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悪魔のオフィスビル

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「ええ、あそこは、河川敷にできた事務所ビルが多いので、逆に似たビルもあったりするんですよ。面白い、特徴ですね」
 というのだった。
 まだ、捜査本部ができるということは決定しているが、県警から刑事はやってきていない。
「どうせ俺たちは、運転手や、案内役くらいしかさせてもらえないんだろうな?」
 と思っている刑事もさぞや多いだろう。
 どうしても、刑事ドラマなどを見ていると、
「支店は、本店には頭が上がらないものだ」
 ということになる。
「事件は会議室で起きているんじゃない」
 と叫んだ、昔のトレンディドラマに引っ張りだこだった、目薬のCMで有名なあの俳優に、今は亡き、かつてのコメディグループ五人組のリーダーだった。
「ダメだこりゃあ」
「次行ってみよう」
 という言葉が有名だった、あの俳優。
 さらには、かつては、ストリートミュージシャンの走りで、
「そいやぁ、そいやぁ、それそれ」
 という歌の文句が一世を風靡した(笑)例の俳優などの猛者が出演していたあの刑事ドラマを見ていた人は、きっとそう思うことだろう。
 どこまでが本当なのかむずかしいところであるが、
「刑事にも人それぞれ」
 ということであろう。
 ただ、
「本店、支店」
 という考えは、戦後すぐくらいからあったようで、ひょっとすると、昔の方がもっと露骨だったのかも知れない。
 何しろ、戦時中の警察というと、
「泣く子も黙る、特高警察」
 などと言われた時代があったくらいだからである。
 戦時中の警察というのは、基本的には、
「政府の犬」
 とでもいえばいいのか、
「治安維持法」
 という法律に守られて、警察は、完全に、国家に対して不満不平をいう分子を見つけ出して、処罰するという役目があった。
 それは、基本的には特高警察というものであろうが、普通の警察も、例えば、
「戦争に反対している人間を見つけ出して、拷問に掛け、政府のいうことを、身体に刻むというような形でのいたぶり」
 であった。
 今も昔も警察というと、どうしても、
「政府の犬」
 なのであろう。
 警察官というのは、キャリア組になると、官僚ということになるので、それも仕方がない。
 そして、完全な縦割り社会なので、官僚であるキャリア組に、ノンキャリの、現場の人間との確執が生まれるのも仕方がない。
 そのため、ノンキャリの間で、歪な関係が生まれてきて、それが、いわゆる、
「縄張り争い」
 ということになるのだろう。
「本店と支店」
「支店と支店同士」
 それぞれに確執があり、横同士でも、いがみ合っているといってもいいだろう。
 そういう意味で、警察という組織は、この戦後からの75年以上も経っているのに、まったく成長していないということで、あのような警察組織を皮肉ったドラマが生まれ、それが、一世を風靡し、
「警察というのは、ああいうところなんだ」
 と言われるようになった。
 特に警察は、一種の、
「お役所仕事」
 であり、結果、
「何か事件が起こらないと、警察は決して動こうとはしない」
 ということになるのだった。
 まだ、本店から来ないのをいいことに、所轄だけでの捜査会議をすることになった。
 参加するのは、初動捜査に入っていた、
「桜井警部補」
 と、
「辰巳刑事」、
 そして、
「清水警部」
 の三人だった。
 あまりたくさんの刑事が集まってしまうと、後で、本店との会議の時に、変なことを告げ口しないとも限らないということと、とりあえずの会議だということからのものであった。
「今回の事件ですが、被害者を今捜査しているんですが、すぐに身元が割れるのではないかと思ったんですが、そうでもないようなんです」
 と、一番若い辰巳刑事が言った。
「どういうことだい?」
 と、桜井警部補が聞くと、清水警部も聞き耳を立てていたが、
「今回の被害者の写真を、今回出社してきた人に見せたんです。ご存じのように、一般社員は、ほとんどがリモートワークで出社していないので、出社している人だけだったんですが、基本的に昨日は金曜日ということもあって、全部の会社の総務の人は出社してきていました。その人たち全員に見せたんですが、分からないといわれたんです。少なくとも、自分たちの会社の社員ではないということでしたね」
 と、辰巳刑事はいうのだった。
「ん? じゃあ、今回の被害者は、このビルの関係者ではないかも知れないということか?」
 と、桜井警部補がそういうと、
「そうなのかも知れないとも感じているんですよ。もちろん、全員に確認を取ったわけではないので、まったく関係のない人ということではないのかも知れませんけどね」
 と辰巳刑事は答えた。
「ところで、あのビルというのは、一つのフロアが小さかったように思うんだが、会社は皆、一つのフロアに一つの会社ということなのかな?」
 と桜井警部補が聞くと、
「そうですね。地上5階建てのビルなんですが、4、5階は、それぞれの会社なんですが、6、7階は同じ会社で、それぞれの、管理部と、営業部が入っているようです。同じ会社ということではありますが、本人たちは、別会社の意識のようでしたね」
 と辰巳刑事がいう。
 このビルは、変則な建て方をしているので、3階からが地上という認識もできるので、地下二階を一階と考えると、七階建てのビルと言えるのだった。
 さらに、辰巳刑事のいうように、他のビルでも、管理部と営業部が違うフロアという雑居ビルに入っている会社も少なくない。そういう意味で、彼らの言う、
「別会社の意識」
 というのも、無理もないかも知れない。
 営業所のようなところでも、管理部、物流部、営業部と仲が悪いのは分かり切っていることだ。
 そもそも警察だってそうではないか。
「捜査一課と二課、さらには、生活安全課や、マルボーなどでも、決して仲がいいとはいえない。交通課にしてもそうだ。やはり、警察というのは、お役所仕事だといってもいいのではないか」
 と誰もが思っていることであろう。
 そういう意味では、あのビルは、エレベーターに偶然でもない限り乗り合わせなければ、他の会社の人と会うこともない。それを思うと、このビルは、
「いい建て方をしている」
 といってもいいのではないだろうか?
 すると、今度は桜井警部補が思い出したように、
「そういえば、あのビルの入り口のすぐ横に、ほか弁屋があったじゃないか? あそこは、このビルとは関係がないのかい?」
 と、言うのだった。
「ああ、そこに関してはまだ話を聞いていませんでしたね。ただ、少なくとも、警備の機械の中には、ほか弁屋の部屋の警備はなかったと思うので、違うのではないかと思いますが、今度行った時に確認しておきましょう」
 ということだった。
「なるほど、とにかく、隣にはほか弁屋があるということだね?」
 と、清水警部に聞かれて、
「ええ、そういうことになりますね」
 と、辰巳刑事は答えた。
 それを聞きながら、桜井警部補は考えていた。
「辰巳刑事のいうように、ほか弁屋が、警備に関係のないところにあるということは、何か、今回の事件に関係しているということだろうか?」
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次