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パンデミックの正体

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「逆に、緊急事態だからこそ、普段からできることをするというのが、そのやり方の基本だ」
 といえるのではないだろうか?
 そのおかげで、実際に他の県で、病床の確保が困難なほど、急激に患者数が増えてきた時も、医療ひっ迫を起こさなかった県として、また、知事の人気を上げることになったのだ。
 実際に、医療ひっ迫が起こった県は、その反省から、F県を見習うところが増えてきた。F県としては、
「最初からできることを、そして、その優先順位を考えて、実行しただけ」
 と言ったが、まさにその通りであり、
「それ以上でも、それ以下でもない」
 といってもいいだろう。
 知事の考え方として、それ以上何も言えないのだが、少なくとも、
「私の考えが、他の県でも共有されるのは有難いことです」
 といっていたが、それは本音だということだろう。
 パンデミックという緊急時において、他の県と連携を取ることは大切であるが、のんびりもしていられない。
 他府県との話になると、どうしてもまとまらないことも多く、下手をすると、
「こんな会議、ムダでしかない」
 とおもえる時もあるが、そんな時は、自分も右腕となってくれる補佐役、
 副知事は、他の案件で大変なので、副知事以外の腹心の部下に、大体の考え方は示しておいて、自分の代わりに動いてもらえるように対応していた。
 おかげで、病床の確保、あるいは、救急体制の充実という、今の時点では、後ろ向きではあるが、そんな体制を築いておけた分、他の県に比べて、死者の数は、圧倒的に少なかった。
 そんな知事を、県民が辞めさせるはずもない。
 いくら野党が、候補を擁立しようとも、圧倒的な大差で、現職知事の勝利は、決まっているようなものだった。
 そんな状態なので、県民も安心して、知事に県政を任せることができる。
 おかげで、知事と県民の関係は、他の県にはないほどの結びつきで、企業も、法人も、完全に、現職知事を推薦している。
 そういう意味で、この県は圧倒的に与党が強く、野党は、ほとんど支持者がいなかった。野党を全部合わせても、支持率が10%にも満たないという体たらくである。
 さすがにここまでひどい県はない。それを思うと、他の県がマネしたがるのも無理はなく、実際に、モデルにしている県もあり、その県から、
「このあたりの地方の県で、密約のようなものを結びませんか?」
 という申し出があったこともあった。
 もちろん、県知事には、大っぴらにそれを公言できる力はない。だから、この密約が効力を発揮するのは、
「非常事態の時だけ」
 ということで、依頼してきた県もあった。
 さすがにそれに対しては、他の県からも、
「時期尚早」
 という話になった。
 それは当然のことであり、
「国に知られるわけにはいかない」
 というのが大きかったのだ。
 ウイルスの研究所ができたのは、実は、今回の世界的なパンデミックができる前だった。
 さすがに、県のお金を普通に使うわけにもいかず、民間の研究所として開設し、県の予備費のようなものから、研究をサポートしていた。
 本当は、県内のある大学の教授が、
「近い将来、世界的なパンデミックが起こる」
 ということを大々的に話していた。
 だが、実際に起きる気配もないことから、教授は、まるで、
「オオカミ少年」
 と化していたのだ。
 最近では、台風などもそうだが、
「くるくる詐欺」
 などと言って、
「数十年に一度の台風」
 ということで備えていると、実はたいした被害がなかった。
 ということがあり、安心していると、その二つ後の、普通の台風だと思っていたことが、数十年に一度の被害をもたらしたことがあった。
 前の台風が、大したことがなかったので油断をしていたが、実際に警戒していれば、ここまでの被害はなかったということで、
「まるで、オオカミ少年台風だ」
 と言われるほどだった、
「天災なんて、そんなものだよ。忘れた頃にやってくるっていうじゃないか?」
 と、いう話もその時に皆が話していた。
「備えあれば憂いなし」
 とよく言われるが、F県というと、台風災害や、水害が多いところなので、災害としては、毎年、何かに見舞われていたのだ。
 そんなことを考えると、台風だけの問題ではなく、線状降水帯というのも、大きな問題だった。
 ということで、県の方針として、
「災害を未然に防ぐ開発に、金を掛ける」
 ということを目的として、大学の研究室が、災害予測、および、対策研究所というものを建設するということで、県からも出資をすると、国に願い出て、了承を得たことで、研究所解説に、県が一役買うことになったのだった。
 さすがに、すべてを県で賄うというわけにはいかず、一番の支援者が、県ということで、研究所も、半分、県公認のようなものだった。
 そういう意味では、
「県が出資した」
 といってもいい研究所で、実際に、研究内容の発注は、県からのものが多かった。
 天災が中心だったが、最近では、
「自然界のバランスが崩れている」
 ということで、伝染病の発生を懸念する声が大きく上がっていて、実際に、絶滅種が多い中で、
「虫の異常発生」
 などという状況も続いていたりした。
 異常気象による、洪水や水不足などは、毎年のことであり、電気が足りなくなりそうな年もあったりして、
「今の世の中、何が起こっても不思議はない」
 と言われる時代になってきた。
 そんな中で、F県知事の気がかりが、パンデミックだった。
 世界では、いろいろな伝染病が蔓延しているが、日本に入ってきて、そこまでひどい蔓延はなかった。
 数か月くらいは、皆が気を付けた時期はあったが、実際に日本で蔓延し、隔離患者がいたということはなかったのだ。
 だが、F県知事は、パンデミックが起こる、3年前に、
「数年後には、まったく未知のウイルスが流行り出して、世界を席巻する時期が必ずやってくる」
 という予言をしていた。
 ただ、本人もまさか、こんなにズバリ的中するなどと、思ってもいなかっただろう。
 実際に、研究所の建設の話を聞いて、いきなり飛びついたというのは、間違いではないが、
「研究所の所長と、県知事が昔からの知り合いだった」
 というのは、本当にただの偶然であろうか?
 ただの偶然だというのであれば、パンデミックに対しての話を、所長から県知事が聞いていた話だったのかも知れない。
 ここの所長は、名前を、宮本所長という。
 宮本所長は、下の名前が宗次郎。今年で45歳になる。
 F大学の大学院を卒業し、そのままF大学の生物学を研究し、特に、細菌であったり、伝染病関係の研究では、世界でも名が知れた博士だった。
 特に、15年前くらいに、アフリカで流行った伝染病に関しては大いなる研究結果をの推していて、特効薬の開発にかなりの助力をしたのだった。
 まだ、当時20代だったので、何かの賞を受賞というわけでもなかったが、その実力と才能は、生物学会では、
「日本に、宮本博士あり」
 と言われたほどだったのだ。
 もっとも、この研究の評価もあったことから、博士として、名実ともに認められたのであって、日本の学界でも、その発言力はかなりのものだった。
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次