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忌み名

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 といわれたものだが、それでも、自分の味方をしてくれる人は少数だがいた。
 そんな人たちが、
「ここにいても、いいことはないので、他のお店に移った方がいいんじゃない?」
 というので、急に身体の力が抜けた彼女は、他の人と争うことをやめ、店を退店していったのだった。
 そもそも、お店を移りたいという意識はあった。だから、誹謗中傷を受けなくても、店は変わっていただろう。
 しかし、移るとしても、どこかのソープだったと思う。それがデリヘルを選んだのは、はやり誹謗中傷ということが、それほど大きかったからなのかも知れない。
 デリヘルというと、一番気になったのが、
「身バレの危険性」
 と、
「相手がいるところに行く」
 ということであり、理由は共通していた。
 やはり、デリバリーで相手がいるところに行くというのは、今までは、ホームグラウンドだったが、今度は相手の城に乗り込むようなものであり、大いなる危険性があった。
 まず一つは、
「身バレ」
 であった。
 客の中に自分の知り合いや、近親者などがいれば、店を辞めさせられる危険性がある。それは、女の子にとっても店にとっても厄介なことで、その後も問題のタネになりかねない。
 だから、ソープなどの、店舗型であれば、待合室などに、モニターやマジックミラーを仕掛けることによって、自分を指名した客をそこで確認し、まずい人であれば、何とでも言って、接触を避けることができる。
 しかし、デリヘルのように、相手のところに行くのであれば、完全なご対面の場面でしか、相手を確認することも、自分を確認されることもなく、すべてが手遅れになる。
「デリヘルを呼んだら、娘だった」
 あるいは、まさかとは思うが、
「嫁だった」
 ということもありえなくもない。
 呼んだ方も、利用しているのだから、聖人君子のような説教が通用するわけはないのだが、立場的には圧倒的に、見つかった方が悪い。店を辞めさせられるくらいは仕方のないことではないだろうか?
 さらに、相手がいるところに行く危険性は他にもある。
 悪意のある客で、いくつかある禁止事項を女の子に強要しようとすれば、店舗型であれば、ベッドわきにある、緊急ボタンで、スタッフを呼ぶこともできる。
 相手に強制退店を言い渡すこともできるし、出禁にだってできるだろう。ひどい時には警察につき出すこともできる。
 しかし、相手のところに行くのであれば、相手が豹変しても、誰も来てはくれない。ひどい時に、ドラマなどで見たことがあるが、呼ばれて行ってみると、そこには複数の男がいて、もてあそばれているところを動画に取られ、脅迫を受けるなどという事件もあったりしている。
 いくら、禁止事項と言っても、相手に動画まで取られてしまっては、言いなりになるしかなかったりする。
 こうなってしまうと悲惨で、相手も組織ぐるみでやっていることだろうから、下手に警察に通報しても、警察は、実際に被害にあった証拠を提出しないと、動いてはくれない。
 もし、恥を忍んで。
「動画に取られた」
 と訴えても、その証拠の動画がなければ、警察は動いてはくれない。
 それを思うと、女の子側はどうすることもできず、相手の言いなりになるばかりだったのだ。
 そんな悲惨なことが起こりかねないデリヘルは、危険だと思うのに、これだけ世の中にデリヘルの店が多いというのは、どういうことなのだろう?
「前述の犯罪も、あくまでもドラマだけのことで、そんなことをする非道な人間などいない」
 ということであろうか?
 だが、いつ起こっても不思議のないことであるこんな犯罪は、起こってしまえばいかに発見し、解決できるのか、正直泣き寝入りしかない。肝心の警察が動いてくれないのだから、しょうがないことだろう。
 そんなひどいと思える業界に、ソープからわざわざ移動するというのは、これらの危険性を分かっていないということなのか、それとも、
「風俗でしか生きられないが、ソープが無理だったので、一縷の望みをかけての生き残りをかけた勝負だ」
 という思いでいるのだろうか?
 だが、人生何がどうなるのか、分かったものではない。
 彼女は売れっ子になった。源氏名を、
「つむぎ」
 と変えたのもよかったのかも知れない。
 お客さんのほとんど皆から、
「いい名前だね」
 といわれたり、
「名前で選んだら、想像通りの、いや、想像以上の子が来たので、ビックリしたよ」
 などとお客さんから言われて、嬉しくなった。
 本人は分かっていなかったが、喜びの表現を表す時、
「悦び」
 と同じくらいに、相手が大満足する反応に男は萌えるのだった。
 そして、彼女は少しずつ、
「リピーター:
 を増やしていく。
 リピーターがついてくると、今度は、なかなか予約困難になってくる。最初は、それほどでもなかったのだが、正規のルートで出勤を上げるだけでは、1時間もしないうちに予約が埋まるなどというほどの大人気にはなっていないだろう。
 そこには、
「姫予約」
 という裏の方法があった。
 いわゆる、リピーターや常連には、先に予約を入れさせるということだった。
 前だったら、メールとかなのだろうが、今では、SNSというものがある、
 ツイッターなどでは、普通なら、他の人、つまり不特定多数の人が見るところにしか書き込めないのだが、相互フォローをしていると、DMという機能があり、そこで1対1のやり取りができる。いわゆる、
「ダイレクトメッセージ」
 と呼ばれるもので、たとえば、
「自分がいついつ出勤予定を上げるから、その時間になったら、すぐに予約して」
 というように、入れておけば、相手が本人の都合に合わせて予約してくれるというわけだ。
 そうでなければ、一人一人を相手にしてしまうことになり、時間がいくらあっても足りなくなってしまう。
 そうやってあっという間にリピーターや常連さんに予定を埋められると、新規の客が、入り込む隙がないということになる。
 新規を獲得したいときは、敢えて、姫予約をできないようにしておけば、誰もが公平に予約ができる。そうやって常連も大切にしながら、新規を獲得もしていけるというわけなのだ。
 しかも、そういういつも、
「完売御礼」
 の女の子は、黙っていても、店側が推してくれる。
 店の宣材写真のトップい自分の写真を載せてくれ、店のロゴのトップにはいつも自分がいて、
「まるで自分が店の看板を背負っている」
 ということになると、当然初めての客の目は自分に集中し、
「トップと、普通の女の子との差が、さらに激しくなる」
 というものだ。
 しかも、店が推している女の子に対しては、スタッフもいろいろ優先したりもするだろう。
 ただでさえ、客からも推されているのに、スタッフからも推されるとなると、人気は最高潮だといってもいいだろう。
 下手をすると、図に乗る子も出てくるだろうが、そうなると、店側も、
「女の子は他にいくらでもいる」
 とばかりに、鼻につけば、すぐに追われる立場になってしまう。
 キャバクラなどと同じで、生存競争、いや、ナンバーワンを目指す子はキリがない。本当であれば、
「ナンバーワンよりも、オンリーワン」
作品名:忌み名 作家名:森本晃次