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悪魔のオフィスビル

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「それも一つの考え方だが、まずは、被害者の身元が分からないとどうにもならない。その捜査と、付近の聞き込み、そして、実際に犯人が、空き巣だったとすれば、被害の有無についても、調べる必要があるだろうな」
 といい、とりあえず、この場で分かっていることは、出揃った感じだった。
 捜査の道筋は初動としては、固まったといってもいいだろう。
 捜査本部は、いずれできるだろうが、まずは、この事件の概要を捉える意味で、この建物の構造に、一人の刑事は興味を持った。
 そもそも、三階にロビーがあるということに大いに興味を持ち、階下には、駐車場だけではなく、歯医者があるということが面白かった。
 一級河川の皮を利用したマンションには、こういう建築方法も多いということは聞いたことがあったが、そんなに多いものだということは、正直聴いたことがあったわけではなかった。
 だが、実際に見てみると、実に興味深い。
「仕事でなければ、ゆっくり見物してみたい」
 と感じるほどであった。
 彼が中学時代、友達が住んでいたマンションも、こんなところだったと記憶している。まだ中学時代だったので、何にでも興味を示す時期で、ちょうどその頃、推理小説が好きでよく読んでいたので、
「このマンションの構造を、何かのトリックに使えないものだろうか?」
 と思ったほどだった。
 実際に、その頃、自分でも小説を書いてみようと思っていろいろやってみたが、結論として、
「続かなかった」
 というのが一番の理由だった。
 いろいろなことに興味を持ってしまい、まるで、末広がりのように広がっていく興味は、抱いては消え、抱いては消え状態の中で、どうしていいのか分からないということになってしまったのだ。
 そんな中において、推理小説だけは、ずっと読んでいた。読みながら、
「俺だってこれくらい書ける」
 と、思いながら読むのだが、実際に書いてみようとすると、数行書いただけで、先に進まないのだ。
「考えすぎるからいけないのかな?」
 と感じたが、まさにその通りだった。
「何も考えずに、ただひたすら書いていけば、それでいいんだ」
 ということになるのだが、結局、いつも余計なことを考えていて、話が、あっちこっちに行ってしまい、支離滅裂になってしまうのだった。
 だが、友達のマンションの構造に関しては。
「もう少しで閃くことができるんだけどな」
 という思いを残しつつ、それでいて、意外とあっという間に、考えることを辞めてしまったことを友達に話すと、
「お前らしいな」
 と言われたのだった。
 その時は、笑い話として終わってしまったが、彼の頭の中で、その時の後悔が残ってしまっていた。
「あそこまで考えていたのに、どうしてアッサリと考えるのをやめてしまったのだろう?」
 という思いであった。
 考えるのをやめたというよりも、それ以上余計なことを考えて、考えが袋小路に嵌ってしまうのが嫌だったといってもいいだろう。
「これ以上考えてしまうと、また振出しに戻ってしまいそうだ」
 という結界のようなところが、彼には分かるようだ。
 だからいつも、
「途中までは、素早く頭が回っているくせに、急にそこから先、まるで忘れてしまったかのように、一気にトーンダウンしてしまうのだけど、どうしてなんだ?」
 と言われるのだった。
 自分でもよく分からない。
 分かっているつもりで話をしたり、それ以上を考えようとするのだが、睡魔に襲われてしまったり、急に記憶がなくなったかのような感覚に襲われてしまったりとで、何も考えないという考えに至ってしまうのだった。
 今回の事件で、犯人が起こした不可解な行動。それらを考えていると、
「まるで、犯人が自分だったら、似たようなことをしたかも知れないな」
 と考えたかも知れない。
 だから、今回の事件も、中学時代のマンションの構造の酷似点、さらに、途中まで回っていた頭が急に立ち止まり、これ以上進むと、元に戻ってしまうという錯覚にも似た感覚がよみがえってくるということを感じるのではないだろうか?
「俺って、いつもそうなんだよな」
 警察に入ってからも、結局、名推理と言えるところまでは行くのだが、度胸がないからなのか、最期は真実をいつも見失ってしまう。
 他の人が見つけた推理を、本来なら自分が見つけるはずだったと思うくせに、
「やっぱり、俺には不可能なんだ」
 という、限界を、いつも感じているのには、何かわけがあるのではないだろうか。
 それを考えると、今回の事件、
「俺が解決するなんて、どうせ、できないんだろうな」
 と考えるのだった。

                 捜査本部

 とりあえず、初動捜査としての体裁を取り繕ったところで、二人の刑事は、その場を制服警官に任せて、鑑識と一緒に署の方に戻った。
 K警察署というところは、F署ほど大きくもないが、県庁所在地の隣の警察署としては、立派すぎるくらいの警察署の本部を持っていた。
 数年前に、
「老朽化」
 を理由に建て直す計画が持ち上がり、やっと昨年完成した、出来立てほやほやの警察署で、
「日本でも、一番新しい警察署だ」
 ということで、居心地の良さを感じていた。
 しかし、昔からの馴染みのベテラン警察官は、
「昔がよかったな。これじゃあ、あまり面白くない」
 というのが本音のようで、
「電車の駅だって、新幹線が開通するといって建て替わってみると、結果、寂しい街並みが露呈したというだけになりはしないか?」
 ということであった。
 だが、警察署としては、まるで化石のごとくの警察署だったので、新しくなった警察署では、若い連中は、喜んでいた。
「昔のカビの生えたような庁舎は、恥ずかしくて。写真にも撮れないや」
 といっている、若い連中もいて、
「K警察への赴任というと、貧乏くじを引いたようなものだ」
 といっているのと同じである。
 実際に、K警察は、それほど凶悪な事件が起こることはそれほどなかった。殺人事件も近隣の警察署から比べれば、圧倒的に少なかった。今回のように、いきなり起こった犯罪に、皆対応できるのか、甚だ疑問だったのだ。
 そんなK警察内に、捜査本部ができるというのは、本当に稀なことで、経験本部の刑事が出張ってくることになるのだろうが、どれほどの緊張感になるのかということは、未知数であった。
「ここに捜査本部が置かれるのって、何年ぶりなんだろうな?」
 というと、少し年配の刑事が、
「そうだなぁ。5年ぶり以上であることには間違いないじゃろう」
 というと、
「また、県警本部からの運転手や、小間使いをさせられることになるんだろうか?」
 と、一人がいうと、
「しょうがないだろう」
 と言われた方は、深いため息をついて、
「あぁあ」
 と、露骨に嫌な顔をしている。
 県警本部の連中の前では絶対にできない顔だった。
「戒名くらいは決められるんでしょう?」
 というので、
「そうだな。適当につけておけばいいんじゃないか?」
 というので、
「河川敷会社事務所殺人事件」
 になった。
 それを聴いた他の刑事が、
「あの事務所って、あの河川敷の中にあるんだな?」
 と聞かれ、
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次