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悪魔のオフィスビル

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「本当にいい加減なビルが、隣同志にあるということか。片方は、せっかくいい警備をしているのに、トイレのために、ロビーがいい加減になってしまい、片方は、最初から警備が手薄で、まるで、泥棒に入ってくださいと言わんばかりだったわけだ。そういう意味では、死んでしまった人は気の毒だが、やはり、悪いことをしようしたのだから、天罰が当たったということになるのかな?」
 と桜井警部補がいうのだった。
 ただ、辰巳刑事は、何となく、
「これで本当に事件が終わったということでいいんだろうか?」
 と、何か、気持ち悪さだけが残った。
 それはきっと、
「どちらのビルも、このままだったら、また同じような事件が起こるかも知れない」
 と感じたからではないだろうか?
 それを思うと、どうもどこかしっくりこない辰巳刑事は、事件をおさらいしてみることにした。
「とにかく、弁当屋には、カギを渡して、そして、あちらのカギを掛けるようにさえしておけば、あんな出会いがしらのことはなかったはずだよな。隣のビルと同じように、カギをこじ開けようと思ったのに、殺された男も、どうしてその時カギが開いていたのかということを不思議に思わなかったんだろうか? よくある締め忘れとでも思ったんだろうか?」
 と考えた。
「そうだ、そもそも、あそこに防犯カメラがないのはおかしい。いくら、最初からあそこは非常口だからということで、意識していなかったのかも知れないが、そのせいで、誰も犯行現場を見たわけではないので、ああいう形で手打ちになったわけだが、あれで本当によかったんだろうか?」
 とも思うのだった。
 他にも可能性はないわけではなく、ただ、こう考えることで、すべてがうまく説明できるということになり、しかも、犯罪としては、
「いない犯人を必死で探すよりも、犯人がいないことをいかに証明するかということでは、この事件をあのように解釈することが一番いい」
 というわけなので、
「死んだ人間は口をきけない」
 ということで、肩を付けたとしか思えない。
だったら、
「もし、あれが殺人事件だったら、どういうことになるのだろう?」
 と思えてならない。
 そういう意味では、
「あまりにも、簡単に片づけすぎではないのだろうか?」
 というモヤモヤを考えているうちに、この間の、ふとした言葉が思い出された。
「何かドッペルゲンガーのような建物だな」
 と言ったのを思い出した。
 ドッペルゲンガーも、有名な言葉ではあるが、誰も話題にしようとしない。
 さらに、怪奇現象に近いことで、かなりの著名人が、
「自分はドッペルゲンガーを見た」
 といって死んでいっているではないか。
「芥川龍之介」
「リンカーン」
 などの著名人が、そういってから、すぐに命を落としている。
 世界の著名人には、少なくとも十数名、そういう人がいるという。
 これを一体どう考えればいいのだろう。
 辰巳刑事が抱いたモヤモヤも、あの時の言葉が引っかかっているのかも知れない。
 刑事なんだから、
「こんなことは過去のこととして、割り切って、次の事件を追いかけるようにしなければいけない」
 のであろう
 しかも、それができるのが、辰巳刑事だったはず。
 それなのに、しばらくこのような状態となり、何をどうしていいのか分からずに、まるで、袋小路に入り込んだ辰巳刑事は、数か月、まるで躁うつ病のように、うだつが上がらなかったのだ。
 それを見かねた桜井警部補は、
「少し休養が必要だ」
 ということで、一か月の休暇を与えた。
 清水警部も、それには納得し、
「彼のような優秀な刑事には、早く立ち直ってもらいたい」
 ということであった。
 まさか、彼がこんな状態になれば、
「見なくてもいいものが見えるかも知れない」
 ということを感じたのは、日下刑事だった。
 彼も、辰巳刑事ほどひどくはなかったが、モヤモヤしたものがあり、何とか最近立ち直ったのだ。
 そこで彼は、
「辰巳さん、ドッペルゲンガーを見るようなことがなければいいが」
 ということを言っていた。
「日下刑事も、ドッペルゲンガーを意識されたんですか?」
 と桜井刑事に聞かれて、
「私は夢で、それらしきものを見たんですよ。それで少し怖くなったんですが、逆にそのおかげなのか、鬱状態から抜けることができたんです。だから、辰巳刑事にも同じようなタイミングを逃さないようにしてもらいたいと思っているんです、下手をすると、躁鬱症から抜けられなくなるのではないかと思うんですよ」
 と日下刑事は言った。
 この言葉正直、ある程度的を得ていた。
 そして、果たして辰巳刑事が、皆の心配を取り越し苦労に変えてくれたかどうか、それは、読者の皆さんが、想像してみてください……。

                 (  完  )
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作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次