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悪魔のオフィスビル

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「今回の事件の今のところの、急務となるのは、被害者の身元を明らかにすることでしょうね。まずそこがハッキリしないと、捜査は進展しないでしょう。それと平行して、今の捜査、つまり、目撃者探しや聞き込みなどの、地道な捜査を行うことだと思います。ところで、鑑識からの報告はどうなっているのかね?」
 と聞かれた、辰巳刑事は、
「はい、最初の初検と、ほぼ変わりないものでした。死因は、胸に刺さっていたナイフによる出血多量によるショック死ですね。死亡推定時刻は、深夜の0時前後、ビルのテナントは、ほとんどの会社が、9時くらいまでには退社するということですので、ほぼ毎日最後までいるのは、ほか弁屋さんだということです。ほか弁屋も、午後11時までが営業時間ですので、基本11時10分くらいまでには、ビルを出るということです。その後の犯行には間違いないでしょうから、鑑識の報告とも辻褄が合っています。そして、その日の警備の記録を見ると、他の会社も、犯行当日は、午後九時までに退社していることは分かっています。玄関の扉も、カギが掛かっていましたから、そこから入るのは、無理だったようですね」
 という報告を行った。
「なるほど、分かりました。今の話を聞いている限りでは、別におかしなところはないということですね? ということは、やはり、被害者の身元というのが、ポイントなのかも知れないですね。それが分からないと、動機も犯人像も、そして、被害者がなぜ、あんなところで殺されたのかというのも分からないからね。一応、被害者は、衝動的に殺されたということであるが、怨恨説も決してなくしてはいけないと思うんだ。なぜなら、犯人が、凶器のナイフを、最初から手に持っていたという理屈が成り立たないからね。そうでなければ、衝動的に殺されたというわけではないわけだし、ナイフは隠し持っていたのだとすれば、ナイフを出してまで、殺さなければいけないとすれば、怨恨か、見られてはいけない何かを見られたということになるだろうから、そのあたりも突き詰める必要があるんじゃないかな?」
 と、門倉警部は言った。
 それに関しては、清水警部を始め、K署の連中では思ってもいなかったようだ。
 それを考えると。
「さすが、門倉警部」
 と、清水警部も、一目置いたのであり、心の中で、昔、門倉警部の下で、走り回っていた自分を想い出していたことだろう。
 清水警部も、警部に昇進したのは、最近のことだった。
 門倉警部が、
「県警本部に栄転」
 というのが決まった時、清水警部補も、同時に警部に昇進し。そのまま、門倉警部のいたポジションに上がったのだ。
 捜査一課を取り仕切る警部として、その立場を顕著なものとしたのだった。
 とにかく、初回の捜査本部の報告としては、それほどまだハッキリとしたことがわかっていない状態だった。
 初動捜査における捜査報告と、それに付随した聞き込みによる裏付け程度のことがわかってというだけで、
「まあ、もっとも、最初の捜査本部ができてすぐの捜査会議など、どこも似たり寄ったりで、こんなものに違いない」
 とは、皆感じていたことだろう。
 捜査に関しての、直接の指揮は、清水警部が取るようで、ペアの決め方、捜査方法などについては、清水警部の指示であった。
「まあ、こんな感じで行きますので、皆さん、それぞれよろしくお願いいたします」
 といって、
「はい」
 という元気な声とともに、やっと捜査の第一段階に進むことになった。
 県警本部の刑事は、皆威張り散らしていて、
「俺たちは、ただの駒にしか過ぎないんだ」
 とほとんどの、K警察の刑事は思っていたようだが、実際にはそうでもなかった。
 それは、門倉警部の教育が行き届いているからなのか、それとも、最近の警察は、
「縦割り社会を少しでも何とかしよう」
 という意識があるのか、それほど、威張っていることもないようだった。
「たぶん、その両方なんだろうな」
 と、それぞれの刑事は思った。
 とにかく、捜査に、
「不協和音」
 を取り込むのは、お互いに嫌である。
 一枚の殻を破るだけで、捜査本部としていい関係が保てるのであれば、それはそれでいいことなのだろう」
 と、皆思っていた。
 特に辰巳刑事はそう思っているようで、辰巳刑事のように、どちらかというと、
「猪突猛進型」
 というのは、大いに問題があるのではないかと考えられたのだ。
 特に、県警本部の日下刑事のような人とは、
「犬猿の仲」
 ではないかと思われていたが、それを敢えてペアにした清水警部であったが、きっとそこには、大いに、門倉警部の考えがあったからではないだろうか。
 門倉警部がK署にいた頃、
「若手のエース」
 として、メキメキと頭角を現してきたのが、辰巳刑事であった。
 辰巳刑事が、猪突猛進であることは、門倉警部も百も承知であった。
 門倉警部から、清水警部補、そしてまだ刑事だった桜井刑事。さらにその下にいたのが、辰巳刑事であった。
 この縦のラインは、まるで、野球でいうところの、キャッチャーからセカンド、センターに至る、
「センターライン」「
 と同じものだったのだ。
 これが、K署の強みであり、ある意味犯罪が起こる土台ではなかったのは、
「このラインがあったからではないか?」
 と言われるほどだったが、普通に考えて、
「そんなことはありえない」
 という、ただの伝説にすぎなかったのであった。
 それでも、ここから先はいい関係が、絆を強くして、
「これこそ、K署。警察の鑑のようだ」
 とまで言われていたのだ。
 県警の上層部では、そういう話もあったが、現場の連中には分かっていないようで、ただ、ウワサとしては聞いたことがあった人が多かったので、ある意味、県警の刑事も、K署に対しては、敬意を表して、捜査に当たっているようだった。

                 勧善懲悪の気持ち

 そのおかげで、捜査中の主導権は、相変わらず、県警刑事にあり、命令口調には変わりないが、傍から見ているよりも、だいぶマシのようだった。
 傍から見ていると、明らかに絶対的な立場は、
「県警本部側だ」
 と見えるのだが、それはあくまで、
「警察組織の、従来からのやりかた」
 というのが表に出ているだけで、実際には、ある程度平等の捜査方針であったので、K署の刑事とすれば、若干、驚いていた。
 肩の力を抜いて捜査できるのだが、まったく平等であれば、今度は気が抜けてしまう可能性がある。そこで、
「締めるところはキチンと締める」
 ということで、県警の刑事としても、そのあたりは分かっていることであったのだ。
「やっぱり、所轄は楽でいいよな」
 という刑事も中にはいたが、それはあくまでも、本音がぽろっと出ただけで、それ以上本人も言及しない。
 それは自覚もなかったことであり、K署側の刑事が、苦笑いをしていれば、それで済むだけのことであった。
 それでも、それぞれの刑事が3組くらいに別れて捜査を行った。
 一つは、被害者の身元を調査する班で、もう一つは、他の会社に、再度いろいろ確認する班。そして、もう一つは、目撃情報の収集であった。
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次