第一印象と二重人格の末路
しかし、最初から術中に嵌っていると、こんな錯覚にコロッと騙されてしまう。
特筆すべきところがないと思っても、
「それこそ、俺の錯覚でしかないではないか?」
と感じるに違いないと思うのだった。
やはり、そもそもの来店のきっかけが、リベンジという目的だったので、他の人や、いつもの自分とは、随分精神的にも違っている。しかも、その前に詐欺に遭ったかのように、ぼったぐられたではないか?
それを思うと、最初から他の人とは、精神的な開きがあるのは、分かり切っていたことだった。
そういう意味で、
「普通に予約できるのなら、予約するかも知れないけど、わざわざ無理して、彼女の予約合戦に名乗りを上げる気にはならない」
と思うのだった。
彼女との対面は、他の女の子と何ら変わりはない。それまで、
「これから体面する女の子は、ランカーの予約困難嬢なんだ」
という思いから、かなりの緊張もあった、
そして、すでにその時には、1時間まえの、悪夢は忘れていた。そういう意味で、
「ああ、来てよかったな」
と感じたのだ。
だが、対面してみると、今までの初対面の女の子と何が違うというのだ? もちろん、まだ遭ったばかりで、サービスを受けたわけではないので、
「きっと終わってから、またすぐ会いたいと思うことになるんだろうか?」
と思うのだった。
いつの間にか終わっていて、最期に相手にそう感じさせるのが、ランカーなのだと吾郎は考えていた。だから余計に必死になってまで、今までランカーに遭おうとはしなかったのだ。
もし、そこまで必死になっていると、その子に対して、最初から必要異常な期待を持つことになり、彼女の方では慣れているのかも知れないが、男の視線が、必要以上にギラギアしていたり、特別感を持っているのを、感じていたりすると、女の子としては、やりやすいだろう。
騙すというと語弊があるが、黙っていても、客はついてくれるなどと思うのだとすれば、そのうちに、精神的に必ず息詰まることになるのではないかと思うのだった。
だって、他の子は、自分に自信がないことで、必死になって、自分を人との差別化にしたいと思うのだ。
それは、自分に自信がないから、余計に感じることで、逆に自信があると、その人はきっと、
「敵は男性ではなく、自分の中にいるのかも知れない」
と感じるだろう。
敵というとこれも語弊があるが、
「人間、絶えず誰かを仮想敵として照準を合わせていないと、自分がきつくなるだけではないか?」
という話を聞いたことがあったが、どうなのだろう?
なるほど、確かにそうなのかも知れない。だから、自分に自信のない女の子は、敵をあくまで、相手だと思い、自分は陰に徹すると考えるのだろう。しかし、目の前にいるランカーの彼女は、自分に対して、自信があることで、
「男は、皆私に夢中」
という、自惚れまで出てくるのだ。
しかし、不安が消えたわけではない、余計に募ってくる。なぜなら、
「不安要素がないはずなのに、どうして不安がこみあげてくるのか?」
という、言い知れぬ不安を感じさせられるからである。
そんな時に感じるのは、
「自分のことが、抜け殻になったかのように感じる」
ということであった。
そんな時、彼女は、
「私は、何かのピエロなのかしら?」
と思うことだった。
ランカーに祭り上げられてはいるが、本当にランカーの器なのだろうか? 自分に自信が持てたとしても、消えない不安。それが自分を、ピエロと思わせるからだった。
つまりは、
「客寄せパンダ」
本当はそんな力なんかあるはずもないのに、スタッフによって仕立てられ、ランカーだということで一気に客に、
「手の届かない高嶺の花」
を想わせて、彼女を広告塔として、利用する。
それが、彼女にとっても、ピエロということになるのだろう?
ピエロというのは、道化師ともいえる。道化師といってしまうと、ピエロほど、
「サンドイッチマン」
というほどのものではない。
もっと幅広いと思うのかも知れないが、それだけ、派手さというのはないのかも知れない。
それを思うと、
「自分は、ピエロではなく、道化師なのかも知れない」
と、そんな風に感じるのだった。
感覚のマヒ
道化師というのは、イメージとしては、
「その滑稽な顔の下で、どのような表情を持っているのか分からない」
ということだった。
そのくまどりの下には、どのような顔、そして表情が潜んでいるのか?
さらには、その表情は、感情と一致しているのだろうか?
ということが考えられるのである。
「ピエロ」
といってしまうと、もっと派手さがあるようで、その顔の奥に秘められた顔も、笑っていると思えるのだが、その笑いが果たして、本心からの笑顔なのか、逆に、
「笑顔であるがゆえに、恐怖を感じさせるものなのか?」
というものが、どのように働いているのかということを考えると、恐怖にも思えてくるのだった。
子供の頃などは、
「ピエロ」
という言葉は知っていた。
サーカスなどで、よく宣伝で出てくる、
「そう、ファストフードの、世界的に有名な、某ハンバーガーショップの、キャラクターに似ている」
と感じる人も多いことだろう。
いや、逆に思い浮かべるとすれば、あのキャラクター以外にはないといってもいいのかも知れない。
それだけ、イメージが強く、そのイメージしかないというほどのキャラクター性なのだろう。
何しろ、日本で店舗展開を初めて、ほぼ半世紀になろうとしているのに、最初から、変わらぬキャラクターなのだから、すごいものだ。
最初にあのキャラクターを選定した人も、半世紀も経って、ここまで色褪せないキャラクターになっていると思っただろうか。
そもそも、店の存続の方が危ないと思っていたかも知れない。
何しろ最初は、誰もが、
「まだ、海の者とも山の者とも分からない」
という時期だったからである。
それでも、実際に店の人気はうなぎのぼりであり、最初はハンバーガーショップというと、そこだけだったのが、それ以降爆発的に、同業他社が増えていった。
同業他社が増えてくると、
「自分たちが危ない」
と思うのだろうが、何と言っても、
「パイオニア」
というのは、その言葉だけで、キチンとした味が保たれていれば、
「ゆるぎない力が漲っているのかも知れない」
ということで、決して潰れることもないだろう。
それで、パイオニアが潰れるくらいなら、その業界自体が怪しくなってくる。
「ブームは、一回のブームでしかなかった」
ということになり、結局。すたれていってしまうのではないだろうか?
それを、世間では、
「流行り」
というもので、金ではなく、金メッキだった場合、そのメッキが剥がれるのは、本当に時間の問題だといってもいいだろう。
「いや、考え方が少し違うのかも知れない」
とも思った。
「キャラクターが印象的なので、店も軌道にのって、潰れることもなかったんだ」
といえるのかも知れない。
作品名:第一印象と二重人格の末路 作家名:森本晃次