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パンデミックの正体

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「スパイクがない」
 ということであった。
 ウイルスには、円形になったウイルスのまわりに、枝のようなスパイクがついているものが多い。今回発見されたウイルスは、スパイクがないのだ。
 この発見を宗次郎に伝えた、研究チームのリーダーは、
「このことを、世間に公表しなくていいんですか?」
 と聞くと、宗次郎は少し黙り込んで、
「いたずらに公表して、臣民の気持ちを煽ってしまうというのは、普通に考えてもまずいのではないだろうか?」
 という。
「それに、まだ発表するには、分からないことが多すぎて、時期尚早であり、マスゴミなどに突き詰めれらると、どう答えていいのか分からなくなってしまうだろう」
 ということであった。
「確かにその通りですね。我々としては、発表できるだけの、資料を作ることが先決であり、政府やマスコミへの発表は、もう少し待った方がいいですかね?」
 と言われ、
「しょうがないだろう」
 と答えた。
 下手に、発表はしない方がいいということになり、とりあえず、研究を進めていくことになった。
 実際には、現状のパンデミックに対しての、
「国内産ワクチン」
 の研究が急務だった。
 ただ、どうしても問題になるのが、
「治験の不足」
 である。
 問題なのは、
「出遅れてしまった」
 ということである。
「開発競争に出遅れると、出遅れた時期よりも、実際の遅れは、もっと大きくなり、取り返しがつかなくなる」
 というものだった。
 それでも、この研究所を秘密裏に作っていて、密かに研究をしていたから、
「これくらいの遅れ」
 で済んでいるのだが、一歩間違えると、
「取り返しのつかない致命的な遅れだ」
 と言われても知彼方のないところまで来ていた。
 その証拠に、専門家と言われている人たちの中には、
「今からワクチンや特効薬の研究を初めてもとてもじゃないけど、追いつけない」
 ということで、研究にストップをかける声もあった。
 しかし、政府としては、
「一応、努力はしている」
 という格好だけはつけておかないと、どうしようもないと感じている人が多いということだったのだ。
 そのため、微々たる金で、申し訳程度の言い訳になるような開発を適当な大学にさせて、
「無理だった」
 ということを公表させようとした。
 しかし、どの大学も嫌に決まっている。しょうがないので、
「金に物を言わせて」
 という形で、体裁をつくろっていたのだ。
 だから、マスコミの発表としては、
「国内産のワクチンについては、政府の見解として、まだまだ、今始まったばかりで、少し時間が掛かるということでした」
 という、取って付けたような言い訳しかできないだろう、
 もっとも、国民の方も、
「どうせ、日本の政府には、そんな力はないだろうな」
 と思っていた。
 ワクチンがどれほどの利益になるのか分からないが、どうせ企業の方が、
「金にならないことはしたくない」
 とでもいったんだろうな。
 という、違った解釈もあったが、政府はそれでもよかった。
「出遅れたということで責められるよりも、企業側が難色を示していると思われる方が、政府としての責任も軽くなるというものだ」
 と思ったのだろう。
 では、出遅れの何が悪いというのか?
 出遅れというのは、まず、ワクチンが他の国で先に開発され、海外では治験がキチンと行われているということだ。
 日本でも、開発していたとして、ワクチン接種は、国家としても、最重要課題であり、海外のものであっても、何であっても、急いで摂取する必要に迫られることだろう。
 ということは、当たり前のことで、ワクチン大臣が輸入を進め、摂取を、自治体が進めている。
 だから、国内で開発をしても、治験の段階で、
「すでに、国民のほとんどは、摂取済み」
 ということである。
 そして、摂取していないという人は、
「ワクチンの副反応が怖い」
 ということで、摂取しない人だ。
 そんな人たちに、
「治験五協力してほしい」
 などというのは、
「本末転倒も甚だしい」
 などという言葉で片付けられる問題でもなかった。
 その、
「治験に協力してくれる人がいない」
 ということが、一番の問題であった。
 なるほど、そう考えてみれば、日本だけでなく、世界中でも、治験に協力してくれる人などどこにいるというのか?
 考えてみると、もしいるとすれば、
「後進国の金のない国の人たちだけで、そんな人にワクチンを接種させたとしても、日本人でなければ、比較にはならない。一度目のワクチン接種が落ち付くまでの間でなければ、治験というのは、もうありえないといってもいい」
 といえるだろう。
 ということは、その時点で、国産のワクチンの運用は不可能なのであり、もし、別のワクチンということであれば、不謹慎だが、
「他のウイルスに出てきてもらうしかないのだ」
 ということになるだろう。
 今回、研究所で発見したウイルスは、まったく別のものだった。
 しかも、このウイルスは、パンデミックの時のものと違い、特徴としては、
「変異をやたら繰り返す」
 というものであった。
 ただ、このウイルスに対しては、宗次郎の研究所の方では、それほど問題視しているわけではなかった。
「変異をやたら繰り返すということは、元々のウイルスが弱いということを示している。ウイルスは、変異を繰り返すことで、ある意味弱ってきているともいえる。ただ、追いつかれないように、変異を繰り返しているだけで、実質は、変異を繰り返すことで弱くなるというデメリットを持っているのだ」
 と、宗次郎は思っている。
 まったく同じことを、黒川研究員も思っていて、健太郎は、宗次郎から説明を受けたことで、
「なるほど、そういうことか?」
 といって、理解できたのだが、そういう意味で、このウイルスに関しては、
「前のワクチンでもいいだろう」
 と、海外のワクチンに。その地位を譲ることにした。
 その時、宗次郎が危惧したのは、
「さらにまったく別のウイルスが発展してくるのではないか?
 ということだったのだ。
 だが、政府の方は、そんな簡単に放っておくというわけにはいかなかった。何しろ、元々のパンデミックのウイルスとの共存もまだ先が見えていない中で、新しいウイルスが生まれたのだ、脅威でしかないと言えるだろう。
 有識者たちも、
「今回のウイルスは前のウイルスに比べて、それほどひどいものではないですが、一緒に流行った時にどうなるかということがまだ未知数です。だから、警戒に超したことはないし、下手をすれば、感染の拡大によっては、いつかは、行動制限を掛けることになるか分かりません」
 ということだった。
 行動制限を掛けるということは、それだけ責任を負うということである。国民の自由を侵害するわけだから。平時であれば、
「憲法違反」
 ということになる。
 しかし、国民の生命を守るというのも国家の大事な役目だ。いくらここで守れたとしても、経済的に困窮し、自殺者を出したなどとなると、本当に許されることなのかどうか。難しいところである。
「今回の新型ウイルスが、前のウイルスを駆逐してくれればいいんだけどな」
 といっていたが、
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次