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忌み名

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「死体発見」
 ということになろうとは、それが無念なのであろう。
 死体が発見されたところに向かったが、首を絞められて死んでいるその姿が、まったくの虚空を見つめていて、この世に何かの恨みを残しているようなその表情は、彼女の本当の顔を知らない警察の人間にも、彼女の変わり果てた姿を見た、よく知っている人間にも、溜まらないものだったに違いない。
「これ、本当に孫なんだろうか?」
 と、当主が力のない声で呟いた。
 知らない人が見れば、
「孫の顔を忘れたとでもいうのか?」
 と言いたいほどであったが、
「それほど、彼女の顔は、知っている人の想定をはるかに超えた顔をしていたということなのであろう」
 と思わせるほどだったに違いない。
 警察も弘前家の人たちも、悔しさとやるせなさで、歯ぎしりしている中、これまで緊張感で押しつぶされそうだったのを必死で堪えてきたのか、当主の弘前氏が、ガックリとその場で倒れてしまった。
「大丈夫ですか?」
 と皆が駆け寄ったが、すでに意識はなく、救急車で病院に搬送された。
 とりあえずは、
「命に別状はない」
 ということで一安心だったが、これまで気丈に振る舞っていた分、壊れると脆いものだということを思い知らされた気がしたのだ。
「ただ、予断は許されないので、集中治療室に入っていただき、面会謝絶ということにさせていただきます」
 ということであった。
 犯人の目的が何であったのかは分からないが、人質と目された女の子が死体で発見され、復讐される相手であったはずの弘前氏が、危篤状態ということであれば、さぞかし、犯人たちの目的は達成されたということになるのだろうが、この結果は警察としては、決して許されるものであるはずがなかったのだ。
 警察としては、
「これは、ただの犯罪ではない。警察に対する挑戦だ」
 ということであった。
 しかも、問題となったのは、警察が、
「いくら、被害者の命に係わることだといっても、秘密裡に捜査を続けてきた」
 ということであり、そこに、
「弘前財閥の娘という忖度があったのではないか?」
 ということが問題となったのだ。
 国家権力の私物化ということの問題は。昔から言われてきたことであったが、そういう意味で大きな社会問題となり、国会でも問題になったほどだった。
 国会答弁でも、警察側は、弱い立場であり、ほとんど何も大きなことを言える立場ではなかったではないか。何しろ、被害者が殺され、犯人が逮捕されないどころか、どこの誰なのかも分からない。まったく雲をつかむような話に、国民が納得するはずもなかった。
 警察は一気に悪者にされてしまい、面目も丸つぶれだった。
 警察のそんな状態をよそに、
「人のウワサも七十五日」
 といわれるがまさにその通り。
 警察が自分たちのメンツを必死で何とかしようとしていたが、すでに世間では、もう別の話題に移っていて、警察の不祥事の話をしても、
「ああ、そんなこともあったな」
 という程度であった。
 それが、問題発覚から、七十五日どころか、二か月も経っていないというのだから、
「どんだけのスピードで世の中って進んでいるんだろうか?」
 というほどだったのだ。
 それこそ、どこかのタレントの口癖ではないか、
「どんだけ〜」
 とはまさにこのことであった。
「下手をすれば、お宮入りだ」
 と警察でも考えていた。
 何しろ、事件としての証拠も、事件に絡んだ人物も、表に出ている以外はまったく何も分かっておらず、動くこともできないのであった。

 時間は少し前後するが、弘前財閥の事件が、世間で騒がれていた、その少し前くらい、デリヘルに勤めている女の子が、ちょうど人気の絶頂にあり、店でナンバーワンというだけではなく、地域でも、ウワサになりかけるくらいになっていた。
 そういう意味で、店に電話で予約しようとしても、すでに埋まってしまっていたり、地域の風俗サイトで予約しようとしても、出勤予定が公開されてから、すぐにすでに埋まってしまったりと、超絶人気の女の子になっていたのだ。
 彼女は源氏名と、
「つむぎ」
 と言った。
 年齢表記は21歳になっていた。宣材写真では、他の風俗嬢と同じように、口元だけを手で隠している様子だったが、目はバッチリ映っていたので、その目が人気のようだった。黒髪に肩まで伸びたロングヘアも似合っていて、最近はギャル系も人気であったが、やはり、黒髪ロングの正統派の美少女とくれば、人気が出るのも不思議ではないというものだ。
 彼女がこの店で勤め始めてから、3カ月の経たない間に、人気はうなぎのぼり。入店して間もない頃は、毎日のように、8時間以上の勤務をこなし、いわゆる、
「鬼出勤」
 といわれていた。
 最初から、それなりに人気があったが、彼女の人気に火がついたのは、風俗の口コミや、レビューなどを書きこむ、SNSのようなサイトであった。
 そこで、ほとんどの客が彼女を褒め称え、それが次第に話題になってくることで、最初の鬼出勤の間で、一気に客を獲得したというわけだ。
 そのうちに、リピーターが増えてくると、今度は、少しずつ出勤を減らしていって、最近では、他の人に比べても、出勤がレアになってきた。
 そうなると、
「伝説の風俗嬢」
 とまで言われるようになり、
「現在、予約最困難嬢」
 ということを謳うようになると、レア出勤でも、あっという間に客が埋まることになった。
 ある程度まで新規の客を獲得し、鬼出勤をこなした彼女とすれば、今度はリピーター獲得を考えるようになった。
 実際に、新規で入った人たちは、彼女の魅力に取りつかれたかのようになっていて、
「次は絶対に指名するよ」
 といってくれていた。
 実は彼女は、風俗歴はこの店が初めてではなかった。デリヘル業界は初めてだったが、それまで、ソープランドにいたのだった。
 正直、表記された年齢というのは、ウソで、実際には24歳だった。しかし、ここでの3歳くらいの年齢詐称は、誤差の範囲であり、
「21歳が24歳だって、別に俺たちには関係ない」
 と、リピーターのほとんどは思っていることだろう。
 そもそも、風俗を利用している愛好家には、それくらいのことは分かり切っていることであり、別に気にもしていないだろう。
 ソープ時代には、それほど人気があったわけではない。店でも出勤日の半分は待機時間だったくらいで、どちらかというと目立たないタイプの彼女は、固定のファンはいたが、ある程度、偏ったファンがいるくらいで、大衆ウケというわけではなかった。
 だから、ソープに限界を感じ、デリヘルに転向したのだ。
 ソープに通ってくれていた、一定のファンのうち、一部はデリヘルに変わった彼女についてきてくれたが、半分以上は、お店で、他のお気に入りを見つけて、そちらに移ったようだ。
 彼女がソープをやめたのも、同じ店のキャストからの嫌がらせのような、誹謗中傷があったからだ。それも、相手が勝手に、
「自分の客を取った」
 と思い込んだ勘違いから起こったことであり、相手が自分よりも先輩だったということもあって、つむぎの味方はいなかったのだ。
「あんな子に、誰が味方になんかなるもんですか」
作品名:忌み名 作家名:森本晃次