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蔦が絡まる

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 だが、実際には、それほど変わったわけではない。
 ということは、
「コンプライアンスに関わろうが関わりなかろうが、本人が最後には、どう感じるか?」
 ということである。
 つまり、嫌なことは今も昔も変わりはない。それに対して本人が耐えられるかどうかということなのだろう。
 そう考えると、昔から辞めていった人が、一概には、セクハラ、パワハラのせいではなかったということだろう。
 もちろん、きっかけか、最期のとどめかにそれらが関わっていただろうが、そもそも、本人が嫌だと感じることが、自分の中に残ったのだとすれば、いくらパワハラ、セクハラが減ったとしても、会社を辞める人が減るということにはならないだろう。
「嫌なものは嫌なのだ」
 というのは、あくまでも、自分が感じることで、そこにハラスメントが絡むとすれば、
「辞める時期が、早いか遅いかの違い」
 というだけのことになるに違いない。
 そう考えると、以前研修で先生が話していた言葉を、思い出す。
「最初の3日持てば、1カ月持つ。一か月持てば、三か月持つ。三か月もつと三年持つんだ」
 といっていた。
 途中の目標を達成するたびに、ハードルを上げていけばいいということであろうか。
 それを思うと、気も楽になる。草薙もそうなのだろうか? 本人には、意外と分からないことであった。
 そんな時、ちょうど先輩で悩んでいる人がいた。
 その先輩は、躁鬱症の気がある人で、ちょうど気になった時、悩んでいる様子だった、
 その様子を人に隠すことはしないので、あからさまに悩んでいるのが伺えたが、草薙は、そんな人が嫌いではない。
 他に人であれば、
「あんなに露骨にされたら、こっちまで気が滅入る」
 ということで、まわりも露骨に避けようとする。
 だからこそ、孤立するのであって、躁状態になっても、誰も相手にしなくなるのを見ると、
「何で、皆に相手にされないんだろう?」
 と勝手に思うのだった。
 だが、鬱状態に陥ったのを見ると、
「なるほど、これでは、最初にこっちを知ると、躁状態でも怖いのかも知れないな」
 と感じた。
 どうして、草薙が、先輩を見て、怖いとか感じないのかというと、
「俺自身も、昔は躁鬱だったからな」
 と思っている。
 それは、親が死ぬよりもずっと前の、中学に入学した頃に感じたことだった。
 だから親が死んだ時、逆に何も感じなかった。感覚がマヒしているといってもいいくらいの頃で、
「悲しい」
 とか、
「これからどうしよう」
 などということは感じない。
「大人が考えてくれるだろう」
 というくらい、感覚がマヒしていたような気がした。
「親が死んでも、何も感じないんだ」
 と、漠然と思ったくらいだった。
 きっと、そんな草薙を見て、
「この子は、何て怖い子なんだろう」
 と感じた親戚もいたことだろう。
 ただ、それ以外に、
「なんて強い子なんだろう?」
 と思った人も多いに違いない。
 そんな風に思わせるようなテクニックが、その時の草薙には、すでに備わっていたのかも知れない。
 そんな草薙の先輩が、草薙の一言で、
「お前があの時にいってくれた言葉が、まるで魔法のように効いたのか、すぐに鬱状態を抜けたんだ」
 といって真剣に喜んでいた。
 鬱から抜ける時というのは、タイミングもあるだろうし、時間的なものもあるだろう。ハッキリと、
「こうだ」
 という風に言われることはないのだが、それだけに先輩は感動したに違いない。
 まるで、草薙を神のように慕ったくらいだ。
「さすが草薙君。三種の神器である、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)の別名なだけのことはある。まるで神のようだ」
 という賛美を受けた。
 三種の神器というのは、天皇が皇位継承の際に、受け継がれるものであり、
「天叢雲剣(草薙剣)」
「八咫鏡」
「八尺瓊勾玉」
 の三種をそういうのであり、今まで受け継がれている。
 ただし、剣だけは、治承・寿永の乱の時に、安徳天皇とともに、関門の海に沈んだとされている。
 そのため、朝廷は伊勢神宮より、献上された剣を、
「草薙剣」
 として、三種の神器に加えて、それ以降の即位の際に用いられることになった。
 だから、鎌倉時代初期の、後鳥羽天皇の即位。さらには、南北朝時代の混乱の際には、
「三種の神器のない即位式」
 というのもあったことだろう。
 そもそも、南北朝時代などというのもおかしなもので、
「天皇が同時期に二人いる」
 というのは、
「万世一系の皇祖をふめる」
 という日本国家で、そもそも不思議だといってもいいだろう。
 ただ、こんなに万世一系と呼ばれる一族が、2600年以上も国家の頂点にいるという国はなく、世界でも、
「無双の国家」
 といってもいいだろう。
 確かに、中世などでは、武家政治が中心だったので、
「将軍が一番偉い」
 ということをいう人もいるが、あくまでも、将軍というのは、
「天皇に任命され、政治による実効支配を行っている」
 というだけであって、頂点には、天皇が君臨しているのである。
 だから、将軍と言えども、朝廷の許しがなければ、即位できないし、幕府も開くことができないのであった。
 草薙は、基本的に学校の勉強は好きではなかった。だから最初から大学に行きたいという気もなかった。
 ただ、歴史のように好きな科目はあったが、それだって、大学に行かなくても、本などの文献でいくらでも勉強ができる。今ではネットには、お金を出して買った本にすら書いていないような情報が書いてあったりと、学校で習うよりも、面白いものがたくさんあるのが、歴史という学問だった。
 だから、これくらいの話は、草薙にとっては、
「常識中の常識」
 というくらいで、会社の人とスナックなどにいけば、そこの女の子に歴史の話を語って聞かせたりした。
 結構スナックの女の子も草薙と同じで、学校の勉強は嫌いだったが、歴史や雑学などには結構興味があって、意外なことを知っていたりするので、結構話があったりするのだった。
 そういう意味で、スナックや、キャバクラなど、結構先輩に連れていってもらった。
 そんな時先輩が、
「お前、たぶんだが、童貞なんじゃないか?」
 といってきた。
 草薙も、自分が童貞だということを恥ずかしいとは思ってもいなかったので、
「はい、そうですよ」
 と答えた。
 その答え方が堂に入っているということで、先輩はいたく感銘したのだが、草薙としてみれば、
「別に機会に恵まれなかったというだけのことで、何も気にすることはない」
と思っていただけなのだが、それが先輩には、まるで、
「竹を割ったような性格」
 に見えることで、感動に値するものだった。
 そのおかげで、先輩から、
「今度、ソープにいくので、一緒に行こう」
 と誘われた。
 お金は自分で出してもいいと思ったので、
「はい、いいですよ」
 とこたえた。
 別に性風俗のお店を特別なものだとは思っていなかった。逆にキャバクラの方が、少し違和感があった。それは、その人の感覚的なものなので何とも言えないが、少なくとも、
「勝負が早い」
 という意味で、ソープは嫌ではなかったのだ。
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次