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自分の道の葛藤

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「視聴者のことを考えることなく、スポンサーにばかり、媚を売る番組を、いくらただだとはいえ、誰が見るか」
 というものである。
 歌番組もまったく見なくなり、今の時代は有料放送ではなく、媒体がテレビのように、移動中には見れないものではなく、今は、スマホというものがあることで、
「動画」
 として、配信したものを見ることができる。
 中には、無料配信のものもあり、いわゆる、
「ユーチューバーと言われる人たちが、巨万の富を稼ぎ出す時代だ」
 と言われるようになったのだった。
 それでも、
「日本は、スマホなどでは、世界からかなり遅れている」
 と言われているのだ。
 配信動画など当たり前と言われる時代がやってきた。音楽も配信で見れるから、いちいち番組を見ることはない。自分の好きなアーチストを選んで、いくらでも見ることができる。
 もちろん、有料かも知れないかもではあるが……。
 今のアイドルも、明らかに昔とは変わってきた。もう十年以上も前がピークだったと言われるが、完全に人数による力のようなグループで、テレビに出るには、当時、スタジオの関係で人数制限が掛かったことから、
「選抜メンバー制」
 などという、不可思議なものもあった。
 しかし、そのために、野球でいえば、一軍に上がるために同じグループで競争するというのも普通にあった。
 そして、この頃からであろうか? アイドルも卒業性というものが存在し、その後の身の振り方を、活動中に模索して、勉強する機会を与えたりなどもあった。昔のアイドルからは考えられないことである。
 さらに当時から出てきたのが、いわゆる、
「地下アイドル」
 というものである。
 誤解のないように言っておくが、地下アイドルというのは、ただのマイナーというだけのことではない。元々は、今のアイドルが、音楽以外でも活躍するようになったので、従来の、ライブを開いて、客を呼び、グッズなどを売るという元々のアイドルの形を今に伝えるのを、地下アイドルという表現でいい表すのだった。
 あれはいつだっただろうか? 寮への慰安ということであるが、ある夏に、会社でいう、慰安旅行のようなものに行くことになった。
 一応、アイドル養成の教室とはいえ、時々、地方の営業のようなことをしたり、プチアイドルを招く機会などがあって、活動は細々と行っていた。
 オーディションにもいっぱい参加して、エキストラに近い役でも、もらえるものは貰って仕事をするのだった。
 給料は月給制で、寮もあるので、生活に困ることはない。その中で、毎月少しばかりの積み立てを行い、その金と、会社の福利厚生費とで、夏になると、どこかに温泉旅行に出かけるのが、ここのルールのようだった。
 計画を立てるのは、プロダクションの営業の人で、この寮はいくつかのプロダクションが集まってできているので、今回はちょうど、ちあきのプロダクションが当番だった。
 アイドル達を束ねるのも、その当番のプロダクションから選ばれることになる。ちあきのプロダクションからの参加は二人だったこともあって、ちあきが、とりまとめ役ということだった。
 といっても、宴会の幹事のような難しいことはなく、フロント側と、アイドル側の連絡程度のことなので、それほど大変でもない。
 逆に、
「センターやリーダーになった時の練習にもなるからな」
 と言われると、思わず、
「私がやります」
 といって、立候補したくらいだった。
 ここは、正直、アイドルとしては、まだまだ初心者というところで、ファンに知られているわけでもない。まだ、地下アイドルの方が売れている子はたくさんいるだろう。地下アイドルといっても、メジャーになれていないというところは同じなのだが、彼女たちは、すでにファンを獲得している。
 グッズも売れっ子になれば、かなりの売り上げになるだろうし、チェキ代だって、バカにはならないだろう。
 それを思うと、露出がまだまだ少ないことに、焦りのようなものも感じていた。
 そういう意味で、
「同じ養成学校の仲間には、絶対に負けたくない」
 という思いを持っている。
 露骨に、アイドルを振りかざし、
「自分が自分が」
 と表に出ようとしている人は、それほど怖くはない。
 控えめで、自分から表に出ようとしない人の方が、
「一体何を考えているんだろう?」
 と思い、不気味に感じられるのだった。
 今から思えば、この寮に来てすぐの頃の、ちあきは、そんな感じだった。
 別にちあきが、根暗で、五月病にでも罹っていたというわけではなかった。
 確かに、五月病にでも罹ったかのように、憂鬱な目をしていて、絶えず視線は下に下がりっぱなしだった。
「こんな状態でアイドルになんかなれるんだろうか?」
 と、さぞかし、他の人は思ったことだろう。
 ただ、彼女がここに入ってきた時は、やる気に溢れていた。
 誰かに何かを言われたのだろうか? そんな様子はなく、ちあきも、そのことについては頑なに口を閉ざし、何もいおうとはしなかった。
 養成学校の先生も気になっていて、
「あの子はどうしたんだい? やる気がないという感じではないんだけど、いつもどこか上の空で、何を考えているのか分からない。あれじゃあ、誰かと接触したりして、自分だけじゃなく、誰かをケガさせてしまうことにならないだろうか?」
 という心配をしている人もいた、
 ただ、
「なぜ、彼女があんなになってしまったのか?」
 ということを知ってる人が一人いた。
 それが、彼女を監督する直属の、クラス主任のような先生だった。
 クラス主任が学校と同じように、生徒の精神的なフォローを中心に活動している。
 今年の夏は、
「私の親戚がやっている温泉宿があるので、そこに行こうと思っています。昔ながらの温泉ですが、料理はおいしいし、温泉も天然温泉で、露天風呂もあります。少し、女の子には、少し古いと思われるかも知れませんが、それはそれで、情緒があっていいと思います」
 というではないか。
「それは、却って面白いかも知れませんね」
 と一人がいうと、
「ええ、確かにそうですね。ホテルに泊まって、観光したりお買い物だけだと、家族で旅行に行ってるのと同じですもんね。せっかく皆で出かけるんだったら、普段できないことができるというのも面白いかも知れないですね」
 という話まで跳び出した。
 ひょっとすると、その人は、
「肝試し」
 ということを言いたかったのかも知れないが、さすがにそこまで言ってしまうと取り返しがつかない。
 自分が言い出しっぺになるのを恐れたのだろう。それを思うと、最初こそ、舌好調だったが、次第にテンションが落ちていって、途中から、完全に勢いがしぼんでくるのを感じたほどだった。
 とにかく、最初に賛成した人が、リーダーに決まった。
 ちあきはというと、まだ、少し気持ちがほぐれるところまで行っていなかったが、完全に鬱状態のピークは、去ったような感じだった。
 それを、クラス主任の先生は分かっていて、だいぶ安心したようだった。
「今度の旅行で、元に戻ってくれればいいんだが」
作品名:自分の道の葛藤 作家名:森本晃次