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蔦が絡まる

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「これが、市民の平和を守る警察官だと言えるのだろうか?」
 と、綾子は、軽く睨んでいた。
 脅かすようなことを刑事が言ったのは、一種の含みであった。
 奥さんの話が終わった後、刑事二人が話をしていたが、一人の刑事が、
「辰巳刑事、あんなに露骨にいうと、奥さんビビっていたじゃないですか」
 というと、辰巳刑事は、ニコリと笑って、
「新野刑事、私はわざと含みを持たせた聞き方をしたんだよ」
 と言った。
 辰巳刑事は、ここの所轄では、ベテラン刑事で、新野刑事は、まだまだ新人なので、新人教育も兼ねて、辰巳刑事のペアには、新野刑事を組ませることにした。
 刑事というのは、捜査においては単独行動はしない、テレビドラマなどで、よく主人公の刑事が一人で飛び回っているのを見るが、あれはドラマだからできることなのだ。
 ドラマであっても、よく上司が、
「単独行動はいかんず」
 といって、いさめているシーンをよく見る。
 それに、警察というところは、捜査方針が決まれば、それに従って行動する。それができない刑事は、捜査から外されたり、ひどい時は、謹慎させられたりするというものだ。
 新野刑事が不思議に思うのは無理もない。それだけ、辰巳刑事の詰問は、ひどかったのだ。
 しかし、刑事課でも皆から一目置かれている辰巳刑事が、いきなり、意味もなくあんなことをいうわけはない。何か含みがあることは、新野刑事にも分かったが、その内容まではまったく分からなかった。
「まさかとは思いますが、あの奥さんを疑っているんじゃないでしょうね?」
 と新野刑事がいうと、
「まあ、いきなり疑うということはないのだが、奥さんが風俗の仕事をしていて、旦那がどういう気持ちだったのかというのも知りたいと思って、奥さんがどういう態度に出るかというのを図ってみたんだよ。少しやりすぎたかも知れないとは思ったけど、奥さんは、少なくとも、何かを隠しているような気がするんだよ」
 と辰巳刑事が言った。
「どういうことですか?」
 と新野刑事が聞くと、
「確かに、奥さんが風俗の仕事をしているということは、すぐに警察が捜査すれば分かることだと思うんだけど、あの奥さんは、ためらいもなく、我々が聞きもしないのに。すぐに自分が風俗嬢だと空かしただろう? あれは、向こうも何かを探ろうとしてではないかと思ったんだよ。だって、風俗嬢をしているなんて、今ここでいうと、警察から予期していない質問を浴びせられるに決まっている。普通はそれを怖がるものだと思うんだ。そして、次に警察が来るまでに、どう答えていいかの模範解答を作ったり、何か事前工作くらいはしているものだよな。だから、奥さんは、犯人や犯人には近い存在ではないが、奥さんが何かカギを握っているような気がしたので、少し挑戦的になったんだよ。もっとも、あの態度は、警察に対しての挑戦に思えたので、それに乗ってやったといってもいいかも知れないな」
 といって、辰巳刑事は笑った。
「なるほど、最初のお互いの探り合いということですね?」
 と新野刑事がいうと、
「まあ。そんなところかな?」
 と、辰巳刑事が笑いながらいった。
「だけど、まだ、初動捜査に過ぎない今なので、これ以上、余計な詮索をすることはできないと思って、途中でやめたんだけどな」
 と、辰巳刑事は続けた。
「じゃあ、捜査本部に戻って、状況を報告するために、少し、このあたりの聞き込みをしておこう。正直、目撃者も、さらには、これだけ暗いと、防犯カメラにも、分かるようには映っていないでしょうね。犯人も目立たない恰好でくるだろうし」
 と新野刑事は言った。
「そうだな、捜査本部がすべては決めることだから、我々はまずできることだけだな」
 と辰巳刑事は、そう言って、二人で、そのあたりの目撃者を探してみたが、この短い時間で見つかるわけもなく、防犯カメラも借りてくることができたが、
「まあ、犯人が写っていても、特定は難しいだろうな」
 と辰巳刑事は言った。
「しょうがないですね。とりあえず、できるところだけやることにしましょう」
 と新野刑事がいうと、
「少しだけ聞き込みをして、捜査本部に戻ろう」
 ということになったのだ。

                 大団円

 捜査本部の中でまず分かったこととして、死亡推定時刻は、深夜の午前零時から二時の間くらいではないか? ということであった。凶器は胸に刺さっていたナイフ、心臓を一突き、争った跡もなく、出血もさほどしていないということから、推察通り、いきなり不意に襲われたというか、顔見知りの犯行ではないかということであった。
 さらに、被害者を刺したナイフから、指紋は検出されなかった。手袋をしていたということであろう。被害者も返り血を浴びているはずなので、最初は外套か何かを着ていて、脱いでから、逃走したのではないかと思ったが、それは防犯カメラの映像が、それらの想像を証明していた。
 だが、さすがに犯人の顔の確認に至るまでではなく、捜査は、進んだわけではなかったのだ。
 ただ、一つ捜査方針として、
「顔見知りの犯行」
 ということだけは決まったので、会社へ訪ねてみることにした。
 会社に出かけていって、直属の上司に聴いてみたのだが、
「ああ、矢田君というのは、実は我が社の取引先の息子さんで、いわゆる、御曹司なんですよ。いずれ、そちらに戻って重役か、社長になられるんでしょうが、それまでのつなぎというか、勉強だったんですね。一応、こちらでも、取締役に名を連ねてはいますが、それも名前だけのようなもので、会社の人間の中に親しい人というのは、いないと思いますね」
 ということであった。
 そこで、クローズアップされたのが、奥さんの仕事である、
「性風俗関係」
 であった。
 会社の聞き込みの中で、一つ気になる聞き込みがあったのだが、
「矢田さんという人、どうも、ソープランドに通うのが好きだったみたいなんですよ。お金もあるし、そんなにブサイクというわけでもないし、自分の立場を鼻にかけるわけではない。普通にモテそうな感じがするんですけどね。まあ、奥さんがいるからなんでしょうが、不倫ということをするような人ではなく、そのかわり、ソープランドに通うのが好きだということでした」
 というので、
「それは誰から聞いたんですか?」
 と刑事が聞くと、
「ああ、本人が言ってましたよ。私も、お金があれば、ソープとか行きたいと思っているので、風俗業を毛嫌いするようなタイプではないので、話しやすかったんでしょうね。矢田さんはあまり目立たない性格でしたけど、かといって、内に籠るというタイプでもない。時々誰かと話をしないと、ストレスから身体を壊してしまうタイプだったのかも知れませんね」
 ということであった。
 それを捜査本部に帰ってから話すと、
「奥さんもソープの仕事をしているということだったけど、旦那は奥さんの仕事を知っていたんでしょうかね?」
 というと、
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次