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悪魔のオフィスビル

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 ただ、今回は大人が相手、たぶん、昨日の殺人事件関係のことであることは分かっているのだろう。
 今回病院を訪れたのは、辰巳刑事と、日下刑事の二人だった。すでに、お互いに事件について何となくであるが話をしているので、
「お互いに、昔からの中のような気がするな」
 ということを感じていた。
 歯医者に話をしにきたのも、最初から計画していたわけではなかったが、それぞれに気づいて、阿吽の呼吸で、エレベーターに乗ったのだった。
 最初にどちらかが先に気づいて、
「あっ、そうだった」
 とすぐに気づいたことで、
「まるで、お互いにすぐに気づいたかのように、まわりから見れば、そう感じることだろう」
 と考えると思ったのだ。
 実際に、階下に来ても、二人の息はピッタリのようで、最初に看護婦に話しかけたのは、辰巳刑事であったが、日下刑事は、黙って従っているだけだった。
 本来なら、それぞれの署では、最前線のトップといってもいい存在。
 であれば、主導権は普通に考えれば、県警本部から来ている日下刑事が握ることになるだろう。
 しかし、実際に最初に話しかけたのは、辰巳刑事、ある意味、
「地の利」
 ということで、日下刑事には、相手に譲るというところを備えている人間だったのだ。
 ただ、相手が、
「本部に対しての対抗心」
 というのを露骨に示していれば、
「自分も黙っていない」
 とでも、思うことだろう。
 だが、相手がちゃんとこちらを立ててくれて、お互いに立場を尊重するような相手には、自分から敬意を表するということを忘れることはないのだった。
「辰巳刑事は、なかなか、自分をわきまえておられる」
 という言い方を、日下刑事はわざとした。
 もし、そこで対抗心を燃やしてくるようであれば、こちらも、
「目には目を、歯には歯を」
 ということで、対抗心を燃やすことだろう。
 本部の権威をひけらかすということは嫌いだったので、あくまでも、自分の実力を表に出すということになるのだろうが、辰巳刑事もそのあたりはわきまえているので、
「わきまえる」
 という言葉の本当の意味を分かっているのだった。
 わきまえるという言葉には、
「物事の善悪をハッキリとつける」
 という意味がある。
「勧善懲悪であっても、理不尽であれば、成立しない」
 ということを、辰巳刑事にいいたかったのであろう。
「ここのビルのことなんですが、この歯医者さんが、結構以前から、ここにあったということを聞いたものですから、少しお話を伺いたいと思って来てみたんですが、よろしいでしょうか?」
 と、辰巳刑事が切り出した。
 時間的には午後1時半くらいであった。
 この時間にやってきたというのは、理由があった。
 歯医者の昼休みというのが、午後1時から二時半ということになっていたからだ。1時間半をとっているのは、たぶんであるが、
「午前の患者が少しずれこむ可能性があったりすると、1時間だけだと、食事をする時間もないほどに、大変だからなのかも知れない」
 と思ったのだ。
 だから、午後1時ちょうどに来るよりも、少し時間をずらした方がいいと思って、この時間に来たのだった。
 すると、看護婦は、ニコっと笑って、
「いいですよ。ただし、お弁当を食べながらでもいいですか? 昼休みの時間って貴重なもので」
 と言った。
「ああ、もちろん、構いませんよ。こちらが一方的に押し掛けたのですから」
 と刑事は言ったが、彼女としても、刑事がこの時間に訪ねてきたことは、ちゃんとこちらのことを気遣ってのことだということを分かってのことであろう。
 そう思うと、質問に答えるのも、気分的に嫌ではなかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらいます。じゃあ、こちらにどうぞ」
 といって、中に入れてもらった。
 歯医者というと、独特の臭いがある。薬品の臭いなのか、消毒液なのか、とにかく、まずは臭いだけで、たじろいでしまう。
 そこに持ってきて、さらに辛いのは、
「キーン」
 という、歯を削る音である。
 子供の頃など、あの音を聴いただけで、逃げ出したくなったという人が、ほとんどなのではないかと思うほどに、歯医者というのは、
「聴覚と嗅覚で襲い掛かってくるところだ」
 という意識が強くなってくるのであった。
「まず、お聞きしたいのはですね。この病院が昔からあったのであれば、ほか弁屋さんのこともご存じではないかと思ったんですよ。このビルというのは、どうも構造的に不思議な構造になっているだけではなく、中に入っているテナントも、それぞれに特徴があるような気がするので、一つ一つ調べる必要があると思ってですね」
 というのを聴いて、看護婦は、
「刑事さんたちは、昨日の殺人事件を調べているわけですよね? 私はその現場を直接見たわけではないのですが、どんな感じだったんでしょうか?」
 と看護婦がいうので、
「被害者は、どうやら非常階段の方の扉を開けようとしたんでしょうが、その時、だしぬけに、非常階段の方から出てきた人に、刺されたような感じだったんですよ」
 という。
 看護婦は少し考えていたが、
「そうなんですか? あの扉に関しては、以前から曰くというか、ちょっとしたことがあったんですよね。もちろん、今回の事件とまったく関係のないことなのかも知れないんですけどね」
 という。
「どういうことでしょうか?」
 と刑事が聞くと、
「今はまだ貼ってあるかどうかわからないんですが、今から半年ほど前のことでしょうか? 今はもうこのビルから退去した会社があったんですが、その会社が、5階にあったんですよ。今は、4階の会社の別部署が入っているようなんですけどね」
 と看護婦がいうと、
「それは知っています」
 と刑事は答えた。
「その前の会社は、システム関係の会社のようで、シフト制を敷いているのか、普通に日勤者が、午後7時まで仕事をしているんですが、その時間に出勤し、早朝帰宅するというシフトの会社があったんです。その深夜の人は、業務の監視だけだったので、基本、毎日一人だとおっしゃってました」
 と看護婦が言った。
「なるほど、その会社は、今はいないわけですね?」
 というと、
「はい、そうです。で、その会社の人が最初に気にしだしたことが、ちょうど一年前のことだったんですが、どうやら、3階のロビーで、深夜、ホームレスなのか、通行人なのか分からないけど、侵入してきて、中でタバコを吸っているということだったんですよ。実際に、タバコの吸い殻が結構落ちていましたからね」
 という看護婦に対し、
「ロビーの中にですか?」
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次