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蔦が絡まる

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 そんな中で、再会した時、どちらが相手に気づいたかというと、つかさの方だった。
 つかさの方は、確かに、
「お姉さん」
 という雰囲気からは少し変わっていた。
 再会した時に感じたのは、
「いい女」
 だったのだ。
 パネル写真でも最初の店では、ボディを強調した感じだったが、今の場合は、着物を着たり、ナース姿だったりと、コスプレが多い。
 もっとも、移った店のコンセプトが、コスプレやイメージプレイ系だったので、ある意味、今のつかさには、ちょうどよく感じられた。
「熟女」
 というには、少し憚る感じであるが、どちらかというと、
「妖艶さ」
 と言えばいいだろうか?
 だからこそ、服装によって、いろいろな顔を見せることができるというのが、今のつかさのテクニックに思えた。もちろん、その中の一つに、
「童貞の筆おろし」
 という役目を担う姿が、一押しなのは、いうまでもないだろう。
 そんなつかさが、悩んでいる姿が、最近気になるようになってきた。
 本当であれば、
「嬢のプライバシーを詮索するようなことをしてはいけない」
 というのであろうが、悩んでいる姿を放っておけないというのも、草薙のいいところ? であった。
「何か、気になることでもあるのかい?」
 と聞いてみた。
 すると、彼女はそれまで抑えていた気持ちを抑えられないのか、
「わーん」
 と泣き出したのだ。
 これには、さすがにビックリした。
「えっ、なんで?」
 と、まるで、自分が泣かせてしまったのではないかという錯覚に陥り、じたばたしていると、つかさは、すぐに泣き止んで、
「ごめんなさい。普段は気丈に振る舞っているんだけど、こういちさんの前では、どうしても泣いてしまうの」
 というではないか。
 妖艶さをほしいままにし、男性を魅了するその姿は、いかにも、
「自分の筆おろしをしてくれた、あの時のつかさに、さらに女としての磨きがかかったかのような妖艶さ」
 だったはずのつかさが、まさか泣き崩れるなど、そんな姿を見せられれば、男としてだまって見て見ぬふりなどできるはずもない。
 つかさは、何かを言いたそうにしながら、何にも言おうとしない。
 そして、顔を見られないようにして、枕に顔を埋めて、泣き崩れてしまう。
 いかにも、
「魔性の女」
 というべきなのだろうが、冷静に考えれば、
「何かある」
 とすぐに分かるはずなのに、こんな姿を最初に見せられると、男としての、
「助けてやらなければいけない」
 という、気持ちが強くなるのだ。
 その気持ちは、同情なのか、正義感なのか分からない。どちらにしても、
「相手は風俗嬢であり、自分は彼氏でも、ヒモでも、何でもないのだ」
 ということは、百も承知のはずなのに。簡単に引っかかってしまうのは、
「つかさとは、運命の再会だったんだ」
 という思いが頭の中にあるからだろう。
「ただの偶然のはずなのに」
 草薙のように、
「飽きれば次の女」
 というような態度を示していて、
 つかさの方も、風俗嬢として、いくつかの店を転々としているようだったので、
「またいずれどこかで」
 という可能性は高かったはずなのだ。
 つかさに関しては、宣材写真もまったく違った感じだったし、源氏名も違う。少しでも似ているところがあったとしても、同じ女かどうか、分かったかどうか、分からなかった。
 つかさの方も、今まで、どれだけの男の相手をしてきたというのか、
「童貞キラー」
 として、童貞を卒業させた男性だけでも、相当な数だろう、
 中には、もう二度とこなかった客もいれば、草薙のように、何度も足しげく通ってくれた客もいるだろう。
 マジで、その中には、
「ストーカー気質」
 の人もいただろう。
 特に、童貞の最初の相手ともなると、
「忘れられない女性」
 として、心の中に刻まれ、まるで、自分の彼女のような錯覚を起こす人もいるだろう。
 ストーカーにまではならないまでも、
「また彼女に入ると、抜けられなくなる」
 という思いから
「他の女の子に、相手をしてもらおう」
 と思う人もいるに違いない。
 そんなことを考えていると、急につかさから、
「あなた、誰かを殺したいと思ったことある?」
 と聞かれた。
 いきなりビックリしたが、
「つかさのような仕事をしていると、理不尽な思いと、さらにそこにお金が絡んできたりすると、歪んだ精神状態になるのかも知れないな」
 と考えた。
 まさか、本当に誰かを殺すようなことはないだろうが、殺したいと思うような相手がいるということである。
「どうしたんだい? 何か嫌なことをする客でもいたのかい?」
 と思わず聞いてしまった。
 ひょっとすると、もっと奥の深いことで悩んでいるのだとすると、客に嫌な人がいるくらいは、何でもないことだ。逆にそのことに触れられるのは、自分が却って嫌な思いをすることになるだけだと思うと、つかさとしても、やり切れない気持ちになって。歯ぎしりでもしたくなるのではないだろうか?
 歯ぎしりとまではいかなかったが、何か苛立ちが感じられたことから、
「客に嫌な人がいるというような、浅はかなことではないということであろうか?」
 と考えるのだった。
 つかさは、
「そんなわけじゃないんだけど、まあ、いいわ。さっきの話は忘れてちょうだい」
 といって、自分で弱気になりかけた自分を制して、そして、戒めているように思えてならなかった。
「うん、分かったけど、何か本当に苦しいことがあったら、いうんだよ」
 と諭すように言った。
 それは、完全に今までと立場が変わったことを示していて、草薙としては、
「これまでの恩を返すことができる」
 という思いと、
「これで、自分が主導権を握ることができる」
 という思いとが重なっているかのように思えたのだった。
 草薙が、つかさのことを気にしているそんな時、草薙がこの間まで通っていた別の店で、一人の男が、店の常連になりかかっていた。
 彼は、矢田宗次郎というサラリーマンだった。年齢は、草薙よりも少し年上で、28歳だった。
 会社では、第一線の営業として、やっと一人前の仲間入りができたのだったが、そんな矢田が、草薙との一番の違いは、
「矢田は、妻帯者だ」
 ということだった。
 矢田は、端正な顔立ちということで、学生時代から女にはモテた。高校時代から、叶もいて、童貞も高校時代に無事に卒業できたのだが、彼の最初の相手も、草薙と同じように、風俗嬢だった。
 さすがに、その相手がつかさだったというのであれば、
「話ができすぎ」
 ということであろうが、残念ながら、相手は別の女性で、彼女も同じように、
「童貞キラー」
 としては有名だった。
 その最初に相手をしてもらった風俗嬢の話では。
「たまたま私につく男の子に、童貞さんが多かったというだけで、ただの偶然にすぎないわよ」
 といっていたが、
「いやいや、童貞君が、この人に相手をしてもらいたいと思って指名するわけでしょう? だとしたら、それを偶然なんて言い方をすると、選んでくれた童貞君たちに悪いよ」
 と言われたものだ。
 確かに、最初は、たまたま彼女に童貞が多かっただけなのかも知れないが、彼女のことが、
「童貞キラー」
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次