の女の子たちと比べても、全然見劣りしない」
 というものであった。
 実際には、
「容姿よりも、性格重視」
 というのが、この店の売りだったようだが、つむぎの場合は性格もテクニックもレベルが高く、さらには顔も端正で、申し分ないとすると、売れるのも当たり前というものだ。
 中には前のソープの頃の彼女を知っている人もいるが、
「まったくの別人になってしまっている」
 といわれていた。
 要するに、別人ではあり、きれいになっているのだが、前の彼女を知っている人は、つむぎを指名しようとはしない。
 実は、この男も、昔のつむぎを知っていた。お客として入ったこともあり、それは一度だけだったのだが、入った感想としては、
「可もなく不可もなく」
 ということだったようだ。
 だから、再度リピートするところまではないと思い、彼女のことを忘れていたのかも知れないほど、まったく接点がなかったのだ。
 だから、男は、つむぎが前の店を辞めたことも知らなかった。
 辞めたのを知った時、彼女のことが急に気になり、どこに移ったのかということを、必死で調べたものだった。
 それで移った場所を分かったのだが、必死になって探したわりに、指名しようと思わなかった。
「どこにいるかということが分かっただけで、それだけでよかった」
 という思いに至ったのであった。
 つむぎとすれば、彼がどんな男だったかということを覚えているはずもないし、彼にとっても、つむぎを意識しているわけではなかった。
 それなのに、どうしてつぐみを気にするようになったのかというと、
「知っている女性に名前が似ていた」
 ということからであった。
 その女性を好きだったのかといわれると、
「好きだったというよりも、憎んでいた」
 と言った方がいいかも知れない。
 その女性は、実はこの間殺されたつぐみであった。そう、弘前つぐみである。
 弘前つぐみが誰の手で殺されたのかということも警察にも誰にも分からなかった。
 だが、警察の方で捜査が続けられる中で、一人の男が捜査線上に浮かんできたのだが、その男は名前を柏田誠一という。
 柏田誠一という男は、弘前家にではなく、つぐみに対してだけ、恨みを抱いていたのだった。
 ただ、この誠一という男、ハッキリとその正体が掴めていない。母親は父親がハッキリしない子供を産んだということだった。
 最初は、結婚した相手との子供だということだったのだが、旦那が、子供の生まれた日にちや何かで、結婚前の子供だということを知ったようだったのだ。
 二人の結婚は、まわりからせかされての結婚だったのだが、それをせかしたのは、どうやら、執権夫婦が絡んでいるようで、ウワサとしては、
「執権家の旦那が、手を出したのではないか」
 といわれたようだが、
「根も葉もないうわさだ」
 ということで、処理された。
 だから、柏田誠一の出生の秘密も、語られることはなかったという。
 母親は、すでに他界していて、今では、柏田一人、一般企業に就職し、普通に生活をしていた。
 しかし、いつもどこかから仕送りがあるようで、銀行の柏田の口座に、
「生活費」
 ということで、振り込まれていた。
 その生活費を送ってくる相手に心当たりはない。もちろん、母親は知っているようだったが、その人がどこの誰なのか分からなかった。柏田は聞くつもりもなかったし、
「母親が死んだ後なので、助かる」
 という、
「背に腹は代えられない」
 という意識もあった。
 そんな、
「あしながおじさん」
 ではあったが、心の中では、
「きっと、育ての親なのだろう」
 と思っていた。
 養育費であれば、20歳まででいいのだろうが、やはり母親に対して、
「悪いことをした」
 という思いがあるからなのだろうか、今でも送り続けているようだ。
 実はそれを送り続けているのが、現在の執権だった。
 彼の苗字も柏田といい、誠一の母親は苗字を、
「城田」
 と言ったのに、自分が、
「柏田」
 というのを名乗っているというのをおかしいと思いながらも、次第に、
「これが父親の苗字か」
 と思うようになった。
 父親が認知してくれているとのことであったが、自分から頼っていくつもりはなかった。母親も、
「それだけはやめてほしい」
 と思っていたのだろう。
 しかし、思ってはいたが、誠一には決して、
「お父さんに会いたいなんて思わないで」
 と言いたかったのだが、どうしても言えなかったのだ。
 そんなジレンマを抱きながら、母親は病気で死んでいった。
「一生、抱えたジレンマであれば、この俺が、今度は地獄まで持っていってやる」
 と、母親の墓前に誓ったくらいだった。
 そういう意味で、
「せめて、母親は、父親の姓を名乗らせてあげたかったのだろう」
 と息子に感じていたのかも知れない。
 息子は、
「どっちでもいい」
 という思いの中で、
「母親が死ぬまでは、このまま柏田でいよう」
 と思った。
 しかし、母親があっけなく死んでしまうと、柏田は、
「苗字のことなど、どうでもいい」
 と思うようになっていた。
「おかあさんは、俺にどうしてほしかったのだろう?」
 と、父親に関しては、まったく意識していないような母親だったが、認知のこと、そして、養育費のことに関しては、かなり尽力したということだった。
 柏田家の方でも、弘前財閥の執権として、いくらナンバー2とはいえ、その実力は、
「国家でも動かせるのではないか?」
 と思うほどの実力だったが、性分が、そもそも、
「表には出ない」
 というものだっただけに、よほどのことがなければ、表情を変えることもなかった。
 それだけに、
「彼が顔色を変えるくらいだったら、相当なことだ」
 といわれるようになったのだ。
 それは、当主の弘前氏が一番よく分かっていて、
「やつほど、執事、執権にふさわしい人間はいない」
 といっていた。
 彼は、
「当主の立場が悪くなった時には、自分が表に出て、その攻撃を防ぐ」
 ということや、
「裏の汚い仕事もすべてを引き受ける」
 という両面を請け負っていたので、本当に律義であるのは、証明済みであった。
 だから、そのストレスからか、若い自分には、女遊びをすることは是非もないことであった。
 だから、羽目を外すこともあり、誠一が生まれたのも、ある意味、
「若気の至り」
 ということであったのだろう。
 しかし、そこから先は他の成り上がりの連中とは違い、しっかりしていた。何と言っても、
「弘前財閥を、裏から支える」
 という使命を持っているのだから、スキャンダルなどあってはならないことだ。
作品名:忌み名 作家名:森本晃次