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黒電話の恐怖

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「まるで夢を見ているようだ」
 と考えることで、さらには、
「子供なんだから意識する必要はないんだ」
 と、普段から親や大人に言われていることを忠実に守ることで、それが正しい認識だと、納得しようとするのだろう。
 しかし、なまじ、大人の感情が入ってくると、そんな子供の感情では、許されないことがあることを、自覚するようになる。
 そうなると、心のどこかで、
「これは現実のことなので、見逃してはいけないことだ」
 と思うに違いない。
 それが、子供に近い時期であればあるほど、その衝撃は激しいものなのだろう。
 それだけ、まだ大人になり切れていないということになるのだ。それを思うと、
「何が恐怖なのか?」
 ということがわかってくる。
「何が恐怖で、何を恐れるのか?」
 ということは、大人になった瞬間から少しの間、分かっているのかも知れないが、それが少しすると、また分からなくなるのだ。
 それがきっと、思春期という時期であり、思春期というのは、
「その時まで、子供の頃から、順を追って積み重ねてきたのに、急に音を立てて崩れる時があるその瞬間から始まる」
 と言ってもいいだろう、
 思春期というのは、誰にでもある。ただ、その入り口は年齢的にも、その場面場面でも、ハッキリとはしないものだ。
 だから、思春期になる前に、一度大人になるという感覚を分かっていない人がほとんどなのではないだろうか?
 いや、本郷少年が分かっただけで、他の人の大多数は分かっていない。それは、思春期の前に大人になるというのが、全員にあることなのか、それとも、一部の人間、定められた人間に限られるものなのか、それも分からない。
 本郷は、
「皆、同じなのに、誰もそのことを言おうとしない。これは、皆が気づいていないだけではないか?」
 と考えるようになった。
 逆に、そのことは皆、大人から、聞かされていて、
「このことは、他の人には言ってはいけない」
 というルールがあるので、誰も分かっていても、言わないだけなのかも知れないとも思った。
 だが、本郷は、そのことを、
「聞いたことがあったのかも知れないが、意識していなかったために、知らなかったのではないか?」
 という思いと、
「本当に知らない。だからこそ、自分で気づくことができたんだ」
 という思いとが、交錯しているような気がした。
 本郷は、自分がどういう立場の人間なのか、正直分かっていない。ただ、一つ言えることは、
「俺は、結構、気付くタイプなのではないか?」
 ということだった。
「だからこそ言われなければ分からないことでも、その前に気づいたりするので、大人もそれが分かっていて、わざと、この俺には何もいおうとしないのではないだろうか?」
 という思いである。
 そう言われてみると、
「大人になるというのが、どういうことなのか?」
 そんな話を、人から聞いたことはなかった。
 子供の間で話すことでもないし、聞くとすれば、大人の口からだろうというのは、間違いない気がしていた。
 そんな本郷少年が、思春期前の大人だった時の記憶は、しばらく、封印されていた。
 そんな時期があったということすら、ずっと気づかなかったくらいだったが、ふと、
「大人になった時期があったような気がしたな」
 と感じたその時、どうやら、思春期が終わったようだった。
 つまり、
「思春期が終わって、大人になったんだ」
 と感じたのだろう。
 ということは、大人になったということで、一度大人になった時のことを思い出したのだ。
「本当は、今回初めて大人になったはずなのに、前にも大人を感じたような気がする」
 というものだった。
 そう、まるで、
「デジャブ」
 のようではないか。
「初めて、感じたり、見たりしたはずなのに、以前にも感じたり、見たような気がするのはどうしてなんだろう?」
 という感情を、デジャブという現象だと聞いたことがあった。
 それは、
「ある特定の人にしか起こらないことで、自分には関係のないことなんだ」
 と思っていたのだったが、実際に起こってしまうと、
「デジャブって、誰にでも起こることなんだ」
 と思うようになり、自分が感じた、
「思春期前の大人になったというあの時期は、特定の人だけなのか、それとも誰もが通る道なのか?」
 ということが分からなくなってきたのだ。
 かと言って、こんなことを聞ける人もいるわけではない。
「お前、またバカなことを言い出して」
 と言われるほど、普段からバカなことを言っているのであれば、いくらでもいえたのだが、今まで人にこのようなことは、恥ずかしくていえないタイプだったことを思うと、まったく口に出すことができなかったのだ。
 まわりも、誰もそのことについて触れようともしない。
「下手に触れて、よからぬことが起こったりすれば、目も当てられない」
 と感じていたのだ。
「俺って、そんなに変なことを考えているんだろうか?」
 と思っていたが、その頃はまだ、自分が、
「教師になろう」
 というところまでは考えていなかった。
 ちょうど、思春期を抜けたと思ったのは、高校二年生の頃だった。学校では、三斜面だなどがあり、いよいよ進路について考える時期が来ていたが
「将来についてなんて、考えたりもしなかった」
 というが、考えたことは、
「理系か文系か?」
 というだけのことだった。
 元々数学など嫌いだったので、文系への道は、消去法で決まっているようなものだったが、後は成績と、志望校のバランスだけであった。
 とりあえず、成績もそんなに悪くはないが、かといって、よくもない。そういう意味で、選択肢はそれほどあるわけではなかったことが、
「絞る」
 という意味で、ちょうどよかったのだろう。
 文系の中でも、行ける大学も決まっていて、その中で、教育大学というのがあったので、そこを受験してみることにしたのだ。
 現役で合格することもでき、順風満帆だった。
「俺の人生、このまま順風満帆でいけばいいよな」
 と大学時代から考えていて、そのためには、
「下手に余計な、欲というものを持たないようにするのが一番ではないだろうか?」
 というのが、一番だった。
 高校時代までと違って、大学に入れば、時間があっという間に過ぎていくという感覚を肌で味わったのだった。
 そんな順風満帆な毎日を過ごしている時、それまでは感じたことのなかった。
「何か言い知れぬ不安」
 のようなものを感じた。
 その時は、
「これまで感じなかったことを、ふと感じたことで、余計に、普段感じないだけに、怖いと思うことに敏感になっているのかも知れない」
 と思うようになった。
 それが、ちょうど、今から3年くらい前であった。
 三年前というと、ちょうど、前の学校をやめなければいけなくなった、あの忌まわしい事故の記憶を思い出さされるというものであった。
 そして、教えているのが中学生、その頃までは、自分の中学時代を思い出すことはなかったのに、急にその頃から、自分の中学時代、いや、それ以前の小学校の頃からのことを思い出すのだ。
作品名:黒電話の恐怖 作家名:森本晃次