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自分の道の葛藤

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「絵にしても、小説にしても、マンガにしても、文化という芸術に変わりはないんだろうな」
 と感じたのであった。
 いずれは、小説を読むことになるのだが、今回のドラマの原作はマンガだった。
 そのマンガというのは、主人公が、軽音楽部に所属していて、最初はクラシックなどを普通に演奏していたのっだが、その子は女の子で、しかも性格的に活発な子だったこともあって、
「クラシックばかりでは面白くないな」
 と思っていたのだ。
 なぜ、そんなことを考えるのか自分で分からなかったが、彼女は、自分に創作意欲があることに気づくと、
「そうか、曲を私は作りたいんだ」
 と思ったのだ。
 そうなると、さすがにクラシックを作曲するなど、できっこない。しかも、クラシックの曲を作ったとしても、それを誰が演奏してくれるというのか、高校の軽音楽部でできるはずもない。
 そう考えると、
「クラシックではダメなんだ」
 と思うようになった。
 ただ、クラシックが嫌いだというわけではない。それに今まで軽音楽部に入る前も、ほとんどクラシックしか聴いてこなかった。それだけに、他の音楽をいまさら聴いたとしても、頭に入るだろうか?
 そのあたりが気になっていたのだが、
 ちょうど、街の楽器屋さんに立ち寄った時に流れていた音楽が、ちょうと、彼女の気持ちを揺さぶった。
 時代としては、少し前のレトロな曲調なのだが、そんなことは他のジャンルの音楽を聴いたことのない、彼女に分かるはずもない。
 そもそも、クラシック自体が、古い音楽ではないか。
 といっても、
「古き良き時代」
 の音楽である。
 彼女は、さっそく、ちょうど家にあった電子ピアノで、いろいろな音を出してみた。
 掃除の電子ピアノは、結構な能力があり、電子音によって、いろいろな楽器の音が出せるようになっていた。
 時代背景からすれば、ちょうど、世紀末くらいだっただろうか?
 彼女の生まれる前の時代設定で、きっと、
「作者が子供の頃の自分を想い出しながら、描いたマンガなのではないか?」
 と感じたのだ。
 そんな時代を知らないちあきは、自分でも感じていたのだが、知らない時代を自分なりに創造するのが好きだった。
 自分が生まれるちょっと前の時代、歴史的には聞いたことがある。
 ちょうど、パソコンやケイタイなどが、発展したころで、いわゆる、
「インターネット」
 というものが普及してきた頃で、
「誰もが、表を歩きながら、ケイタイの画面を見ていた時期だった」
 という話を聞いたものだ。
 そんな頃を頭の中に思い浮かべてくると、ちょうど流れてきた曲が、バラードのような曲だった。
「どこかで聞いたことがあるような」
 と思ったが、確かに、どこかレトロな感じがした。
 それもそのはず、実はその曲は、カバー曲であり、元々は、昭和歌謡だったのだ。
 ちょうどあの頃は、カバー曲を歌う人も結構いて、曲の感じは、現代風にアレンジしていたが、やはり、曲は昔のイメージだったのだ。
 そのギャップがよかったのか、ちあきは、すっかり気に入ってしまい、店の人に、
「あの曲は?」
 と聞くと、カバー曲だということまで教えてくれた。
「ありがとうございます」
 といって、さっそく、家で音楽サイトから、ダウンロードしたのだった。
 これだって、最近のことで、さっきの時代だったら、まだまだ、CDが主流で、街のあちこちに、CDショップが本屋と同じくらいに、あったものだ。
 しかし、今は、CDショップどころか、本屋だって、街の大きな本屋くらいしか、なくなってきた。
「昔は、電車の駅前にある商店街に、必ず一軒はあったものだ」
 という話であった。
 CDショップで、CDを買い、本屋で作曲関係の本を買ってきて、実際に作曲してみた。その曲でデモテープを作成し、それを音楽プロデューサーに持っていくと、採用されるというウソのような話しだった。
 このあたりが、マンガのマンガたるゆえんであり、さすがにドラマでは、そこは、
「コンクール入選」
 という形になっていた。
 そこで彼女が作曲家デビューをするという話であり、その後、その世界での葛藤や悩みを乗り越えていくという、日本人が好きそうなサクセスストーリーであった。
 そんなものを中学時代に見てしまうと、
「私も作曲でもしてみたいな」
 と思うのも無理はない。
 かといって、
「プロのなりたい」
 などというのは、考えられない。
 さすがに、そんな甘い世界ではないと思っていたし、何か実績でもあれば、いいのだろう。
「コンクールがあれば、応募してみて、その結果、万が一にも入選でもすれば、これからも作曲をしてもいいんだというお墨付きをもらったというような感覚になることだろう」
 と考えた。
 ただ、このマンガは、ちあきにとって、人生の分岐点になりそうな気がして、仕方がなかった。
 というのは、
「ものをつくる」
 ということの楽しさを、まだ何も作っていない段階から教えられた。
 いわゆる、
「目からうろこが落ちた」
 という感覚にさせられたものだったということであろう。
 ただ、さすがにマンガと現実世界では、実際にはそうもいかない。
 ちあきも、マンガのように、本を買ってきて、作曲の勉強をしてみたが、さすがに一度挫折しただけあって、なかなかうまく理解できない。
 中学時代だったこともあってか、なぜ、自分に作曲ができないのかということがよく分かっていなかった。
 なかなか作曲ができないでいたが、ちあきは諦めることはなかった。
 これだけ本を読んだりして勉強していたのに、できないと分かると、普通だったら諦めて、もっとできることを目指してみようというのが、中学時代という多感な時期であり、思春期ど真ん中だと言えるだろう。
 だが、思春期にいるのは分かっていて、そんなにしつこい性格でもないと思っていたのに、作曲というものに対しては、なぜか執着があった。
「学校の部活にでもあれば、入部するかも知れない」
 と考えたが、楽器を演奏したり、歌を歌うというような部活はあるが、作曲関係の部活はなかった。
 それだけ、作曲をしてみたいという人が少ないということなのかと感じたのだ。
「実際に作曲してみても、それを披露する場所もない」
 ということなのかも知れないが、それだけ、難しいことなのだろうか?
 そんなことを考えていたが、中学三年生になると、そんなことは言っていられない。まずは高校入試に合格しなければ、どうしようもなかった。
 彼女は、自分の学力を考えると、ちょうどボーダーラインよりも一段階低いラインに設定していた。
「ボーダーラインぎりぎりの学校を選んで、失敗すれば元も子もないが、それだけではなく、入学できたとしても、ついていけなければ、どうしようもない」
 と考えていたのだ。
 ちあきの成績は、中の上と言ったところで、それくらいを一般的な成績、
「平均的な生徒」
 として見られるようだった。
 だから、もし、背伸びした学校に入ると、まわりが優等生ばかり、入った瞬間に、
「劣等生」
 という張り紙を貼られることになるのだ。
 それは実に辛いことだ。
作品名:自分の道の葛藤 作家名:森本晃次