小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

五感の研究と某国

INDEX|6ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

「小さくなっていけば、例えば半分になって、反対側の鏡に。また半分の自分の姿が写る。それが繰り返されて。どんどん小さくなっていくわけですよね? そう考えると、マトリョシカ人形も同じことで、入れ子になった人形なのだから、蓋が開いて、その中に小さな人形があり。さらにその中にということになると、それこそ、合わせ鏡と同じになるということですね?」
 とサイトウは言った。
「そう、普通の人はそこで考えることを辞めるんだよ。だけど、答えを求める我々学者は、どんなに小さなことであっても、答えを求めようとする。そのためには、こんな小さなことを誰も考えないよな? と思うようなことを、拾い上げていく必要があるんだよ。それを思えば、どんどん先を考えると、どこに行き着くかい?」
 と言われたサイトウは、
「ああ、そうか。どんどん小さくなっていっても、存在しているものが、消えてなくなるということはないんですよね。小さくはなるけど、マイナスになることも、ゼロになることもない。つまりは、限りなくゼロには違いが、ゼロではないということですね?」
 という。
「じゃあ、マイナスもないということですよね?」
 とサイトウが再度聞くと、
「理論的にはそういうことになる。しかし乗法のグラフのように、0を中心に、マイナスとプラスで、左右対称のグラフができるものだってあるではないか? それを考えると、理論上は存在していない、積算、除算にないマイナスという概念を持たせるには、別の次元という発想が生まれるのではないかと思うんだよ。それがパラレルワールドの発想だとすれば、可能性すべての世界などというものを考えるというのは、それこそ、理論上の矛盾ではないかといえる気がするんだ」
 と、教授は言った。
「なるほど、確かにそうやって考えると、除算法では、限りなくゼロに近くなるが、まったくなくなってしまうということは、理論的にあり得ない。ましてや、マイナスなどになることはない。マイナスになることがあるとすれば、最初からマイナスがどこかに存在しているという発想がなければ、ありえないですよね?」
 とサイトウがいうと、
「そうなんだよね。そして、先ほどの紙が束になる話なんだが、これは逆に積算法であって、一枚の紙というのが、まるで、除算法の最期に行き着いたところみたいな、限りなくゼロに近い状態のように思えないかい? ということは、除算法を証明するということは、この場合の積算法を証明することになり、逆に積算法を証明するということは、除算法を証明することになると言えないかな? ただ、これは、加算法と減算法の考え方とは、少し違っていると思うんだけどね」
 と教授がいう。
「どういうことですか?」
「積算法と除算法は、その証明をお互いでできるのだが、加算法と減算法の場合は、そう簡単なものではないと思えるんだ。こちらには、積算法や除算法ではなかった考え方である、ゼロやマイナスという概念が存在しているんだ。そして、出発点の違いにも問題があり、考え方を変えないといけないと思えるんだよ」
 というではないか。
「ますます難しいですね?」
「まず減算法から考えてみると、減算法は、最初を100と考えれば、その時点では、完璧なものだと言えるだろう。そこから、どんどん減っていくことになる。これは、テストなどで考えた時、受験人数や、合格者人数には関係なく、定められた合格点に達するかどうかということを考えた時に、出てくる発想だと思うんだ。たとえば、自動車免許などの発想に近いものであり、あれは、70点以上が合格ということだったと思うが、特に実技などというものは、基本、減算法なのではないかな? ペーパーのようにプラスマイナスの発想ではなく減点対象があれば、点数が減っていくということになる」
 と教授がいうと、
「なるほど、そうですよね。一旦停止をしないと10点減点されたり、エンストすれば、5点とか、そんな感じですよね?」
 とサイトウがいうと、
「ところで、サイトウ君は、将棋で、一番隙の無い布陣というのは、どういうものなのか、考えたことがあるかい?」
 と言われ、考えたが、しばらくして、
「そういう言われ方をすると、どうも、最初に並べた、あの布陣なのではないかと思いますね」
 と、サイトウが答えると、
「ああ、そうだ。あの形が、一番隙のない形なんだ。つまり、一手差すごとにそこに、隙が生まれる。減点方式のようなものだろう? だから、王将を相手に取られる瞬間が、いわゆる合格点より下回る70点以下ということになるんじゃないかな?」
「なるほど、それが将棋の世界ということですね?」
「そうなんだ。逆に囲碁の世界ではどうだろう? 何もないところに、一手を置いて。そこから展開される形というのは、まさに加算法だと言えるのではないだろうか? これも、最終的に勝ちを治めるということで、100点満点を目指すことになるのだが、果たして勝利というのが、100点なのかどうなのか、判断が難しい。ちなみに将棋だって、こちらが、勝手に70点といっているだけで、60点かも知れないし、50点かも知れない。その点数いかんにかかわりなく、勝敗がついてしまうとそこで終わりなんだ。加算法も同じだと思うと、行き着く先の点数は、関係ないということになる。これが、相手がいてもいなくても関係のないことになるテストということなんだろうね」
 と教授が言った。
「でも、テストというと、基本は、人数が決まっているものが多いですよね。特に入学試験などですね」
「そうなんだ。入学試験の場合と、先ほどの検定的なものというのは、同じ試験という言葉を使っているけど、手法も、採点方法もまったく違うといって、いいのではないだろうか?」
 と教授はいうのだ。
「私が気になったのは、減算法においての、教授の言われた、一番隙のない布陣という考え方ですね。将棋のあの形には、当然意味があり、完全な減算法を絵に描いているような感じですよね」
 と、サイトウは言った。
「将棋の最初の形というのは、かなり考えられたものなのだと思いますよ。それぞれの駒には役割があり、動ける方向や飛べる数も決まっている。本来の戦争の布陣であったり、動きとは違うものであり、これこそ布陣としては、最高のものなのかも知れないですよね?」
 と教授はいう。
「そうですね、ここが、実際の戦闘とは違いますよね。何が違うって。将棋には飛び道具がない。しかし、一撃必殺ではあるんですよ。相手を射程に収めれば、その時点で、駒同士の勝負は、決していますからね」
「その通り、そこで勝負が決しないと、生身の人間同士の戦いではないのだから、逆に冷めたところがどこかにあるような気がして、でも、それだけに、こういう勝負は、減算法としてしっかり確立されたものとしての、代表例になるんだって、思いました」
 とサイトウは言った。
 サイトウは、減算法の説明の時、わざと将棋の話を教授が出してきたのだと思った。わかりやすいというだけではない何かの意味が、そこに潜んでいるように思えたからだ。
作品名:五感の研究と某国 作家名:森本晃次