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蔦が絡まる

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。(看護婦、婦警等)当時の世相や作者の憤りをあからさまに書いていますが、共感してもらえることだと思い、敢えて書きました。ちなみに世界情勢は、令和4年8月時点のものです。

                 初めての風俗

 草薙幸一は、高校を卒業すると、親せきのやっている小さな不動産会社に営業として就職した。中学時代に両親を亡くしたことで、親せきに預けられることになったが、父親の兄弟である長男が、
「親権を持って、成人するまで面倒を見る」
 ということにして、その間、問題などなければ、高校を卒業すると、次男が細々とやっている不動産会社に営業として雇うということで、話がついていた。
 高校を何とか無難に卒業した草薙は、かねてからの約束通り、不動産会社の営業として、社会人をスタートさせることになった。
 ただ、彼は、おじさんが、
「育ての親」
 になってくれたからといって、信用しているわけではない。
 もちろん、雇ってくれた方のおじさんに対してもそうだ。
 一人で生きていかなければいけないということを肝に銘じながら、顔ではニコニコ笑っているようなそんな青年だった。そういう意味では、他人受けがいいのかも知れない。
 おかげで、不動産の営業成績もよかった。
「社長のコネ入社だから」
 というわけではない。
 他の会社の人はそんなことは、知る由もないからだった。
 それだけ、外面がいいと言えばいいのか。いつもニコニコしているが、中には、
「却って気持ち悪い」
 という人もいる。
 その人は、なかなかの洞察力だと言えるだろう。
 そもそも、中学時代の両親が亡くなる前から、
「あいつは何を考えているのか分からない」
 と言われていた。
 いつも一人でいて、たまに誰かと一緒にいると思うと、何か密談のようなことをしているのだが、その密談が何であったのか、まったく分からない。何かが起こったというわけではないだけに、彼が密談をしているのを見かけると、
「何か、ゾッとしたものを感じる」
 という人も何人かいるようだった。
 それだけ、草薙の場合、隠そうとしているのかは分からないが、陰で動こうとすると、まわりに察知されやすいのかも知れない。直感が鋭くない人にまで、そのように感じさせるということは、
「オーラのようなものを、まわりにまき散らしているのかも知れない」
 と感じられるのだった。
 だが、それは中学時代までで、両親が死んで、長男の家に引き取られるようになってから、却って、まわりに気を遣うようになった。おじさんたちも、
「両親が亡くなったことは気の毒だけど、幸一君が、まわりに気を遣うようになったのは、それだけ、幸一君が成長したということで、よかったと思うべきなんだろうか」
 と思っていた。
 だから、おじさんたちも草薙には、かなり気を遣っていたが、それも自然なことであり、まるで本当の息子のようにさえ思うようになっていた。
 だから、高校を卒業して、かねての約束通り、次男の会社に任せる時も、
「胸を張って送り出せる」
 と、言っていたが、案外本音だったのだ。
 次男が、その様子をどう思ったのか分からないが、入社してきた時の草薙は、
「何を考えているか分からない」
 と思われていたようだ。
 しかし、それは、草薙に限ったわけではなく、どこの新入社員でも同じことで、そういう意味で、
「幸一を贔屓するようなことはしない」
 という思いを最初は持っていたが、
「そんなことを感じる必要などない」
 と考えるようになったのだった。
 入社してから、先輩のエリアを受け持つようになって、意外と草薙の人気があることで、成績は先輩の時に比べてよくなった。
「何か、人当たりがいいからなのか、ついつい信用してしまうんだよな」
 と、個人で不動産を持っている人などが、
「草薙君には、頼みやすいんだ」
 と、新人のビギナーズラックのおかげもあるのか、成績は結構よかった。
 しかし、草薙は成績よりも、人から信頼される方が嬉しいようで、正直に喜んでいるようだった。
 ただ、そんな中でも、他人に心を許さないというところは結構あって、そのせいもあってか、内と外とでは、印象がかなり違っているようだった。
 それでも、家では、
「素直ないい青年」
 のようで、育ての親である長男夫婦から見ると、
「非の打ちどころのない青年」
 といってもいいほどの褒めちぎりようで、いわゆる、
「自慢の息子」
 というところであった。
 逆に言えば、それが育ての親であっても、気の遣い方がハンパではないことで、ある意味、
「外に向けた顔だ」
 といってもいいのではないだろうか?
 それを思うと、草薙という男、
「営業に向いている」
 といってもいいだろう。
 ただ、
「口八丁手八丁」
 というわけではない。
 正直にいうと、ポーカーフェイスなのだ。
 無表情というわけではなく、相手に、
「何を考えているのか分からない」
 と思わせるような表情をするわりには、その考えは徹底していて、人を欺くということは、彼に限ってはありえないといってもいいくらいであった。
 そんな草薙という男は、会社内での上司に対しての態度、これが、一番、
「普通の人らしい」
 といえるのかも知れない。
 そもそも、この場合の、
「普通の人」
 というのは、どういう意味を差しているのだろうか?
 草薙の中で、
「俺は天邪鬼じゃないか?」
 と思っているのがあるのだが、その感情が、
「他の人が思う普通の人と、自分が感じる普通の人というものに対して、かなりの違いがあり、それが違和感となって、トラウマのようになっている」
 と思っていることなのかも知れない。
 そういえば、中学時代まで生きていた父親がよく言っていた言葉に、
「一般常識」
 という言葉、
「普通の人が持っている社会人」
 という言葉などを、まだ中学生の自分に話をしていたが、正直何のことか分からない。
 分からないくせに、押しつけのように、そして、まるで自分だけが正しいとでも言いたげな態度が、いつも嫌だった。
 だから、
「一般常識」
 という言葉、
「普通の」
 という言葉で始まる言葉を、とにかく草薙は毛嫌いしていたのだ。
 そんな中、完全に会社の人は、
「草薙君は、すぐに会社にも馴染んで、いい社員だ」
 と、ほとんどの人が思っているだろうが、実際にそんなことをまったく感じていないのが、草薙だった。
 確かに、先輩のいうことを断ることはない。昔のように、パワハラなど何でもありの時代ではないので、そんなに露骨にひどいことはないので、仕事を辞めていく人も減ったのかも知れない。
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次