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蔦が絡まる

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「なるほど、僕も今日は、実は女の子の選択権はなかったんですよ。もちろん、先輩から要望は聞かれましたけど、何しろすべてが初めての経験なので、聞かれたところで、どういう子がいいというのも、ピンとこないものですよね」
 というと、
「それはそうですよね。自分の好みでない相手だったら、その店に、不信感を抱くかも知れないし、下手をすれば、風俗というものに、幻滅するかも知れない。何しろ、安いものではないから、そうしょっちゅうというわけにはいかないでしょう?」
 とつかさがいうと、
「それはもちろんですね。月に一回というのも苦しいくらいではないかと思います。ここくらいの価格体系だと、月一が限界でしょうね」
 と、草薙は頭の中で、無意識に電卓をたたいていたのだ。
「最近は、ネットやスマホが普及してきているから、女の子の方も、日記にお礼を書いたりして、またきてほしいという思いを伝えるのよ。そして、他の客がそれを見て、私に入ってみたいと思ってくれれば、私も書いた甲斐があるというもので、実際に、写メ日記を見たといって指名してくれるお客さんもいて、嬉しくなるのよ。昔だったら、ネットなどないので、風俗雑誌か、実際に現地に来て、受付で写真を見て決めるしかなかったでしょう? 今は実際にはほとんどいないけど、昔は店の前に必ず客引きがいて、一人で歩いている男性に道すがらに話しかけてくるというのが、よくあったことなのよね。今は、最初から予約してきている客などが多いので、表で客を引いても、予約しているといわれれば、どうすることもできないでしょう? そういう意味でも、今は客引きなんて、ほとんどいないのよ。もっとも、一番の理由は、警察がうるさいからということになるんでしょうけどね」
 というのだった。
「つかささんも、二十五歳だということなので、そんな昔の話は伝え聞いた話なんですよね?」
 と聞くと、
「ええ、そうね」
 と言った。
 つかさを見ていると、二十五歳よりも若く見えた。
 というのも、まだ18歳そこそこの、今でこそ、成人だが、昔は明らかな未成年。そんな彼から見ると、男でも女でも、25歳という年齢は、明らかに年上の世代であり、下手をすると、
「話が通じないことも多々あるのではないか?」
 という、世代ギャップがありそうな気がするくらいだった。
 そのわりに、元気さに満ち溢れて見え、さらに張りのある身体を見ると、そんなに年上だという意識がないのも、無理もないことなのであろう。
 会話が途切れると、草薙は、またしても、緊張からか、耳鳴りを感じた。
 今回の耳鳴りは、彼女に耳元で何かを囁かれているような錯覚を伴うものだった。
 だが、心地よいというよりも、まるで、トンネルの中で、空気圧の違いから、
「耳の奥がツーンとする」
 という感覚になったかのように感じた。
 だが、耳を優しく舌が這ってきた時、
「自分の胸の鼓動と、つかさの胸の鼓動が同じで、その反響が、耳鳴りという現象を起こしているのではないか?」
 と感じたのだが、その時初めて、
「あぁ、気持ちいい。こういうのを快感というのだろうか?」
 と、感じたのだ。
 まだまだ、序の口ではあったが、
「こういうのを、身体がとろける快感というのだろうか?」
 と考えると、この後、どのような展開になっていくのか、ゾクゾクするものがある。
 童貞ではあったが、当然のこととして、性には興味が大いにあった。AVなどもそれなりに見てきたし、セックスがどういうものなのかということも、童貞なりに分かっているつもりだった。
 だが、企画ものも結構見てきたりはしたが、風俗関係のAVは比較的見たことがなかったかも知れない。
 その理由としては、
「リアリティがない」
 と思ったからで、そもそも、セックスという行為を、あれだけ気持ちいいといって、表現しているのに、それを世間では、
「見てはいけないもの」
 であるかのような、タブーなことだとしているのである。
 しかも、アダルトという分野で、いかにも少年には有害だといわんばかりになっていて、そこに、おかしな矛盾が孕んでいるように思えてならないのだった。
 だから、余計に、ビデオなどの作品にして、風俗という、
「疑似連内」
 を描くと、わざとらしさが前面に出てしまい、実際の神聖な儀式を損なっているのではないかと思えたのだ。
 しかも、自分には経験がない。
 普通なら経験がないということで、想像を担ってしまうと、おのずと限界が見えてくるのではないだろうか?
 それがタブーであればあるほど、結界が強く立ち塞がってしまい、限界という二文字に阻まれてしまうことだろう。
 だが、もし、その結界を破ることができたとすれば、もうその先には限界などなく、まるで雲を突き抜けて、雲の上に出たことで、遮る者のない太陽が容赦なく降り注いでいるような気がした。
 下の世界がいかに、嵐であったとしても、そんなことは分からない。
 永遠に天気の移り変わりを知ることなく、太陽の光だけを頼りに生きていく。そんな世界を、昔の人たちは、
「極楽浄土の世界だ」
 ということで、
「天国と地獄」
 の天国を創造したのではないだろうか?
 そんなことを考えていると、
「疑似恋愛だとはいえ、天国に連れていってくれる人は本当に存在するのだ。その人にどれほど助けられるということか」
 と考えるのだった。

                 再会

 プレイルームは、最初、ちょうどいい明るさかと思ったが、受付前のカーテンを捲ってから、部屋までが異様に暗かったことで、中に入ると、
「助かった」
 と思うほどの不気味さが感じられた。
 これは、きっと店側が演出で考えた、
「マジック」
 のようなものではないだろうか?
 調度を調整し、女性の顔がうっすらとも分からないほどにして、声だけで真っ暗な中にいるという、不安を募りながらも、彼女の方も、甘えてくれていることで、
「自分がしっかりしなければ」
 という気持ちも心の隅で湧き上がってくるような気持ちにさせることで、今度は、男の方が、少し気を強く持てる。これが、彼女の甘い声とマッチして、
「早く顔を見たい」
 という気持ちを起こさせ、その暗い空気が、大いに湿気を帯びている感覚にさせることで、声をさらに隠微な雰囲気にさせるのだ。
 しかも、女の子の声がか細かったり、吐息のようなものがあれば、効果はてきめんであり、部屋に入るとすでに、気持ちは高ぶってしまっているのだ。
「助かった」
 と感じるのは、その湿気が、あまり長いと、半減してしまうことで、適度な時間は必要になり。そう感じることが、部屋に入った時の興奮を、さらに高める効果になるのだろう。
 そして、やっと部屋に入ると、開けた世界になるのだ。
 この感情は、中学時代、軽い躁鬱症の気があったので、感じることであった。
 両親が死んでしまったことで、親せきがリアルに自分のことを話している。自分の感情はそこにはなく、あくまで大人の事情が影響してくるのだった。
 そのことが、草薙少年の気持ちを、
「人間としての感情」
 をマヒさせることにつながった。
 感覚がマヒすると、どうやら、鬱状態に陥るようだ。
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次