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パンデミックの正体

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 そんな状態において、宗次郎は、大学での研究を、半分は、
「家族のたえ」
 と思ってやっていた。
 そんな時、大学時代に再会した兄の健太郎が、県知事として、君臨することになったのだ。
 最初は、引き取ってくれた家族のためと思っていたものが、次第に、
「県政のため」
 ひいては、
「兄のため」
 ということになってくると、自分の研究はどこに向かっているのか、しばし分からなくなってきた。
 もちろん、育ってきたのは、今の家であり、家族に対しての恩を忘れるわけにはいかない。何と言っても、母親の実家であり、引き取って育ててくれ、さらには、自由に研究員にもならせてくれた。
 それを思うと、恩があるのは家や家族の方だが、盗美月が強いのは、県との間柄であり、何と言っても県知事は実の兄なのだ。
「兄に対しては、恩というところまではないが、お互いに利用し合うには、これほど都合のいいものはない」
 といえるだろう。
 この研究所は、本当は、宗次郎のアイデアであった。
 いや、アイデアとしては、兄の健太郎も持っていたが、あくまでも、構想としてあるだけだった。だから、食事のついでの時だっただろうか?
「今は自然界の生態系が崩れかけてきていて、異常気象は、生物の大量発生を招き、それによって、干ばつや大雨など、自然界が崩壊しかけている」
 と、健太郎がいうと、
「そうだよな、だから、兄さんたち政治家が、SDGSなどという計画を立てて、いろいろな政策を推し進めているんだよな」
 と宗次郎が言った。
「そこで、俺が今少し気になっているのは、伝染病なんだよ」
 と健太郎がいうと、
「伝染病? そういえば、確かに今世界各国で、いろいろな伝染病が生まれては、問題になっている。今のところ、日本ではそんなに大きなものはないけど、実際に、致死率が10%を超える伝染病が実際にあったりするんだよな。それを考えると、僕たちも、伝染病研究をもっとしっかりしないといけないとは思うんだけど、いかんせん、日本では、そこまで騒ぎになっていない。だから、なかな、研究所もできないんだよな」
 と、宗次郎が言った。
「これは、俺がいうのは、本当はおかしいんだが、実際に起こっていないことであれば、余計な予算を使って、研究所をつくるようなことはしないのが、この国だからな。下手に作ると、税金の無駄遣いだって言われてしまうのさ。数年前に、事業仕分けという名目で、ムダと思えるようなものを、どんどん減らしていくようなことをしていたんだ。だから、今はなかなか作れないんだよな」
 と健太郎は言った。
「そうなんだよな。今の時代は、どんどん減らしていこうと思っていることを新しく作れないような時代になってきていて、時々本当にそれでいいのか? って考えることがあるんだ」
 宗次郎がいう。
「というと?」
「例えば、踏切なんかがそうじゃないかって思うんだけど、踏切は、今どんどんなくなってなっていっていて、高架にしたり、下を通したりしているだろう? だけど、田舎によっては、家がおかしなところに残っていて、家の問題なのか、線路の問題なのか分からないが、渡る時に踏み切りもないので、危ないんだよね」
 と、宗次郎がいうと、
「そう、踏切は、今の法律で、増やしてはいけないことになっているんだ。本当はこういう特殊なところはつけないといけないんだけどね」
 と、健太郎がいうと、
「そうだよ。これが道路だったら、信号をつけないと危ないところがあって、魔の交差点などと呼ばれているところは、今でもあるんだ。それでも、だいぶ信号がついて、危なくなくなってきたので、ちょうどいいんだけどね」
 と宗次郎がいう。
「まあ、踏切もさることながら、伝染病研究所というもの、これからの時代には必ず必要になると思うんだ。お前は専門家の目から、どう思うかい?」
 と健太郎がいうので、
「そうなんだよな、まともには伝染病研究所という名前の看板は建てられないからな。昔のように、伝染病が数多くあって、しかも、不治の病が多かった時は、そういう研究所は必要だったけど、今のように、ほとんどの伝染病の特効薬が見つかって、伝染病で死ななくなったことで、そういう研究所は減ってきたからな。今世界で起こっているのも、どちらかというと、それほど大規模ば伝染病ではなく、局地的なものが多いからな」
 と、宗次郎がいう。
「だから、お前に聞いているのさ。看板は別のものにしておいて、中では、伝染病を研究しているというような、そんなことってできないだろうか?」
 と健太郎がいうと、
「それを考えるのは兄さんたちだろう? だけど、普段は、看板通りの研究をしていて、実際に流行り始める傾向が見えた時、伝染病研究所としての機能をいつでも発揮できるようにしておけばいいとは思う。だけど、いきなり体制を変えることに混乱はないか? あるいは、平穏な時に、いつでも臨戦態勢に入れるようにするための、薬や、機材のストックが、古くならずに、ちゃんと補給ができるかというところが、どうしても、隠れ蓑になっていると、ネックになるところではないかと思うんだ。そのあたりは、兄さんにも分かっていることだとは思うが」
 と、宗次郎は言った。
「研究所をつくる」
 ということを具体的に話始めたのは、兄の健太郎の方からであった。
 健太郎は、
「先見の明がある」
 というのは、前述のとおりだが、それ以上に、弟の宗次郎が、
「博士となって、自分に味方をしてくれそうだ」
 ということが分かったことで、そのことが嬉しかった。
 宗次郎にとっても、兄が伝染病の蔓延を予見していて、危惧していることが分かり、自分も、兄程ではないが、危惧は結構考えているということから、この時の話が、次第に軌道に乗ってくるということを予見していた。
 二人とも、このまま、酒の上での話というだけで終わらない気がしているのだ。
 酒というのは、二人とも、実はそんない強くない。どちらかというと、弱い方なので、飲み会ということになると、結構辛かったりした。
 しかし、兄弟での酒は、結構楽しいもので、
「楽しい酒だと、そんなに酔っぱらうこともないな」
 とお互いに思っていて、それを口に出すくらいの中になっていたのだ。
 宗次郎の方でも、今の家の明人とも仲がいいし、すでに取締役になっていて、もう少しで会社を受け継ぐことになる、そんな兄が、年下ではあるが、頼もしく言えていた。
 しかし、
「明人とは、住む世界が違うんだろうな」
 と感じていた。
 あちらは、完全に富豪で実業家の家庭の御曹司。こっちは、出戻りの息子で、何とか自力で、博士にまで上り詰めたのだ。
 もっとも、金は出してもらったので、恩があることに変わりはないが、どうもそのせいで家とは一線を画している。
 そうなると、実の兄である健太郎を慕うのは当たり前のことで、宗次郎も分かり切っていることだった。
「これが世の中というものなのだろうな?」
 と感じた。
 しかし、明人も、宗次郎も、健太郎も、個人としては、それぞれに、
「成功者だ」
 といってもいいだろう、
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次