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蔦が絡まる

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 草薙は、女の子と恋人のような付き合いをしたのは、一度だけだった。
 あれは、二十歳になる少し前くらいだったが、友達と呑みに行ったスナックに来ていた女の子だったが、相手も二人組で、自分の友達と、彼女の友達が、知り合いだったということで、意気投合し、まるで合コンのように、話が弾んだ時のことだった。
 まわりが気を遣ってくれたおかげで。うまく付き合えるようになったのはよかったと思う。
 三か月もしないうちに、草薙はめでたく、
「素人童貞」
 を卒業することができた。
 もちろん、彼女も草薙のことを童貞だとは思っていないし、彼女自身も、処女ではなかった。
 しかし、さすがに、草薙が、
「素人童貞」
 だったとは知らないだろう。
 ただ、一度身体を重ねたことで、いずれやってくるであろう、
「肉体的な飽き」
 というものを、ずっと意識するようになり、初めて身体を重ねてから、二か月ほどで、すでに飽きが来てしまったのだ。
 そんな時、鬱状態に陥ってしまった。
「飽きが来てしまった肉体」
 しかし、彼女としてのその女性のことを考えると、大きなジレンマがあった。
 そのジレンマをいかに克服するかということが、いかに問題であって、考えれば考えるほど、泥沼に入り込んでしまう。
 こういうのを、
「負のスパイラル」
 というのだろうか?
 そんなことを考えていると、ジレンマがストレスになってしまい、次第に一緒にいることが、苦痛になってきた。
 いつの間にか自然消滅のような形になってしまい、相手もいつの間にか、諦めているようだった。
 ただ、これは、彼女が、
「大人だった」
 ということで、事なきを得たのかも知れない。
「飽きれば、次の女の子」
 と、風俗界で渡り歩いているような、そんな雰囲気ではない。
 おかげで、風俗界を渡り歩くことに、一抹の罪悪感のようなものがあったが、おかげで、
「俺はこのまま、一生結婚しなくてもいいんじゃないか?」
 と思うようになったのだ。
 そんな時、つかさが、何かを言いたそうにしているのを感じ、訊ねてみると、何とも恐ろしいことを口にしたのだが、正直、自分の耳を疑ったとは、このことだったのだ。

                 矢田宗次郎

「一生、結婚などしなくてもいい」
 という考えは、高校生の頃からあった。
 実際に、まわりに、結構な年齢なのに、独り者の人も結構いた。
 父親の弟である、おじさんは、40歳を過ぎてもまだ独身、
「あいつは、お付き合いしている彼女もいないようだ」
 と、父親が嘆いていた。
 しかし、おじさんは自由に振る舞っている。
「結婚がそんなにいいものなのかね?」
 といって笑っていたが、それは決して強がりではないという気がした。
 実際に、自分が高校生になった時、
「彼女がほしい」
 と、たまらなく思ったものだったが、実際に、彼女ができた時には、
「あれ? こんなものなのかな?」
 と感情的に胸が躍らなかったのは、確かだった。
 中学時代は、
「思春期」
 という時期があり、誰もが陥る寂しさの紛らわせ方が、意識し始めた異性にだけ、目が行ってしまうのだから、当たり前のことと言えば当たり前であろう。
 そんな草薙だったが、風俗に通うようになり、
「肉体と感情とは、別のところにある」
 ということに気づくようになって、
「結婚なんて、しなくてもいいんだ」
 と思うようになった。
「どうせ結婚なんかしたって、性格か、肉体的などちらかが不一致だったと思えば、それ以降、我慢して結婚生活を続けるか、アッサリと別れるかのどちらかなんだ」
 と感じた。
 草薙は、
「俺だったら、肉体的にも精神的にも不一致だと思った瞬間、一緒にいることはできないと思って、すぐに別れるだろうな」
 と感じた。
 というのは、我慢しても、そこから生まれるものは何もないと感じたからだ。
 もちろん、子供がいたりすれば、簡単に別れるということは難しいのかも知れないが、相手が、
「無理だ」
 と言い出せば、もうそれ以上は無理だということは自分でも分かっている。
 というのも、その瞬間から、見ている方向が違う方向を向いていることが分かるからだった。
 同じ方向を見ているつもりでも、それはあくまでも、自分の感覚なだけであって、錯覚でしかないのだった。
「俺が、最初に感じた思いは、間違っていなかったんだ」
 と、相手も同じことを考えていたことが、別の方を向いていることを証明しているなど皮肉なことであるが、そのおかげで、自分の進むべき道が分かるのだから、それはそれで悪いことではないとおもうのだった。
 平成の時代に、
「成田離婚」
 などという言葉が流行り、その頃から、離婚というものが当たり前のようになり、
「今では、独身というよりも、バツイチの方がモテる」
 と言われた時期があったくらいで、さらに昔の、
「離婚すれば、戸籍に傷がつく」
 などと言われた時代は、
「今は昔」
 というところであろうか。
 そんな草薙が、再度、つかさに出会えたのは、本当に偶然だったのだろうか? つかさはかなり喜んでいる。
「こういちさんは、一体どこで浮気してたのよ」
 と、言って、再会した時、太ももをつねられた、
 冗談かと思ったが、結構強かったのでビックリしたが、
「それだけ、俺のことを思ってくれていたのか?」
 と、正直思ったほどだった。
 風俗というのは、
「相手を本気にさせてこそのプロだ」
 と言われるのだろうが、あまり真剣にさせてしまうと、今度はストーカーにならないとも限らない。いくらダメと言われても、出待ちして、相手が分からないように、後をつけるくらいのことはやりかねない。
 住まいを特定されれば、後は、昼職があれば、職場、学生だったら、どこの大学かくらいは簡単にバレるに違いない。
 だから、その気にさせても、本気にさせてしまうと、危ないということだ。
 いくら警察に話をしても、警察というところは、
「何かが起こらないと動いてはくれない」
 と言われている。
 嫌がらせのようなことをされるか、下手をすれば、危害を加えられない限り、警察は動かないのだ。
 しかも、けがをさせられたとしても、警察が警備してくれるわけではなく、被害届を受理したり、相手に注意勧告をする程度で、
「何ら助け」
 にはなっていない。
 下手をすれば、
「あんたが、その気にさせたから悪い」
 という言い方をされるかも知れない。
 もちろん、自分が風俗嬢だということを分かってのことだ。
 警察というのは、そういう偏見は平気で持っていたりする。それを思うと、何が正しいのか間違っているのか、判断の軸がおかしくなっているのかも知れない。
 確かに、ストーキングをする方から言わせると、
「彼女が、僕をその気にさせた:
 というに違いない。
 しかし、こういう業界は、その気にさせて、いくらお金を使わせて、自分の人気を上げるかというのが問題だ。
 それこそ、アイドルの世界と同じで、
「人気取りのためには、ファンをいかにその気にさせるか」
 というのと同じである。
 そういう意味で、アイドルと風俗嬢の共通点は、結構あるのかも知れない。
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次