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悪魔のオフィスビル

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 目撃情報といっても、時間が時間なので、人通りはあ極端に少なかっただろうが、逆にいえば、
「毎日同じ時間にウロウロしている人がいるかも知れない」
 という考えがあり、実際に、その通りだったようだ。
 まず、このあたりの目撃情報を得る班のことであるが、
「まずは、犯行時刻の前後一時間くらいのあのあたりにいる人を中心に探ってみましょう」
 と言い出したのは、K署の刑事だった。
 県警本部の刑事も、
「あ、ああ、そうしよう」
 と、どこか、挙動不審にも見えるほどであったが、どうやら、彼は、刑事としての経験は少ないようだった。
「私は、一年前くらいまでは、交番勤務をしていた巡査部長だったんですよ」
 といっていた。
「じゃあ、こういう犯罪捜査は、まだ不慣れなんですか?」
 と言われた本部の刑事は、
「ええ、こうやって、所轄の捜査本部に配属されることが多いんですが、まだ、今回で3回目なんですよ。まだまだ緊張が取れませんね」
 というので、
「何を言ってるんですか。私は刑事になってから、四年目ですが、今回のような捜査本部ができる事件は、私も三回目なんですよ。何と言っても、このK署は、治安がいいというのか、凶悪犯というのは珍しいんですよね」
 ということで、県警本部の刑事は少し安心したようだった。
「交番勤務をされていたのであれば、現場というか、庶民の生活に十分近いところで見ておられたでしょうから、いろいろなことが分かっているんじゃないですか? それを今回の事件の捜査にも生かしてもらいたいものですよ」
 というと、
「ええ、分かりました」
 といって、
「じゃあ、まずは、犯行時間の前後一時間くらいの間の人通りを確認するというのが一番じゃないでしょうか? 最近では、例の世界的なパンデミックのせいで、ホームレスも増えていますよね。ホームレスというのは、自分のパターンを持っているから、毎日同じ行動をするんじゃないでしょうか? 私なら、ホームレスをまずさがしますね」
 と続けた。
「ええ、その考えはもっともだと思いますね」
 と言って、意見が一致したところで、まずは、犯行現場に午後11時少し前につくように行ったのだ。
 大通りを挟んで反対側にコンビニがあり、そこのイートインコーナーを、普通なら時間的に閉鎖しているのだが、警察手帳を見せて、
「捜査にご協力願えますか?」
 と店長にいうと、
「いいですよ」
 と快く引き受けてくれた。
 さすがに、深夜時間帯が近づいてきていることもあって、コンビニの定員は、外人になっていた。
 たまに買いに来る客に大して、流暢な日本語で何とか話しかけている。
「こいつら、どこまで分かっているんだろう」
 と、K署の刑事は感じていた。
 彼は特に、外人が嫌いなタイプで、特に、日本人とのマナーの違いを。
「文化の違い」
 ということで片付けようとしているのが、我慢ならなかった。
「日本に来て仕事をしようというのだから、留学先の国の文化や風俗を熟知しておくのは当たり前のことなんじゃないだろうか?」
 と思っていたのだった。
 正直、何度もレジで、
「こいつ、ムカつく」
 と感じたことも何度もあった。
 その都度、
「しょうがないか。ここで怒ったってしょうがない」
 と、自分で留飲を下げなければいけないことに、苛立ちがあった。
「正直、あいつらは、日本人の優しさの上に胡坐を掻いて、これを当たり前のことなんだと思っているのが、我慢できない」
 と思っていた。
 そういう意味で、日本人に対しても、
「そんなのは、優しさでも何でもない。そんなことだから、外人どもを増長させるんじゃないか」
 といって、苛立っているのだった。
 一人で苛立っていてもしょうがないというのは分かっているが、どうしようもないといってしまえば、それまでなのだろう。
 そもそも、本部の刑事は、人を信用するということのないタイプだった。
 学生時代には、結構人のいうことを信用して、結果、ひどい目に遭うことが多かったのだから、ある意味仕方のないことなのだろうが、そもそも、彼の考えの甘さが招いたことあので、まわりに言わせれな、
「自業自得だ」
 と言われても仕方のないことなのかも知れない。
 だが、刑事になってから、容赦なく、人の心を踏みにじるような犯人であったり、逆に、被害者がそんな人間だったから、復讐されることになったりするというのも見てきた。
 本来なら、罪を犯した人間を憎まなければいけないのに、明らかに被害者の方に罪があると分かっていて、
「どうして、警察は、被害者というだけで、そちらを保護しなければいけないのか?」
 という理不尽な思いをさせられることになるのだった。
 それを思えば、
「俺たちにとって、事件というのは、本当に解決しなければいけないことなのだろうか?」
 と考えさせられる。
「俺たちが知りえたことを黙っていれば、事件はうやむやになって、復讐を遂げさせることができるのではないか?」
 という、自分の任務を忘れてしまったかのような発想に至ることもある。
 いつも、そんな葛藤の中にいて、最期には、我に返って警察官に戻るわけだが、後悔の念に襲われないわけではなく、毎回のごとく、自己嫌悪が襲ってくるのだった。
「これが警察というものだったら、俺は何も、このままずっと警察官でいる義理はないんだ」
 といえるだろう。
 本当は、警察官になった理由としては、誰もがそうなのかも知れないが、刑事ドラマや、時代劇の、
「勧善懲悪」
 を見るからだ。
 あれは、1980年代くらいであろうか、
「勧善懲悪」
 というものが、
「行き過ぎではないか?」
 と感じるほどに、すごいものがあった。
 いくら江戸時代でも、復讐というのは、簡単にはできない。
「仇討」
 というものでも、ちゃんと名乗り出て。承認されたうえで、正々堂々とした果し合いを行うことで許されるものであるから、証拠もなく、ただ泣き寝入りしている人に対しては、どうすることもできないのは、今と同じである。
 そこで、
「闇の仕事人」
 などという人に、
「大金を叩いて復讐してもらう」
 ということを行っていた。
 お金の出どころは、身売りであったり、いろいろであるが、それだけの覚悟がなければいくら闇の仕事人とはいえ、引き受けてはくれないという話である。
 勧善懲悪を行うとしても、そこに、覚悟であったり、見返りはなければ、達成されないというのも、今の世と同じ発想だ。
 だが、逆に、同じ頃、しかも同じチャンネルの、勧善懲悪のそのひとつ前の時間帯で、同じような、
「恨みを晴らす」
 という意味での、
「勧善懲悪」
 の番組があった。
 その番組は時代劇のように、
「抹殺する」
 というものではなく、あくまでも、
「社会的な地位や名誉を抹殺する」
 ということで、命を取るものではない。
 だから、恨みを晴らしてもらう人にお金を請求することもなく、
「誰の仕業なのか分からないが、悪が白日の下に晒される」
 ということが起こるのだった。
 そういう意味で、
「目的は同じだが、その達成の方法が、時代によって違っている」
 という、比較対象の番組を放送していたというところが特徴だった。
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次