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悪魔のオフィスビル

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「ええ、そうです。私も見ました。それでですね。深夜に来ている人が私にいうんですよ。午後九時十五分を回ったら、下のカギを閉めてもいいかってですね。私たちが、基本的に。9時までの診療なので、それ以降は、他の事務所もいないだろうということで聞いてきたんでしょうね。私は、構いませんと答えました。その人の言い分も分かるんですよ。寒い時とか、雨の時など、ホームレスなどは、扉が開いていれば入ってきますからね。タバコを吸う輩だったら、これ幸いと、人のことを考えずにタバコを吸うでしょう。でも、吸い殻の始末もしないようなやつなので、もし、火事にでもなったら、ビルの上の階にいれば、逃げられない可能性が高いでしょう? 何しろ、敷地面積が狭いし、エレベーターは危ないので、非常階段になる。これも危ないだろうから、火事を起こすというのは、致命傷になるというんです」
 という看護婦の話を聞いて、
「それは当然の言い分でしょうね。それで、歯医者さんが帰ったあとに、下を閉めるようにしているわけですね?」
「ええ、そうです。今は、最期に出るのは、うちか、たまに残業する会社くらいなので、ほぼ午後九時半以降開いているということはないんですけどね。その会社の人は、このビルに3年くらいいたでしょうか? 結構短い間だけだったと思うんですが、その人がいうには、下を閉めたとしても、遅い時間に戻ってくる人がいても、カギは皆持っているはずなので、開けて入ればいいだけですよね。自分が今は朝までいるから開いているだけで、もし自分がいなければ、本当は閉まっているはずだからですねと言っていました。それももっともな話ではないかと私は思ったんですよ」
 というのだった。
「うん、確かにそうですね」
 と刑事は言ったが、今のところ、
「だから、どうだというのだ?」
 と、正直、何が言いたいのか、分からない状態だった。
「その事務所が退去する少し前だったんですが、そのシフト制の人で、カギのことを気にしている人がいると言いましたが、その人が、ある時、少し騒いだことがあったんです、その人の言い分ももっともだったんですけどね」
 と看護婦は言った。
「ほう、どういうことですか?」
 と刑事が聞くと、
「あれは、正面玄関のカギを閉めるようになってから、数か月くらいのことだったでしょうか? 正面玄関のカギは、前から、最終退出者は最終警備を掛けてから、表に出て、キーを使ってカギを掛けて帰るというのが当たり前のことになっていたんですが、その人もそうしていたんですよね」
 と看護婦がいう。
「それはそうでしょうね」
 と刑事がいうと、
「だけど、非常口側は何もいわれていないので、閉めていなかったというんですよ。でも、よくよく考えると、正面玄関を閉めたんだから、非常口側の扉も閉めないと意味がないと思ったらしいんです。それで何度か、非常階段を閉めてから、早朝帰っていたというんですよ」
「なるほど、分かります。普通考えれば、当たり前のことですよね」
 と刑事が相槌を打つと、
「だけどですね。どうも、その扉に、閉められると困る。最近閉まっているので、毎回、管理人に開けてもらっているという内容のことを、非常階段のノブのところに書いて、貼ってあったということなんです。私たちは、ほとんど見ないので、気にもしていませんでしたが、シフト制のその人はすぐに気づいて、これはおかしいといい出したんですよね」
「それで、ここに聴きに来たんですか?」
「いいえ、その人も、まずは、どこが貼ったのか分からないということで、最初は、ほか弁屋さんに聞きに行ったということなんです。何しろ相手は、外人でしょう? なかなか話が込み入ったところになると通じないようで、今度は私のところに来たんですよ」
 というではないか。
「それで、分かったんですか?」
「いろいろ話を聞いてみて、話をしているうちに分かってきましたね」
 と看護婦は言った。

                 ドッペルゲンガーのような建物

「ほう、いろいろな事情があるのかな?」
 と刑事に言われて、
「ええ、私どもも、分からなかったんですが、話をしているうちに分かってくることが結構ありました。ただ、断っておきますが、管理人に確認したわけではないので、あくまでも、ここだけの話で納得しただけだったんですけどね」
 と看護婦は前置きをしたうえで、
「相手がまず、ほか弁屋から言われたのは、あそこを閉められると、トイレに行けないといわれたというんですよね。私たちは、このビルに入ってから結構経ちますし、私がこの病院で看護婦をするようになってから、5年以上が経っているので、その間にいろいろあったのを覚えていたんです。さっきのトイレという言葉で、ピンとくることもありましたね」
 という。
「ほう、何かあったんですか?」
 と言われた看護婦は、
「ほか弁屋は、元々トイレがなかったんでしょうね。どうやら、トイレを管理人にお願いしたなないかと思うんですよ」
 というと、
「トイレができたんですか?」
「ええ、そのトイレというのが、エレベーターの隣にある扉のところだったんですよ。私はそれを知っていましたけど、シフト制の人は知らなかったようなんです。あそこを、倉庫だと思っていたそうですからね。そして、もう一つ言っていたのは、ほか弁屋から言われたこととして、あのロビーとは自分たちとは関係ないといわれたらしいんですよ。それを納得したのは、トイレの存在を知らなかったからなんですよね。だからきっと、、弁当屋が変なことをいうと思ったんでしょうね」
 というのだった。
「というと?」
 と、刑事の方とすれば、話についていくのがやっとだった。
「そのトイレを利用するのに、普通であれば、エレベーターの前に、一つ扉があるので、そこから出入りしているはずだから、非常口のカギが内側から掛かっていても、問題ないという理屈になると、シフト制の人は考えたようなんですよ」
 と看護婦がいうと、刑事は半分頭を抱えていた。
「ああ、きっと刑事さんも、あの時のシフト制の社員さんと同じ感覚になっているんでしょうね。それは分かります。決定的なことがわかれば、すべてがハッキリ繋がるわけですからね」
 と、看護婦は続けたのだ。
「我々が頭が固いのか、何となく、矛盾のようなものは感じているんですけどね」
 といって、刑事は苦笑いをする。
 看護婦としても、自分もその時、つまりシフト制の社員と話をしている時は、矛盾を感じながら、何かモヤモヤとしたものがあったのだ。
「問題は、弁当屋が、ロビーの警備に関係ないというところにあるんですよ」
 と看護婦が言った。
「どういうことですか?」
 と刑事が聞くと、
「いいですか? あのロビーに弁当屋が関係ないということは、彼らが非常口に出る時、ロビーを通らないということなんですよ。つまり、弁当屋から非常口には、直接出入り口があるだけで、ロビーには、必ず、非常口からロビーに入る扉を開けていかなければいけないということになるんです」
 と、看護婦がいうと、刑事は、少し考え込んでいたようだが、
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次