蔦が絡まる
つかさだけを指名して、約半年ほど、同じ店に通い続けた。1カ月に1度の割くらいなので、大体6回くらい通い続けただろうか。
そのうちに、正直、飽きが来たのだ。それは彼女の人間性に飽きがきたわけではない。正直彼女の身体に、飽きがきたのだ。
「彼女が風俗嬢だから?」
と理由なのかということを聞かれれば、
「半分は正解だ」
と言えるだろう。
なぜなら、彼女との間には、金銭的な契約があるからだ。
「お金で時間を買う」
と言えば、アッサリしすぎているかも知れないが、その通りである。
確かに、彼女の身体だけが目的ではないといいながら、その身体に飽きが来てしまったのだから、お金がかかるということは、どうしても、足が遠のく理由にはなる。
逆に遠のいたとしても、それは仕方のないこと。
「お金がかかる」
と言えるからだ。
逆にいえば、
「じゃあ、つかさが彼女だったら、同じように離れていくだろうか?」
と言われると、これも正直難しい問題で、つかさを最初から、
「お金で結ばれた関係」
という意識があったので、ある意味逆に続いたのかも知れない。
草薙は、今年で25歳となったが、あれから、6年くらいが経っている。
その間に、彼女がいた時期のあった。好きになったから付き合ったのだが、長続きはしなかった。
3人とつき合ったのだが、そのうちの一人とは、自分から別れを言い出して、後の二人は相手からだった。そして、そのうちの一人は、
「あなたのことがよく分からない」
といって離れていったのだ。
もっとも、最初につき合った相手から離れていったのは、草薙の方で、彼は理由を言わなかったが、内容は、2人目の彼女から言われたその言葉だった。
もし、これを最初の彼女が知ったら、きっと、
「因果応報ね」
と言われるかも知れない。
草薙はそれでもいいと思っていた。自分でも、
「自業自得だ」
と思ったからだ。
最初の彼女とつき合い出したのは、つかさの店に行かなくなってから、3カ月目のことだった。
別に、
「誰かとつき合いたい」
という意識があったわけではない。
ただ、彼女もいないように見え、いつも一人でいる草薙を不憫に思ったのか、会社のパートさんが、知り合いの女の子を紹介してくれたことから、交際が始まったのだ。
「僕は女性とつき合ったことがない」
と最初に告げていたので、彼女の方もそのつもりで付き合ってくれた。
だが、彼女と初めて身体を重ねた時、きっと意外に思っただろう。きっと彼女は、草薙のことを、
「童貞だ」
と思っていたからだろうが、実際に身体を重ねてみると、オンナを知っているということを直感したのだろう。
その日から、彼女の態度が少しずつ変わっていったのだ。
どのように変わったのかというと、そこはハッキリとは言えなかったが、変わったというよりも、どこか、我に返ったかのように思えた。
草薙には、
「これが彼女の正体だ」
と感じたことで、だから、自分が、彼女を作りたいと思わなかった理由がここにあると、再認識したのだった。
「これだったら、お金の関係だといっても、風俗嬢が相手の方が気が楽だ」
と思ったのだ。
つまり、
「ちょっとしたことで、感情が揺れ動き、そのたび、精神的に相手の気持ちを気遣ってあげなければいけないことお億劫だ」
と考えていたのだ。
だから、恋愛には向かないと考えるようになったのだろう。
そんな草薙だったが、風俗通いはやめたわけではない。もっというと、彼女がいて、交際期間中でも、風俗には通っていた。
「彼女と風俗とは違うのだ」
と考えていたが、その中に、
「風俗を遊びだ」
と考えていたのではないか?
つまりは、
「遊び」
ということを免罪符にして、通い続けたという意味で、風俗を遊びだと思っている人のことを、悪くはいえないと考えるようになった。
そんな時、偶然、行った新しいお店で入った相手が、つかさだった。初めての店であったし、源氏名も違い、当然、数年経っているので、宣材写真も違う。まったく違う女性に見えたのだった。
つかさからの依頼
つかさに入らなくなってから、その店にもいくのをやめた。だから、つかさが、そのあといつ頃までその店にいたのかは分からなかったが、少なくとも、あれから数年経っているのだから、同じ店にはいないだろうと思っていた。
ただ、風俗を続けているという思いは、半々だった。
「結婚したかも知れない」
という思いはさらに薄い可能性で、ほぼ、そうではないと思っていた。
彼女と一緒にいる時は、
「これが、彼女の天職なのではないか?」
という思いがあった。
それが、風俗嬢に感じている、
「アイドル」
という感覚に一番近かったからだろう。
そういう意味で、彼女は、
「この場所で輝いていた」
と思っている。
それは、もちろん、お気に入りとしての贔屓目もあったり、何と言っても、自分の最初の相手なのだから、そう感じたいというのも、当たり前のことだった。
だが、一緒にいる時でも
「この人は、自分以外を相手する時も、同じように輝いているんだろうな?」
と思うと。男としての独占欲と、支配欲のようなものが邪魔をするのか、どこか、嫉妬を感じる自分がいることを分かっていたのだ。
ただ、その支配欲は、自分の彼女ができた時とは違っていた。
付き合っていた彼女に対しては。どのような感情だったのか、その時は感じていたのだろうが、別れてしまうと、急にその感情が薄れていって。完全に消えてしまったかのように思えたのだった。
3度、普通のお付き合いをしたが、その中で。
「結婚してもいい」
と思える人は一人もいなかった。
いや、それよりも、草薙は、
「結婚したい」
という気持ちは毛頭なく、逆に相手が結婚をちらつかせたりすると、急に冷めたのではないかと思えた。
幸いにも3人とも、結婚をちらつかせることはなかったので、そういう意味では、よかったのかも知れない。
しかし、本心から結婚を望まなかったのかというと、相手にしても、草薙にしても、分からないところであろう。
草薙は、その間でも、風俗通いをしていた。
風俗に求めるものは、最初と変わっているわけではない。確かに、身体の関係であり、
「時間をお金で買っている」
という意識があるので、草薙は、彼女がいても、別に風俗に通うことに対して、罪悪感を感じることはなかった。
最初は、相手がつかさだとは知らなかったので、
「はじめまして」
というところから始めた。
つかさの方も、彼のことを最初は分からなかったようだ。しかし、お互いに性的なくせが変わるはずもなく、お互いに分かってきたことで、名乗り合ったというわけだ。
ただ正直、草薙の方は、最初から、
「ひょっとして」
という思いがあった。
「意外と男の方が覚えているものなのか?」
とも思ったが、相手は商売、一日に自分以外の男とも。と思うと、当たり前のことではあった。
ただ、
「俺は、彼女にとって特別だ」
という思いが強く、それが男にとっての、変なプライドのようなものではないかと感じるのだった。