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蔦が絡まる

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 といっていた。
「何軒くらいが、今のお気に入りなんですか?」
 と聞くと、
「そうだな。3,4軒かな? 店によって、個性が違ったり、コンセプトが違ったりするから、自分に合っているところに行けばいいのさ」
 というのだった。
 その割に先輩が通っている店のコンセプトはバラバラで、
「恋人イチャイチャ系」
 の店もあれば、
「マット専門店のような、テクニック重視」
 という店もあったり、
「妖艶な、人妻系」
 のお店があったりと、それも先輩の個性なのだろう。
「俺はそれぞれの店で、個性が違うからな。ひょっとすると、二重人格だと思われるかも知れないくらいさ。Sになったり、甘えてみたり、あるいは、相手を気持ちよくさせることに徹する店もある。もっとも、女の子によると言ってもいいかも知れないけどな」
 といって笑っていた。
 実に先輩らしい考え方だった。
 先輩にとって、風俗とは何かということを聞いたことがあったが、
「俺にとっては、皆自分の彼女のようなものだと思っていて、店のスタッフとも仲良くしたいと考える方なんだ。そうしておけば、居心地はいいしね。でも、ほとんどの風俗客というのは、まるでオタクのように、自分の殻に閉じこもっているだろう? だから余計に、風俗に来る連中は、皆女にモテないから来ているんだって思われるのは、正直心外なんだよな。女の子だって、せっかく来てくれるなら、その時間だけでも恋人と一緒にいるんだって思わないと、自己嫌悪に陥るかも知れないだろう? お金のためだけに、こんなことしているんだって思うと、女の子だって、病んでしまわないとも限らないよな?」
 というのだった。
 先輩のいうことには一理あった。
 風俗を楽しむというのは、その人それぞれにいろいろある。
 確かに、
「彼女ができない」
 という人もいれば、
「いろいろな女の子と一緒にいたりして、癒されたい」
 という思い。
 ただ、そこに金が絡んでいるので、風俗を利用しない人からは、まるで、
「売春」
 というイメージで見られ、女の子をも、偏見で見る人もいるだろう。
 ただ、それも、その人が自分で勝手に思うだけなら、それを否定してはいけないとも思うが、そのあたりの解釈も難しいところなのであろう。
 つかさと再会してから、またつかさに通うようになった。まだその店に、他にお気に入りに感じた女の子がいなかったのは幸いだったかも知れない。
 もし。他にお気に入りの女の子がいれば、それぞれに気まずかっただろうから、少しの間、この店と距離を取ったかも知れない。
 草薙という男はそういう変なところがあった。
「変な気を遣うところと言ってもいいだろう」
 そんな草薙だったが、つかさに対しては、他の女の子とは一線を画していた。
「まるで、かつての恋人」
 という感じである。
 少なくとも、自分の
「筆おろしをしてくれた相手」
 ということで、そこに他の女の子との差があっても、それは当たり前のことである、
 だが、それだけではなかった。
 もし、その後の再会がなければ、つかさに対しては、
「初恋の相手」
 あるいは、
「初めてつき合った女性」
 という、風俗嬢に対してのイメージとは違う感覚で、ある意味、神格化された存在で残ったかも知れないのだ。
 そういう意味で、
「再会したくはなかった」
 という気持ちも若干ないでもなかったが、実際に再会してしまうと、素直に嬉しいという気持ちが強く、やはり、それ以上の気持ちが湧いてくるのも当たり前だというものだ。
 つかさに入るようになって、彼女が、
「最初に出会った、数年前とは違うな」
 と感じた。
 それが、本当に月日の流れによるものなのか、それとも、年齢を重ねたことでの、感覚なのか。
 これらは、気持ち的なものが、自然の時間の経過というもので、想像できるものを、証明しているような感覚だが、そうではないような気がする。
 お互いに離れていた数年間、自分が過ごしてきた数年間、そして自分が知らない、つかさの数年間。それぞれが、絡み合って、プラスマイナスを繰り返しながら、時間を刻んできたことで生まれた距離なのではないかとおもうのだった。
 つかさは時々、一人で考え込むことがあった。少なくとも、昔のつかさにはなかったことだ。
 そんなつかさを見ていると、以前の、絶対的な立場。つまり、
「つかさに育てられている」
 という、まるで母親と子供のような関係の中では、つかさが一人で考え込むなどということはなかった。
 たえず、自分を見てくれ、その表情に安心していたの頃のウブだった草薙、明らかに草薙自身も、あの頃とは違っていたのだ。
 そんなつかさが、何かの悩みを抱いているのではないかと思ったが、さすがにプライベイトなことに口出しをしてはいけないと思った。
 そのことを最初に教えてくれたのは、つかさ自身であり、
「こういうところの女の子は、お客さんから、いろいろ詮索されるのを嫌う子が多いから、他の女の子に入った時も、あまり詮索したり、相手に、上から目線で話していると思わせない方がいいわよ。そうしないと、塩対応されて、結局自分が損をする」
「そんなものなんですか?」
「ええ、そうね。年上から言われると、それこそ、親や先生からの説教に思えるし、逆に年下から言われると、上から目線に見えて、言葉の重みも何もないので、完全に、右から左に受け流すという感じでしょうね」
 とつかさは言った。
 今でこそ、
「なるほど」
 と思うが、最初の頃は、
「理屈は分かるつもりなんだけど、本当のところは、ピンとこないというところなのだろうか?」
 と感じていた。
 つかさと、一緒にいる時間も、最初の頃は、90分であれば、時間の感覚は、
「その通りだ」
 と、さほど、実際と感覚に差はなかったのだが、今では、
「前よりも、感覚的に早い気がする」
 と思うのだった。
 以前は、時間の感覚をコントロールできる感覚ではなかったが、今では、時間をコントロールできる気がしてきた。
 だから、感覚を自由に操れると思うようになったせいで、今度は、
「受け身の時間」
 という、お部屋での時間というものが、それだけ、普段の時間とは違った独特なものだという感覚になるので、その分、余計に感覚が狂っていることに気づかなかったりする。
 それだけ、
「操ることができる」
 という気持ちが、さらなる傲慢さのようなものを生んでいるのではないかと感じるのだった。
 そんな中で、つかさが、自分の殻に閉じこもる時間があると思うと、さらに、時間の感覚に差ができてくる。
 つかさとしては、一瞬のつもりであり、実際にも一瞬だったのかも知れないが、区参議としては、
「一瞬などという言葉で片付けられるものではない」
 と言えるのだった。
 つかさとの再会まで、他のお店の女の子とは、やはり、最初のつかさの時のように、
「身体に飽きがきてしまった」
 ということで、ジプシーのように、また別の店に通うようになる。
 別に気を遣う必要はないのだろうが、飽きが来てしまった時、
「もし、彼女たちが彼女という立場だったら、どうなんだろうな?」
 と感じた。
作品名:蔦が絡まる 作家名:森本晃次