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パンデミックの正体

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 もちろん、県から派遣された秘書のようなものをしている男は知っていることであるが、大学の研究員が、そこまで敏いとは思えない。どちらかというと研究員が興味のあるのは、研究に関してだけであり、人間関係などというものには、まったく興味を示さないだろう。
 そもそも、二人は、子供の頃、一緒に育ったというわけではない。
 父親が、政治家だったこともあって、長男には、
「政治家の道を」
 ということで、長男の健太郎、つまり、今の県知事は、政治家としての英才養育を受けた。
 そして、次男の宗太郎、つまり、宮本博士は、親からは、
「何を目指しても構わなないから、やりたいことを言いなさい」
 と言われ、
「科学者」
 と漠然と答えた。
 父親と兄をあまり好きではなかった宗次郎少年は、
「政治家以外で、なるべく政治家から遠いもの」
 ということで、とっさに、
「科学者」
 と答えたのだ。
 それを聞いて父親は、
「そうかそうか頼もしいぞ」
 といって、宗次郎には、理数系の家庭教師をつけて、英才教育が始まった。
 きっと親が想像したような形に二人の息子は実際になっていて、ある意味、
「親孝行だ」
 と言われるようになったのだった。
 小学生の頃から、英才教育を受けているのだから、
「長男が県知事、次男、大学で博士と呼ばれている」
 という、
「秀才兄弟」
 が出来上がったのだ。
 兄弟のうち、
「どちらがより一層努力家だったか」
 といえば、
「弟の方ではないか?」
 というのが、ほとんどの人の目であった。
 それを聞いて、兄は嫉妬したかも知れないが、嫉妬心を抱くというのも、政治家としては大切なことのようだ。
 だが、この二人、また再会することになったのは、大学時代だった、
 最初は、お互いに相手が誰か分からなかったが、お互いにオーラが感じられるようで、それぞれに意識していた。
 大学時代に再会した時、それぞれに、
「政治家になりたい」
「研究者になりたい」
 というそれぞれの話を聞いて、どちらかが先に、
「兄弟だ」
 と感じたのか、正直分からなかった。
 ただ、
「兄弟なんじゃないか?」
 と言い出したのは、兄の方だった。
 兄にはそれだけ弟に対しての思い入れがあったのだが、そこには、
「嫉妬心の裏返し」
 のようなものがあったのかも知れない、
 兄弟というと、
「兄の方がしっかりしていて、嫉妬心は弟の方が強い」
 と言われていて、ただ、
「弟の方が努力家だったりする」
 というようなイメージで、弟の宗次郎は思っていた。
 そして、自分たち兄妹を比較すると、
「その通りだな」
 と感じたのだ。
 だからと言って、兄が努力をしていないとも、嫉妬心が薄いとも思っていない。
 それよりも、弟から見て、
「兄は嫉妬心に関しては、自分よりも強い」
 と感じるのだった。
 学生時代に、なぜ一緒に育っていなかったのかというと、両親が離婚したからだった。
 長男は、政治家の父親が引き取り、次男は、母親が引き取った。
 母親は元々、裕福な家庭の出で、政治家一家だった、父親のところに嫁いできたので、離婚となると、実家に戻ることになる。
 子供を連れて、出戻ったというと、家族も体裁が悪いもののように思えるが、そうでもなかった。
 その代わり、宗次郎を、学者にするということに、実家の親も賛成してくれて、英才教育が続いた。
 その頃、まだ小学生だった宗次郎は、離婚前よりも、離婚後に入った家が、さらに裕福だったことにビックリした。
 子供心に、路頭に迷うのは嫌だと思っていたからだ。
 実際に路頭に迷うということはないと思っていた。母親が、
「いいところの出」
 だということは、子供が見ていて分かった。
 というのも、自分が、英才教育を受ける、政治家の家に生まれたということが分かっているからだ。
 しかも、父親は政治家。自分が次男に生まれたことで、自由に将来を決められたので、そういう意味ではよかったと思っている。
 しかし、まわりの目は皆兄に向っていて、
「嫉妬心が弟の方が強いというのも、そうやって考えれば当たり前のことなんだよな」
 と感じるのだった。
 母親の実家は、実業家だった。
 ひょっとすると、このまま実家の家業を継ぐことになり、
「やりたいことをやめなければいけなくなるのか?」
 と感じたが、どうやら、長男に子供がいて、その子が家業を継ぐのは決まっていたようだ。
 宗次郎よりも、まだ小さかったので、まるで弟のように育ったが、弟は、実に従順で、大学生になっても、宗次郎を兄として慕っていたのだ。
 それだけ、素朴な今時珍しい青年だった。
 従順というか、素朴というか、ある意味、
「世間知らずという意味では、どこか、小さい頃の兄に似ていたような気がする」
 と、宗次郎は感じたのだった。
 宗次郎が、
「弟」
 と呼ぶのは、明人という、この家の長男の子供だった。
 この家の長男は、すでに、会社の社長の座に就いていて、、明人は、御曹司というところであろうか?
 本来なら、出戻りの長女の、しかも次男。立場としては微妙であったが、
「明人を支えてやってくれ」
 と、この家の大旦那である、宗次郎にとっては、おじいさんに当たる人から、そういわれた。
 宗次郎は、その時臆せず、
「僕は、将来科学者か、研究者になりたいんだ。だから、明人さんを支えるといっても、どこまでできるか分からないよ」
 と、ハッキリいうと、大旦那は、
「おお、そうか。なかなか頼もしくていいな。いいんだよ、お前は好きな道に進んでも、それなりに、援助もするしな、ただ一ついうと、この家の跡取りは長男の息子の明人なんだ。そこは、わきまえておいてほしい」
 と言われた。
 宗次郎としても、別にここの家を継ぎたいとは思ってもいなかったので、
「はい、分かりました。僕は、立派な科学者になりたいと思います」
 といってのけたのだった。
 ひょっとすると、その時に、大旦那は、宗次郎の人間を見極めたのかも知れない。その後、宗次郎が研究を成功させるたびに、大旦那は、手放しに喜んだ。
「あれも、うちの孫なんじゃよ」
 といって、大往生を迎えるまで、大旦那は、宗次郎を支援し続けてくれた。
 それは、おじさんにあたる、今の旦那も同じであった、
 会社から、F大学に対して、資金援助もしてくれた。
 もっとも、それだけの研究を宗次郎が発表するからで、宗次郎の発表のおかげで、旦那の会社にもメリットがあり、双方が得をすることになるのだ。
 何と言っても、会社の身内に、
「博士がいる」
 ということになれば、会社側の宣伝効果は抜群で、次代の明人の時代にもそれが受け継がれることになる。
 宗次郎の研究は、県からの委託が多く、一般企業相手というよりも、自治体相手であった。
 そういう意味で、
「企業との癒着」
 という心配もないし、世間に安心感を与えられる。
 それを思うと、宗次郎の存在は、会社側にとって、
「大いなる宣伝塔」
 といってもいいだろう、
 もちろん、宗次郎にはそんなつもりはないが、自分の研究が、どんな形であれ、家族の役に立つのであれば、それはそれでよかったというものだ。
作品名:パンデミックの正体 作家名:森本晃次