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黒電話の恐怖

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 ということで、逆に、その個人個人の責任の範疇になるので、
「会社は守ってくれない」
 ということにもなる。
 しかし、中学生、高校生は未成年であり、大人の保護を必要としている。
 確かに、家では親の監督によるものだが、先生にまったく責任がないとは言えない。さらに、保護者は、
「教育全般を学校に任せている」
 と思い込んでいるので、親の役割を、過小評価し、逆に、
「学校に責任を押し付けようとしている」
 といってもいいだろう。
 そのせいで、公務員であることを、必要以上に意識しないといけなくなったのだ。
 その日、実際に何があったのか分からなかったが、問題の発覚は、学校に掛かってきた電話だった。
 電話の音が鳴った瞬間、なぜかその時、
「ジリリリーン」
 という音が鳴ったかのように感じられた。
 それまで、聞いたことのなかった黒電話の音である。それなのに、それが黒電話だと分かったのは、静かな職員室の中で、音が反響したからに違いなかった。
 その日は、夏休み前の、うだるような暑さだったこともあって、窓を閉め切って、クーラーを全開で入れていたのに、外からのセミの声が、負けじと大きな声を張り上げているのを感じたくらいだったのに、静けさを感じたというのは、表との温度差が、
「真空状態を作り出しているからではないか?」
 というような意識があったからである。
 その電話に出たのは別の人で、その時、音に驚いて、完全に委縮していたことを示していたのだった。
「警察? どういうことですか?」
 一気に職員室内は、緊張に包まれる。
「はい、はい。それで?」
 と言って電話に出た人は納得はしながらも、その反面、顔色はどんどんと青ざめていくのであった。
 電話を切ったあと、
「うちの生徒が、一人、頭に石が落ちてきたことで、今病院に担ぎ込まれて、治療を受けているということです。意識不明の状態だということで、医者は、予断を許さないと言っているということでした」
 という。
「本郷先生、お宅のクラスの生徒のようですよ」
 というではないか。
 急いで、取るものもとりあえず、病院に駆け込んだ。
 学校側から父兄には連絡が行ったようで、父兄は、すでに病院に来ていた。
 この事故は、担任の知らないところで起こった事故だったので、正直、他人事のように半分は思っていた本郷だったが、父兄が自分を見た時、その視線が完全に、敵対視していたことで、
「何で、俺に?」
 と思い、理不尽な気がしたが、紛れもなく担任は自分だということを思うと、今の時点で、自分が不利なのはわかり切っていることだった。
「先生、これはどういうことです? 確かに子供の遊びなんでしょうけど、こんなことになるのは、先生方も他人事だという顔はできませんよ」
 と言って詰め寄ってくる。
 とりあえず、生徒は、小康状態で、今のところ、重症とも回復途上とも、何ともいえない。
 というのが、医者の見解だった。
 そして医者がいうには、
「もし助かったとしても、今回のことを記憶はしていないと思います。かなりのトラウマが残っているでしょうから、もし残っていなかったとすれば、それは、本人の本能によるものでしょうから、そこを後で追及するというのは、却って本人のためになりません。そのことは、先生方も、父兄の方でも、考えておいてください」
 ということであった。
 その生徒は、運よく、一命はとりとめた。そして、医者がいうように、生徒の記憶は消えていて、思い出させるには、見ていても酷だということが分かったのだ。
 そんなこともあって、学校側は一息ついたのだが、
「誰か一人に責任を取ってもらう必要がある」
 ということで、本郷が、その責任を取らされる結果になった。
 正直、理不尽なのは、よく分かっている。しかし、そんな理不尽なことをする学校に対して、こっちもこれ以上、関わりたくないと思ったので、転勤辞令が出て時に、
「分かりました、従います」
 というと、学校側は安堵したようだったが、ここで負けるわけにもいかず。
「今回の事故のことは、これで私とは一切何も関係のないことだということにしてください。どうせ、私がその人身御供なんでしょうから、従いますが、従う以上、これ以上私に責任を押し付けることのないようにお願いします。私だって、その場にいたわけではないんだから、責任をこれ以上押し付けられても困ります」
 と言った。
 ここまで言えたのは、生徒は命に別状なく、あの時の記憶を失っているだけだったからである。本来ならお咎めなきはずなのに、念のためなのか、人身御供にされるのであれば、これくらいの約束は当然の主張なのであろう。
 実際に、それから何の音沙汰ものなかった。
 父兄から、何かを言ってくるということがなかったからだろうが、それも、自分の犠牲もおかげだと思うと気持ちは複雑だった。
 いくら、
「宮使い」
 とはいえ、完全に、学校の名誉を守るための、
「生贄」
 にされたわけで、出世したわけでもなく、ただ、学校の責任として、誰か一人が責任ということになり、ただ、その生徒の担任だったというだけで、左遷されてしまったというのは、これほど理不尽なことはない。
 しかし、いまさら先生を辞めて、民間の会社に入ることの方が怖かった。それなら、まだ、この理不尽に耐える方がマシだと考えたのだ。
 実際に、
「この選択は間違っていなかった」
 と思うようにしている。
 そうでなければ、結局、学校を追われることになり、辞めなければいかず、辞めて野に下るのであれば、結果は同じこと。
 何とか、教職にしがみつくには、いやでも、学校側の言う通りにしないといけないのだった。
 理不尽であったが、逆に、
「こんな学校。こっちから辞めてやる」
 と感じたのだと思えば、ほんの少しであるが、気が楽になれるかも知れない、
 少なくとも、一番気が楽になれるのは、この道しかなかったからだ。
 しかし、普通なら、時間が経てば経つほど、気が楽になってくるはずで、それは怒りが収まってくるはずだからである。
 今回はそんなことはなく、ある程度の時期が来るまで、次第に怒りがこみあげていった。
 これは落ち着いて考えれば分かったことであったが、
「発熱時の感覚」
 と似ていると言えるのではないだろうか?
「熱が出る」
 という作用は、基本的に、身体の中に、よからぬ菌やウイルスのようなものが入って、その菌やウイルスに対して、身体の中の抗体が反応し、
「打ち勝とう」
 としているからであろう。
 実際に身体の中の抗体が反応し、戦っているというその証拠が、
「発熱」
 なのである。
「電気抵抗などでも、数値が上がっていけば、どんどん熱くなる」
 という現象と同じことである。
 その時の自分の中で、自分の正義感や、プライドが、ズタズタにされるようなことが巻き起こるのだが、それを必死に、
「何とか、自分を納得させる」
 という考えを持つために、必死で、その納得できることを考えようと、自分のプライドや正義感に抗っていたのだ。
 そんな状態で、問題になるのは、
「相手の菌やウイルスの力」
 ではないだろうか?
作品名:黒電話の恐怖 作家名:森本晃次