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悪魔のオフィスビル

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 と、口には出さなかったが、ちょっと気になるところであったのだ。
 桜井警部補は、今のことを伏せておいて、
「ということは、あのビルにはテナントとして、2階の歯医者、そして、3、4階のそれぞれの会社、そして4、5階を一つの会社と考えると、4つの会社があるということですね? まあ、歯医者は会社ではないが、法人ということで、とりあえず、会社ということにしておくが」
 というと、
「ええ、そういうことになります。そこに、ほか弁屋が関わるかどうかは別にしてですね」
 ということであった。
 ところで、他の会社は、どういう会社なんだい?」
 と桜井警部補が聞くと、
「まず、3階の会社なんですが、外食チェーンのファーストフード関係の事務所らしいです。地域に一つある事務所の一つだそうで、そのチェーンの、約30店舗をあの事務所で見ているらしいんですよ」
 と、辰巳刑事が言った。
「じゃあ、4階は?」
「4階はですね。地元の情報雑誌を刊行している、編集者だそうです。桜井警部補は、本屋で、月刊Fという雑誌をご覧になったこと、ありませんか?」
 と聞かれ。
「ああ、見たことあるよ。コンビニにも売っているやつだろう? グルメの店だったり、毎回、地区を決めて、そこの芸術的な店などを紹介するページがあったりするんだよな。うちの女房が時々買ってきて、どこかに連れて行けってうるさい時期があったのを思い出すよ」
 といって、苦笑いを桜井警部補はしたのだった。
「そうなんですよ。ただですね。あの会社がこのビルに入ってきたのが、ちょうど一年くらい前だったらしいんですが、実は、半分しか入れなかったらしいんです」
 と言い出した。
「ん? それはどういうことかな?」
 と桜井警部補が聞きなおすと、
「あの会社は、営業部と、編集部があって、ちょうど同じくらいの人数だったので、とても、全部が入り切るのは難しく。ちょうど、隣に、同じような構造のビルがあるということで、そっちの事務所を借りることで、うまく入れたということなんですよ。ちょうど、それぞれ、一つづつ空きがあったんでしょうね」
 と辰巳刑事がいうと、
「いくら隣とはいえ、離れていて、仕事が不便ではないのかな?」
 と桜井警部補がいうと、
「そんなことはないようなんです。そもそも、どこの会社でもなんですが、別部署と仲がよくなかったりするのは、普通にあることなので、別のビルの方が、せいせいするというのが本音のようです。そういう意味でも、上の階の会社にも同じことが言えるのかも知れないですね」
 と辰巳刑事は、どこか勝ち誇ったような顔でいうのだった。
「なるほど、昔の標語にあった「亭主元気で留守がいい」という言葉を思い出させるような感じだな」
 といって笑うと、
「何ですか? それ」
 と、真剣に知らなかったのか、微笑み交じりで、藁っていいものかどうなのか、複雑な顔で、とりあえず笑っている、辰巳刑事がいたのだ。
 それにしても、警察だって。部署によって仲が悪いだけに、他の会社は、
「警察ほどじゃないだろうな」
 と思ったとしても、無理もないことだった。
「これって、皮肉なのか何なのか?」
 と、辰巳刑事は苦笑いをするしかなかった。
 そんな話をしていると、県警本部から捜査本部に派遣されてきたメンバーを含めての捜査会議となった。
 今回の本部長は、K署出身である門倉警部であった。
 門倉警部と、清水警部は、数十年前は、
「絶妙コンビ」
 と言われた二人で、その実力は、F県警中に知られていた。
 それだけに、この二人の再結成は、一種の注目だったのだ。
 K市は、今でこそ、ある程度平和な街にあったが、門倉、清水両刑事が第一線で活躍の頃は、他の警察と変わらないくらいの犯罪があった。この二人の活躍が、今のK署の治安の良さを作ったといっても過言ではないかも知れない。
 それを思うと、今回の捜査本部は、ある程度平和な捜査本部になりそうな予感があった。
 ただ、さすがに最初の会議は、緊張に溢れていた。他から見ても、
「いかにも刑事ドラマで見られるような緊張感が漲っている」
 という感覚だったが、それは当然のことであり、初動捜査を県警から来た刑事たちが、注目を持って見るのは当たり前のことである。
 淡々と進む報告を聞きながら、メモに余念のない県警の刑事たちであったが、報告を聞きながら、いろいろと疑念を抱いている刑事もいたようで、時々、話を遮るようにして話に割って入る刑事がいた。
 名前を日下刑事というが、後で聞くと、門倉警部の一押しのようで、清水警部から見ての、桜井警部補のような存在であった。
「一つ気になったのですが、隣にほか弁屋があるということでしたが、そこの従業員にも、被害者の写真を見せたんですか?」
 と聞かれた辰巳刑事は、
「ええ、見せましたよ。でも、誰も知らないということでした。特にほか弁屋の店員は、外人がほとんどなので、皆片言の日本語でしたね」
 と答えたのだ。
 これは、数年前から、ほとんどがそうなのだが、コンビニであったり、ファーストフードの店員には、外人を使うことが多く、特にと雲南アジア系の留学生という名目で入国している連中が多い。
 それは、国のインバウンドや留学生を受け入れるという方針から、雇わなければいけないということであったり、外人一人につき、いくらということで雇っているようで、最近でこそ、問題はないが、最初の頃はロクなことがなかったようだ。
 言葉の壁であったり、習慣の違いはいかんともしがたく、ひどいやつなどでは、
「トイレの遣い方も知らない」
 などという、とんでもないやつがいたりして、トイレに、
「使用方法」
 なる絵による解説を、数か国語、しかも、見慣れない国の言葉で書かれていた。
「世も末だな」
 と思った人も結構いるのではないだろうか?
 実際に、今中年くらいの人であれば、
「昔だったら、ブラジルからの労働者が多かったが、彼らは真面目で、真剣に日本社会に溶け込もうと必死だったが、今の連中の東南アジア系の連中ときたら」
 といって、嘆いている人も多いことだろう。
 今でこそ、
「世界的なパンデミック」
 のおかげで、外人の流入が減ってきたが、どうにも外人連中が、街に蔓延っているのを見るのは忍びない。
 どうしても、日本が島国で、単一民族だったという、しょうがない面も大きいに違いないが、昔のブラジルの人たちの爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいくらいだった。
 日下刑事が納得したのかどうかは分からないが、他にもいくつか気になった部分はあったようだが、それは、あくまでも、
「ところどころで確認をしたい」
 という程度のことで、時間を取るほどではなかった。
「これが、日下刑事という人のやり方なんだな」
 と思えば、イラっと来ることもなく、受け流す程度に考えるのであった。
 ある程度の報告が終わった中で、門倉警部が話始めた。
作品名:悪魔のオフィスビル 作家名:森本晃次