蔦が絡まる
「いくつか考えられるが、まず、まったく知らなかったというパターン、もう一つは知っていたというパターン。この場合には、ばったり旦那が行ったお店で、奥さんと鉢合わせしたということもありえる。おちろん、旦那が様子が変だと思って調べたということも考えられるが、自分もソープ通いをしているのだから、奥さんに文句が言える立場にはないだろうね。今のところ、奥さんの線と、奥さんにストーカーがいて、そいつがやったという考え方もあるかも知れないな」
と一人の刑事が言った。
「でもですよ。最後の意見は、少し違うかも知れませんね」
と辰巳刑事が言った。
「どういうことですか?」
「だって、状況的に、顔見知りの犯行の可能性が高いということであれば、旦那は犯人を知っていたということになる。ストーカーになるくらい奥さんをお気に入りにしている犯人が、まさか、旦那と知り合いだというのも、どこかおかしな気がしませんかね?」
と辰巳刑事がいう。
「なるほど、確かにそうだな。とりあえず、奥さんと、その周辺を洗ってみることにするかな?」
ということで、奥さんの周辺を洗うことになった。
奥さんは、旦那の葬式や何かで、お店をしばらく休むことになった。そこで、辰巳刑事は、お店に聴いてみることにした。
「ああ、なごみさんのことですね。旦那さんはお気の毒なことだと思います。奥さんが店で働いているということを旦那が知っていたかどうかということですか? ええ、それは知っていたはずですよ」
と、スタッフは言った。
「どうして、ハッキリ分かるんですか?」
と辰巳刑事がいうと、
「だって、なごみさん自身が言っていましたからね。本当は身バレしないように、待合室に入った客をモニターで確認できるようになっていたんですが、その日はたまたま、モニターが故障していて、機能しなかったんです。マジックミラーで見てもらったんですが、正直ハッキリと分からなかったんですね。しょうがないので、断るわけにもいかず、お客様をご案内したんですが、終了時間まで、何ごともなかったので、問題なかったと思っていたんですが、なごみさんが落ち込んでおられたので聞いてみると、旦那だというではないですか。私は、なごみさんは辞めてしまうかも知れないと思ったんですが、数日暗くはありましたが、すぐにいつものなごみさんに戻ったので、安心していたんですよ」
というのだった。
「ちなみに、そのなごみさんですが、彼女にストーキングを掛けるようなお客さんはいませんでしたか?」
と聞かれて、
「私どもには分かりませんね」
といって、この話にはあまり、してほしくないというスタッフのかんじだった。
これが、店の雰囲気からのことなのか、それとも、本当は何かを知っていて、それが知られることを恐れているのか分からなかった。
警察も少し考えてみたが、どうも、今回の殺人事件に、奥さんの仕事のことが関係しているというのは、間違いないようだった。
さて、帰ろうとしたところに、店長がやってきて、
「すみません。ちょっとこちらに」
と言われ、店長室に入れてもらい話を聞いたのだが、
「これは、なごみさんから聞いたお話だったんですが、このことは店では私しか知りません。実は、なごみさんのお客さんで、一人、他のお店の知り合いのソープ嬢に一人の客を誘導したことがあるといっていたんです。どこの何というソープ嬢なのかということは聞いていますが、もちろん、客が誰なのかということは知りません。そちらに行かれてはいかがですか?」
という。
「どうして、自分の客を別の店に紹介したりしたんですか?」
と刑事が聞くと、
「どうやら、その客は飽きっぽい人で、すぐに自分に飽きて、どこかに行ってしまうと思ったらしいんです。本人もそんなことを言っていたということでしたからね。だったら、どこの誰とも知らない人に行かれて、まったく分からなくなるよりも知っている人に行ってもらう方が、相手も客が来てくれて喜ぶだろうしと思ったようなんです。それが、話を聞いてみると、その客と紹介した女の子が、実は前から知り合いだったというじゃないですか? もちろん、客と嬢としてですね。あまりそんなことをする人はいないだろうから、してもいいのかって私のところに来たんですよ。だから私もよく分からなかったので、反対はしなかったんですが、彼女には、他の人に言わない方がいいと、口止めはしましたね。だから、彼女も誰にも話はしていないと思います。ただ、これが今回の旦那さんが殺されたことと関係があるかどうか分からないので、刑事さんも、他言無用でお願いします。もっとも、捜査であればしょうがないのでしょうが」
と店長は言った。
「これはわざわざありがとうございます。ご忠告はもっともなことです。我々も捜査以上のことは言いませんので、ご安心ください」
といって、聞いた店に行ってみることにした。
そして、その店に行って、つかさ、いや、現在のりなに会ったのだ。
「ああ、確かにそういうお客様はいますね。私の前のお店で何度かお相手をしてから、私が一度引退したんですが、復帰してからこの店に来て、しばらくして彼が来てくれました。すると、なごみさんからの紹介だというじゃないですか? 私はうれしかったですね。なごみさんにも、その彼にもですね。だから、私のお客さんで、いろいろなお店に行ってそうな人に、なごみさんの話をしたりしましたよ。なごみさんとは、お互いにそういう関係ですね」
とりながいうので、
「じゃあ、なごみさんが、主婦で旦那さんがいるのもご存じですか?」
と聞かれたりなは、
「ええ知っていますよ。でも、何か最近殺されたんですって? なごみさんから連絡が来てビックリしています」
「旦那さんは直接知らないんですか?」
と聞かれたりなは。
「それが、私のお客さんとしてきてくれた時期があった人だったんです。今は他にも行っていると言ってましたけどね」
「どんな客でしたか?」
と聞かれ、
「そうですね。なんでも、プラス思考に考える人だったかな? お花畑的な発想というのか、でも彼が裕福な家庭に育った御曹司だというのを聞いて、ああ、なるほどって思ったんです。だから、私はそんな彼が可愛くて、過剰なサービスをしたんですが、それがあだになったのか、一時期、私のストーカーのようになったんです。出待ちをされたりもしたし、表で札束を渡して、自分とつき合ってほしいなどと言い出したんですよね」
「それでどうしました?」
「もちろん、キッパリとお断りして、風俗嬢がどういうものかって教えてやりましたよ。でも、まさかその時はあの人が、なごみさんの旦那だとは知らなかったですね」
というではないか。
それを聞いて刑事は、
「ひょっとして、このりなという女のこの時の言葉で、旦那は女房のなごみという風俗嬢に対して不信感を持ったんじゃないだろうか?」
とも感じた。
もし、そうだとすると、なごみは、りなに恨みを持つかも知れない。その報復が、例の紹介した男だとすれば?
そう、草薙という男は、二人のオンナの確執。さらには、夫婦間の不信感の中にあって、体よく利用されたのではないだろうか?
そんなことを考えていると、