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悪魔のオフィスビル

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 といって、警察手帳を提示すると、露骨に困ったような顔をしたが、すぐに気を取り直して、
「じゃあ、奥の方で」
 といって、中から奥に通された。
 きっと、表情が元に戻ったのは、
「自分たちが、事件のことで話を聞きたいと思っている」
 ということが分かったからだろう。
 最初に警察手帳を見ただけで、あそこまで露骨に嫌な顔をしたのは、たぶん、今までにも警察相手に、嫌な思いをしたからに違いない。しかも、その表情は明らかに、敵対視しているのだった。
 ということは、今までに、入国の際か、それとも、不当就労などが横行している中、
「我々は違うのに、何で皆一緒のように思われるのか?」
 ということで、怒っているのかも知れないが、それだけだろうか?
 ひょっとすると、本当に不当就労されていて、見つかれば、強制送還されることが分かっているので、身構えたというところであろうか?
 あそこまで露骨な態度をとるのは、そこまでの事情があると思っても仕方のないことであろう。
 ただ、今回は、事件の捜査が中心であるし、管轄部署も違うので、そのあたりを、彼らも知っているのかも知れない。もし、不当就労であれば、その後ろに何らかの組織のようなものが蠢いているだろうから、まさかと思うが、そこまで調べておかないと、事件も進展しないかも知れないと思えた。
 実際に、不当就労のトラブルから、殺人事件に発展したという例も、全国的にはあるのかも知れない。
 そのあたりも、調査の必要があるのではないかと、実際に外人を目の前にすると感じないわけにはいかなかった。
「いくつかお聞きしたいんですが、このお弁当屋さんは、このビルのテナントになると思ってもいいんですか?」
 と聞くと、
「ええ、そうなります」
「じゃあ、このお店ができたのは、いつ頃ですか?」
 と聞くと、
「私は、ここに入ってからまだ3年目くらいなんですが、6,7年前からお店自体はあると聞いています」
「じゃあ、このビルの他のテナントはどうですか?」
 と聞くと、
「私たちは、ビルのテナントといっても、他のオフィスとは違って、独立した店舗なんですよ。他は皆会社でしょう? 大家さんが、一階は、店舗にしようと思っていたらしいんです。コンビニだと狭すぎるので、ほか弁屋がちょうどいいということで、ほか弁屋も、このあたりを物色していたようなので、結構早く契約は成立したんだということは聞いていますね」
 と答えた。
「なるほど、そうだったんですね? でも、他のテナントとは別ということは、どういう管理になっているんですか? 戸締りや警備などですけど、私が知っているところとして、こちらのお店は、11時まで営業されているんですよね? 基本ですが、たぶん、お宅が一番遅くまで営業されているとおもうのですが、その時に、隣のロビーについては、何かご存じですか?」
 と聞くと、
「先ほども申しましたとおり、うちは、向こうとは関係ないので、向こうの警備に関しては、ほとんど意識がありません。向こうの警備をうちが掛けるわけではありませんからね、でも、私が知っているのは、2階の歯医者ですが、あそこは、午後九時までやっているようですよ。看護婦さんの一人と私はお友達なんですが、その人がいうには、バスの時間があるので、9時半過ぎくらいまでは、事務所にいるということを言っていましたね」
 ということだった。
「ああ、じゃあ、下の歯医者は、上のロビーと同じ警備なんですね?」
 ともう一人の刑事がいうと、
「ええ、その通りです。だから、詳しいことは歯医者さんに聞かれればいいかも知れませんね」
 ということであった。
「ところで、この人なんですが、見覚えありますか?」
 といって、被害者の写真を見せると、すぐに、
「知らない」
 とは言わず、さらに凝視するかのように写真を見ていた。
 それを見る限り、
「まったく知らない」
 ということではなさそうだが、じっと見ているということは、
「知っているには知っているが、そこまでハッキリとは知らない」
 ということになるのだろうと感じた。
「この人、何度か、お客さんとしてお弁当を買いに来られたことがあったような気がしますね」
 と答えたので。
「それはだいぶ前のことですか?」
 と聞くと、
「それほど前というわけではないですね。ここ数か月の間に、私がいる時間帯で数回くらいですかね? ひょっとすると私のいない時間帯にも買いに来たことがあったかも知れないですね」
 というのであった。
「常連さんというところまでは行っていないということでしょうか?」
 と聞くと、
「ええ、常連さんであれば、もっと頻繁に来てくれるでしょうし、最初に比べて、どんどん頻度が短くなるはずですが、この人は頻度が短くなるということはなかったんです。だから、本当に時々買いに来る客ではあるけど、常連になってくれるかも知れないと思っていたけど、ならなかったそんな客の一人ですね」
「どういう客って多いんですか?」
「そうですね、人それぞれですから何とも言えないですが、そんなには多くはないと思います。ここまでちょくちょく来てくれるのであれば、普通なら常連になってくれる人が多いので、そうでもないということは、食事に関しては、飽きっぽい性格なのではないかと思ったんです。だかあ、うちに買いにこない時は、カレー屋だったり、牛丼屋だったり、注文しておいて、取りに行くというそういうパターンの人が、結構多いと思っているので、この人もその一人なのではないかと、私は勝手に想像していました」
 という。
 この話は、実に参考になった。
 実際に後から調べてみると、この客は近くのカレー屋だったり、牛丼屋で、時々、電話注文をしておいてから、取りに来る客ということだった。
「今では、ネットでも、注文できるのに、この人は、律義にいつも電話をしてきましたね」
 というのが共通した意見で、弁当屋も、同じことを言っていたのだった。
 とりあえず、ここで聞いた話は、それくらいだったので、お弁当屋と、再度話をする前に、前述の、
「階下の歯医者に話を聞くのが、先だろう」
 と考えた。
 歯医者の受付には、小柄な女性がチョコンと座っていて、ほか弁屋の女性定員がいうには、
「小柄な女性が受付に座っていると思います」
 というが、それに間違いはなかった。
 歯医者の受付はエレベーターから降りて、目の前にあった。そして、その奥が診療室になっているのだった、
「ほか弁屋の下が、そのまま歯医者になっているわけか?」
 と、大体の地形関係が分かったのだ。
 刑事がエレベーターから降りて、受付に向かうと、なるほど、小柄な女性が、立ち上がって、挨拶をした。その身長は、150cmはないであろうことはすぐに分かったのだった。
「すみません、ちょっとお伺いしたいんですが」
 と警察手帳を提示し、声を掛けると、歯医者の女性は一瞬、たじろいだ雰囲気であったが、すぐに、気を取り直して、
「はい、何でしょう?」
 と笑顔さえ向けた。
 そもそも、歯医者というのは、大体において、嫌がられるところであるので、子供には、優しくするように心がけていることから、普段から、笑顔には気を付けているのだろう。
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次