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蔦が絡まる

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「ルールを守って、今のご時世に、細々とタバコを吸っている人たち」
 のことをいうのだ。
 彼らは、キチンと喫煙室でしかタバコを吸わず、吸い殻の始末まで責任を持つ。
 考えてみれば、昔の喫煙者は、ルールを守っている人ばかりだった。昔は、いつでもどこでもタバコが吸えた。
 電車の車両でも吸えたし、旅館の布団の枕元でもタバコを吸ってもよかったのだ。
 何と言っても、病院でタバコが吸えたり、小学校の職員室でタバコが吸えたのだ。
 今では信じられないだろうが、実際にそうだったのだ。
 それがそのうちに、
「禁煙ルーム」
 ができ、
「禁煙車両」
 ができた。
 禁煙車両というと、4両編成であれば、最期の車両だけ、禁煙車で、タバコを吸ってはいけないというようなもので、今でいえばさしずめ、朝のラッシュ時間の、
「女性専用車両」
 のようなものであった。
 それが、次第に、逆になり、禁煙車が、喫煙者に変わった。つまり、最期の一両だけがタバコを吸ってもいいところで、それ以外は基本的に禁煙だということである。
 そのうちに、電車のホームでも、電車の車両でも、とにかく、駅構内では、タバコを吸ってはいけないということになり、特定の場所に、換気機能のついた喫煙ルームができた。ここで、今のような状態になってきたのだ。
 それが、最近変わった法律で、
「基本的に、事務所などの室内では喫煙はしてはいけない」
 ということになり、今までのパチンコ屋。飲み屋、などでは、絶対に吸ってはいけなくなったのだ。
「先輩が、楽しめと言ってもな」
 と、タバコを吸わないのは自分だけで、皆スパススパ吸っているではないか。
 それを見た時、
「まあ、しょうがないか」
 という諦めの境地に入ったのだが、その時、
「ああ、これが大人になったということなんだろうか?」
 と感じた。
 高校時代までは、
「そんなルールを守らない連中には、鉄槌を食らわせる」
 というような考えを持っていたが、今は逆に、
「波風を立てると、迷惑が掛かる人がいるから、何もできない」
 ということを考えなければいけない。
 学校内であれば、仲裁してくれる先生などがいるのだろうが、社会では、自分の言い分を言い放題になってしまう。それが拗れると、喧嘩になったり、警察沙汰になるのである。
 警察に厄介になってしまうと、必ず、
「身元引受人がいないと、帰してもらえない」
 ということになる。そのため、未成年であれば、親や学校の先生ということになったり、就職していれば、雇い主や、直属の上司ということになるだろう。
 学校の場合であれば、停学、下手をすれば、退学にもなりかねない。
 社会人であっても、同じこと、会社の業務規定には、
「会社に大いなる損害を与えた場合は、懲戒解雇に処する」
 という文言があるのが普通の会社ではないだろうか。
 懲戒解雇になってしまうと、退職金はおろか、失業保険も貰えない。
 そもそも、入社してすぐの社員に退職金などあるわけもないのだろうが、それでも、懲戒解雇ということになると、今度は新たに職を見つけようとしても難しいだろう。
 よほど、大きな喧嘩をしたり、相手にケガをさせるなどして、相手が訴えてきたりでもしない限りは、懲戒解雇ということはないかも知れないが、業務規定にある、
「会社に多大なる迷惑をかけた」
 という文言はあまりにも抽象的なので、いくらでも解釈ができるというものだ。
 普段から、素行が悪かったりすれば、
「この時とばかり」
 と言わんばかりに、
「解雇にしよう」
 ということになっても、文句はいえないだろう。
 会社に対して。
「不当解雇だ」
 といって、申し立てることもできるだろうが、勝つ見込みがあったとしても、その間、お金が出ていくばかりで、しかも、
「元居た会社に対して、自分が悪いのに、訴えるようなやつを雇ったりなんかできるものか」
 と言って、面接に行っても、いや、書類審査の時点で落とされるのは、必至であろう。
 そう考えると、
「時間もかかる。金もかかる。さらには、再就職では致命的なダメージになる。さらには、勝てる見込みがどれくらいあるというのか分からない」
 という状態で、訴えるなどできるであろうか?
 もし、本当に不当解雇だとしても、訴えた方がリスクが大きいのであれば、泣き寝入りしかない。
 しかも、サラリーマンとして勤めていて、家族に、要介護の人ができたということで、会社からの転勤の内示を断った時、会社から、解雇された。社内規定では、会社の方針には従うということで、転勤、転属などには従うことが書かれていたからだ。
 しかし、介護が必要な家族や、子供の学校の問題があるということで、転勤を断って解雇になったとして不当解雇として訴えても、判例では、ほとんどが敗訴となる。
 介護が必要であれば、ヘルパーを雇えばいい。あるいは、単身赴任という方法もある。子供の学校だって、同じ理由で、何とかなるのではないかということで、会社の解雇を正当化する判例もあるくらいだ。
 理不尽だと思っても、会社の社内規定は、結構、
「血も涙もない」
 というようなことも書いていたりする。
 要するに、
「何とかなるようであれば、あらゆる方法を考えてから、結論を出さないといけない」
 ということであろう。
 まだ新入社員として入社してから間がない状態で、しかも、入社したのは、かねてからの約束通り、
「おじさんの会社」
 だということで、いわゆる、
「コネ入社」
 だった。
 まあ、昔のように、
「社長の親族だ」
 ということで、まわりから贔屓目で見られるということはないが、逆に、何かを引き起こしてしまうと、社長の立場を危うくするものだと言えるだろう。
 そういう意味で、却って自分の立場だけではないという責任が押しかかってくるだけに、本当に余計なことはできないのだ。
 そうなると、
「喧嘩などしないに超したことはない」
 のである。
 そもそも、草薙は喧嘩ッ早いほうではない。どっちらかというとおとなしい方なので、そういう意味では安心なのだろうが、あまりにも相手が理不尽であったり、耐えがたいことをした場合には、容赦はしないだろう。
「おとなしく見える人間ほど、怖いものはない」
 と言われるが、まさにその通りである。
 だから、この時は、若干の理不尽さをその部屋に感じたが、
「自分には関係のないこと」
 としておとなしくしていたのだ。
「高校時代だったら、分からないかも知れない」
 と自分では思っていた。
 まわりの目は自分で感じているよりも、草薙のことを、
「おとなしい人間だ」
 と思っていたようだ。
 そういう意味で、就職してから、まわりの想像においついたというところであろうか。
 ただ、そんなことを考えていると、うまい具合に、タバコを吸っている連中がゾクゾクと、受付に呼ばれて行った。
 名前を呼ばれても、返事もせず、表情を変えることもなく、ブサイクな表情のまま、黙って従っているその姿を見ると、
「何しに来たんだこいつら」
 と言いたくもなる。
 スタッフは仕事なのでしょうがないと思っているのだろうが、ここまで無作法な客を相手にするとなると、
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次