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悪魔のオフィスビル

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 このあたりは、川を挟んで向こう側がオフィス街で、手前が、食事やカフェ、ブティックなどが建ち並ぶ、店舗街という形で、別れているのだった。
 だから、こっちから見ていると、元々狭い敷地面積だった、事件現場となったビルが、余計に、細長く縦に伸びているのを感じさせるのだった。
 それを思うと、事件現場のビルだけではなく、このあたりのビルは、皆似たような形をしていることに気づかされた。
 このあたりの光景を知らないわけではなかったが、こうやって、喫茶店から見ることもあまりないので、余計に気になったのだろうが、今のところ、そこで止まってしまった状況に、辰巳刑事は、自分が事件の核心に近づいたことを、知る由もなかったのだ。
 それを教えられたのは、二人が警察署に戻った時だった。
「やあ、お疲れ様。何かわかったかい?」
 と、桜井警部補が待ちかねていたようだったが、
「まあ、最初はこんなものでしょう。あのビルの歪な構造については、その事情のようなものが分かった気がしました」
 ということであった。
「ほう、それは聞きたいな。利かせてもらえるかな?」
 と桜井警部補に言われたので、黒板に見取り図を描いて、実際の事情を、説明したのは、辰巳刑事だった。
 それを聞きながら、ところどころ、補足を加える日下刑事に、
「この二人は、意外といいコンビなのかも知れないな」
 と、早くも桜井刑事が納得したのであった。
「なるほど、そういうことになっていたわけだね。要するに、ビル側としては、仕方がないということで、ビルのロビーの警備に関しては、ある程度ザルでも仕方がないということにしたのかも知れないな」
 というと、ビルの管理人に話を聞きに行ったグループの方も、
「なるほど、そういうことだったんですね? 私たちは、管理人側からだけ、ロビーの警備が薄いことを何となくの理由で説明を受けたんですが、納得がいかなかったんですよ。何と言っても、言っていることの意味が分かりませんでした。そこには、仕方がないという理由があったことから、相手が警察であっても、どうしても言いにくいことをオブラートに隠しながらになるので、まったく本質をついた話にはなっておらず、結局、曖昧にしか聞こえなかったということなんでしょうね」
 というしかないようだった。
「なるほど、私も、まったく分からなかった事情がこれで繋がった気がするな。ロビーに防犯カメラがあるとしても、それはエレベーターの前と、正面玄関だけですからね。本来なら非常口にあってもしかるべきなのに、そこにないということは、管理人としても、つけても一緒ということで、言い方は悪いが、ケチったということになると考えれば、辻褄が合うというものだね」
 と、桜井警部補は言った。
「ところで、あのビルは構造上、曖昧な構造になっているようだけど、皆あのあたりはあんな感じの建て方なのかな?」
 と、日下刑事が聴いたが、
「ええ、そのようですね、ただ、管理人はそれぞれに違っているようなんですよ」
 と管理人に聴きに行ったグループがいうので、
「それはどういう?」
 と桜井警部補が言った。
「あそこは、土地の所有者が、オフィスビルをそのまま管理しているようで、昔から、あそこには、住宅があったんですよ。そこを駅が再開発を目的として、立ち退きにあった。そこで、ビルごとに管理人を立ち退いた人たちに任せることにして、彼らにも儲かるようにしたというわけですね」
 と答えた。
「じゃあ、住宅だった時も、皆同じ大きさの似たような建て方だったということかな?」
 と桜井警部補が聞くと、
「ええ、そのようですよ。あのあたりの土地の構造から、それぞれのビルの圧力で支え合うように作るというのが、基本的なつくりになっているようです。それは、管理会社に聴いてきました」
 というのを聴いて、
「それは実に面白い、なるほど、土手とは反対側から見ると、どこが入り口か迷ってしまうのかも知れないな」
 と桜井警部補がいうと、
「それはそうかも知れないですね。とにかく、あの辺りは川があるということで、どうしても、不規則な建て方にしかならない。それは、山の中腹や麓にあるマンションなどにも言えることで、このK市というところは、土地という意味では、不規則な建て方をしているところが多いので、結構似たようなところが多いのではないだろうか?」
 と、日下刑事が言った。
 桜井警部補が頷くと、他の三人の頷いて、どうも、この街の特性が、この事件には孕んでいるように思えてならなかった。
「似たようなビルが多い」
 これは、皆の心に少しずつ引っかかっていたのだった。
「ところで、君たちの方では何か分かったかね?」
 と、テナント関係を捜査していた人たちの方でも、あまり進展はないようだった。
「ただ、一つ気になるのは、ここの最上階と、その一つ下の部屋を借りている事務所があるんですが、そこは、同じ会社なんですよ。前は一つしか空いていなかったので、隣のビルを借りていたそうなのですが、こっちのビルのちょうど階下に部屋が空いたので、そちらに移動したそうなんです。管理会社としても、空き事務所を作るよりも、早速新しく入ってくれた方がありがたいし、しかも、階上が同じ会社ということであれば、安心ですからね、だから、家賃も少し安めで契約できるということだったので、引っ越しに手間とお金がかかっても、同じビルにある方がいいということで、こっちのビルに移ってきたということでした」
 というのを聴いて、
「なるほど、それは十分にあり得ることのようだからな」
 と桜井警部補がいうと、
「そうなんですよ。で、その時話していたのが、隣のビルと、建て方はほぼ同じらしいんですよ。もっとも、後で聞いたのでは、管理会社も、工事を請け負う会社も皆同じだということなので、迷うことなく、同じにしておくことが一番いいのは当たり前のことですよね。だから、引っ越してきても、まったく違和感がなかったということでした」
 という。
「そうか、だから、こんなに歪なつくりのビルでも、皆作り方が同じだから、迷うこともなく、表から来た人の混乱しないんだろうな」
 と辰巳刑事がいうと、
「そうなんですが、実際に入っている会社がいうには、あまりにも似すぎているので、たまに、別のビルに間違って行ってしまう人がいるって言っていましたね。そう、まるで昔の公団のようなものですよ。棟にアルファベットのようなマンションの記号がないと、分からないのと一緒ですよね。でも、このあたりのビルは敷地宴席が小さいということもあって、そんなことはしていないということです。だから、実際に間違える業者だったり、時には、新聞屋が間違えることがあるくらいだといって笑っていましたよ」
 というのだった。
「まるで、ドッペルゲンガーのような建物だ」
 と、誰かが言ったが、思わずその場が凍り付いた。
 表現が的確過ぎたのか、笑い事ではすまないようだった。

                 大団円

 ドッペルゲンガーという言葉は、意外と誰でも結構知られているようだ。
「もう一人の自分」
 という表現が一番ピッタリであろう。
「よく似た人」
 というと間違いになる。
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次