小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

悪魔のオフィスビル

INDEX|22ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

 世の中にはよく、
「自分の似た人間が、三人はいる」
 と言われるが、このドッペルゲンガーは、
「よく似た人」
 ではないのだ。まさに、
「その人、そのもの」
 なのだ。
 ドッペルゲンガーとしてよく言われるのが、
「本人と同じ行動範囲にしか現れない」
「言葉を絶対に発しない」
「表情が変わらない」
 などというのが、ドッペルゲンガーだといわれる。
 そして、ドッペルゲンガーということで一番問題となるのが、
「ドッペルゲンガーを見ると、近い将来、死ぬことになる」
 と言われていることだった。
 そういう意味で、仮にも警察官が、殺人事件の捜査をしているのに、軽々しく、こんな言葉を発するというところが問題だったのだ。
 だが、この言葉を言った警察官は、普段から、このあたりのことはわきまえているはずなのに、こんなことを軽々しくいう人ではないということは、分かっていた。
 だから、誰も触れなかったが、後で辰巳刑事が、
「さっきのドッペルゲンガー発言は、どういうことなんだ?」
 と、軽く聴いてみると、
「私がですか? そんな不謹慎なことをいうわけはないじゃないですか?」
 といって、打て合おうとはしない。
 彼は、自分の言葉に責任を持つ方なので、この様子もおかしい。本当に意識していったわけではないに違いない。
 だが、今の会話では、完全に本人も意識をしていないようだ。まるで、
「夢遊病」
 にでも罹ったかのように、意識が飛んでいると言ってもいいだろう。
 ただ、あの光景を見て、
「ドッペルゲンガー」
 を想像したのも無理のないことだ。
 それを考えると、
「あの時、皆何かの催眠にでも罹っていたのかも知れないな」
 と感じた。
 ただ、皆が一緒に罹るとすれば、あの光景には何かがあるのかも知れない。ひょっとすると、急に凶暴になって、
「殺さなくてもいい人を殺してしまった」
 というような感じである。
 そういうことを考えると、
「ひょっとして犯人は、普段は、まるで虫も殺せないほどの、穏やかで、余裕を持った心の持ち主なのかも知れないな」
 と感じるのだった。
 そんな風に考えてみると、
「あの時の犯罪は、衝動的な犯行というよりも、普段は、虫も殺せないような人が、急変し、狂気の沙汰となり、悪魔のようになって、いかにも人を殺しそうな人間が、やはり、人を殺してしまった」
 というようなことなのかも知れない。
 そんな風に考えると、
「どこかに、何らかの催眠効果のようなものがあったのかも知れない」
 と感じるのだった。
 事件は、それから急転直下で解決した。
 実は隣のビルに、先日、泥棒が入ったような、
「気配がする」
 という通報があった。
 というのも、実際には盗まれたものはなく、物色した跡も、ゆっくりと見ないと分からないくらいだったという。
 しかし、一つだけ、まったく違うところ、それも、普通であれば、絶対に置かない場所に置かれていたので、
「これはおかしい」
 と言い出して、
「まさか泥棒が? でも、何も取られていない。警察はどうしよう?」
 ということであったが、その泥棒が入ったと思われる日は、ちょうど隣のビルで殺人事件が起こった日だったのだ。
 だから、気持ち悪くなって、とりあえず警察に通報し、実際にいろいろ鑑識が調べてみると、
「そうですね、間違いなく盗みに入ったのは間違いないようですね。でも、盗みをやめているのはなぜなのか、分からないんだけど、隣のビルの殺人事件に何か関係があるんだろうか?」
 ということだった。
 そのうちの一人が、
「前にいた会社で、そういえば、殺されたという男を見たような気がするんですが、何しろかなり前のことだったので、何ともいえないんですが、あの時も。会社のビルに泥棒が入ろうとして未遂に終わったことがあったんです、そして、その時に見張り役をやっていたとみられていたのが、この間殺された男に似ていたようなんですお」
 というのだった。
「じゃあ、その人が殺されたことと、泥棒とは何か関係があるでしょうかね?」
 と刑事が聞くと、
「そのことを思い出した本人は、何か気持ち悪いものを感じていたといいます。あの時も急に辞めたのは、何かの偶然のようなものがあったのではないか?」
 と感じているということでした。
 その後、被害者が泥棒の片割れであるということがわかってくると、少しずつ、事件が見えてきたようだ。
 まず、殺人事件は、一人の男が、彼だけが、入るビルを間違えたようだった。彼らの泥棒グループは、ぐーぷで行動するパターンと、個人で動くパターンがあり、個人で動く方は、泥棒のテクニックがしっかりとあるのだろうだ、
 だがその男は、どこか抜けているところがあり、その時は入るビルを間違えたのだ。
 ただ、せっかくだから、ということで、そのまま逃げればいいものを、入らなくてもいいビルに泥棒に入ろうとして、下調べもしていないから、エレベーターが止まらないということが分からずに、まごまごしていると、隣のお弁当屋の人に見つかりそうになって、ナイフを向けようとしたところ、相手がいきなり扉を閉めたので、そのまま指が挟まってしまったという、そこに自分の身体がのしかかって、そのまま胸を抉ることになったという。
 つまりは事故だったのだ。
 殺人事件でも何でもないので、弁当屋の方では、扉を閉めただけで、そこに誰かがいたとは思ってもいない。だから、犯人の指紋も、被害者の指紋も摘出されなかったのだ。そもそも手に手袋をしている時点で、泥棒ということを皆考えはしたが、口に出さなかったというのは、大きな間違いだったのだろう。
 少なくとも、初動捜査で現場に行った。辰巳刑事は、地団駄を踏んで悔しがった。
 ただ、殺人事件ではなかったということは、よかったというもので、このビルの歪な構造と、警備の中途半端が生んだことだったのだ。
「下手にビル全体の警備は行き届いているのに、ロビーだけがザルだった」
 これが悲劇だったといってもいい。
 隣のビルに忍び込んだ連中は、一人が行方不明になり、そのうちに、隣で死んでいるのを誰かが見つけると、怖くなって、盗んだものを返しに行き、
「何もなかった」
 ということにしようと考えたのだということだった。
 だが、慌てたこともあって、すべてがうまくいくはずもなく、犯行が露呈したということだ。
 ただ、それでも、返しに行ったのだから、犯行としては、
「住居不法侵入罪」
 と、
「強盗未遂」
 くらいであろうか。
 殺人事件に比べれば、かなり犯罪としては小さなものだった。
 ただ、隣のビルはこちらと違い、かなり警備は中途半端だったようだ。
 警備にケチっているというのか、警備を掛けてもエレベーターは止まるし、防犯カメラすらついていないというようないい加減な作りだった。
 しかし、このパンデミックが起こり、自粛期間中に、空き巣が増えたということで、
「近い将来、警備を厳重にしようという計画があり、警備会社と商談をしているところだった」
 というのが、隣のビルの管理人の話であった。
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次