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五感の研究と某国

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「そうなんですよ。サイトウさんもそうじゃないかと思って、声をかけたんですよ」
 というではないか?
 学生時代には、特に一年生の時には、挨拶だけの友達をたくさん作ったものだった。
 その人数がまるで、大学生活でのステータスでもあるかのように、争う必要などあるわけはないのに、誰か一人ターゲットを決めて、勝手にライバル視していたのだ。
 しかも、そのライバルの決め方もいい加減で、後から思い出しても、
「あの時のライバルって、どうやって決めたんだろうな?」
 と思うくらいに、時間が経てば、意識はどんどんと曖昧になっていった。
 その意識が曖昧になる理由は、
「思考というものは、時間軸のように一直線ではなく、らせん状になっているもののようだ」
 と考えていたが、逆に、
「時間軸自体がらせん状になっていて、普通の世界は、そのままなのかも知れない」
 と考えると、
「考え方が違うだけで、まったく違う世界が出来上がるのではないか?」
 と思うと、そこにあるのは、
「同じ時間軸における別の次元」
 という発想と、
「別の時間軸における、同じ次元」
 というものが存在していると思うと、それこそ、
「パラレルワールドではないか?」
 と感じた。
 しかし、
「パラレルワールドという考え方だけでは、説明がつかないことがある」
 と考えたのが、最近話題になっている。
「マルチバース宇宙論」
 に代表されるものがそれではないだろうか?
 もっとも、マルチバースのように、
「多元宇宙論」
 以外にもいろいろなものが存在し、それがひも状になり、超弦理論というものと結びつくとも考えられる。
 ただ、これを、サイトウは、
「それらの宇宙論や、次元なんかの考え方も、心理学から解き明かせるのではないかと思っているんですよ」
 というのであった。
 同じような考えを教授も持っていて、
 パラレルワールドのように昔から言われているもの。そして、最近注目されるマルチバース宇宙論などというものが、どう結びついてくるのかということを考えると、元々、心理学を考えたことがなかった教授も、サイトウの言葉には、素直に考えるところがあるので、そういう意味でも、サイトウと話をするのが好きだった。
 教授もサイトウと話をしている時は遠慮しない。
 サイトウも同じように、遠慮をしないのだが、それは、教授も願ったり叶ったりであった。
 サイトウと、意見を戦わせるのは、昔自分がまだまだ学者として、これからだと思っていた時期にまでさかのぼって、
「ああ、こんな時期もあったな」
 と考えさせられる。
 今では、何か世の中の発想に自分が取り残されているように思えることで、どうしても、前を向くことができないでいたのだ。
 一緒に飲んでいる時、教授が面白いことを言い出した。
「パラレルワールドというのは、タイムパラドックスの証明のような言われ方をしていることがあるけど、あれをどう思う?」
「考え方は悪くはないと思いますが、パラレルワールドとを結びつけるのは、ちょっとどうかと思ったんですよ」
 と、サイトウは言った。
「どういうことだい?」
 と教授に聞かれて、
「私が考えるパラレルワールドというのは、可能性が広がっているものだと思うんです。でも、実際には、時間軸が同じで次元が違うという発想でしょう? そんなにたくさんはないですよね? でも、可能性という話になると、これは無限ですよね? 無限ということになると、パラレルワールドではなく、マルチバース理論の方位なるんですよ。そもそも、マルチバースとパラレルワールドというと、背中合わせの関係のように思えるでしょう? そうなると私の考えは、ちょっと違っているように見えてくるんじゃないかと思うんですよ」
 と、サイトウはいう。
「なるほど、確かにその通りですね。私も昔、まだ学生の頃は、サイトウ君と同じで、パラレルワールドと、マルチバースを混同したように考えていました。でも、だからこそ、マルチバースという理論が、パラレルワールドほど、浸透していなかったのではないかな? どちらか一つが大きな幹になっていればいいという考えだったとすれば、考えが混同したまま、らせん状になって、スパイラルを形成していたとしても、それは無理もないことだと思うからね」
 と、教授は言った。
「教授の言いたいことは分かります。パラレルワールドを、マルチバースと同じ発想で見ているから、見えてこない世界、いや、宇宙が存在する。それを、解明することができる学問があるとすれば、まず思い浮かぶものが、物理学ですよね? 素粒子の考えから、宇宙の広さであったり限界を考える。逆に、限界というものが存在しないということを証明しようとしていると思えるんですよ。それこそ、矛盾しているのかも知れませんけどね」
 と、サイトウは言った。
「確かに私もパラレルワールドというと、無限にある可能性が広がっている次元のようなものがあると想っていました。その時に考えたのが、ちょうど、本の厚みというような考え方だったんですよ」
 と、教授がいうと、
「本の厚さですか?」
 と、怪訝な感じがして、サイトウが聞いた。
 サイトウとすれば、尊敬している教授なので、何ら脈絡のないことを言うはずはないということで、ハラハラドキドキで話を聞くことにした。
「ああ、そうなんだよ。例えば、本の五ページって、ほとんど厚みがあるのかないのか分からない感じだろう? だけど、その厚みも、10枚になると、それなりになる。それが10枚重なると、100ページになって、それこそ、10×10という感覚になるだろう?」
 という。
 サイトウは、まだ何を言いたいのか分からずに、まだ頭が混乱していた。
「どこから、学問が入ってくるのか? これは物理学なのか、数学なのか?」
 と考えていた。
 すると、教授がニンマリとして、
「加算と減算があるように、積算と、除算があるよね? 理論的には、加算と減算に関してのたとえはよく言われるけど、積算と除算に関してはあまり語られることはない。だけど、これだって十分に面白い発想になるんだよ。たとえば、私は、この時にたとえとして、
「合わせ鏡」の発想と、「マトリョーシカ人形」たとえに出すんだが、この話の理屈が分かるかな? この両方の共通点とでもいえばいいのかな?」
 と教授は言った。
 サイトウはそれでもまだハッキリとは分からないが、
「どんどん小さくなっていくということでしょうか?」
 というと、
「そういうことなんだけど、それだと、半分しか正解していない。ここで、数学的な発想が生まれてくることいなるんだけどね」
 というので、
「合わせ鏡というのは、自分が真ん中にいて。左右か、前後に鏡を置いた場合に、永遠に移り続けるということですよね? だからさっき私が、どんどん小さくなるとう指摘をしたんですよ」
 とサイトウがいうと、
「そうなんだよ。小さくなっていって、どうなる?」
 とさらに、その先を聞かれた。
 なるほど、理論で考える時は、一つの道筋ができれば、そこから先を発想を変えずに、まっすぐに進むこということが大切だった。
作品名:五感の研究と某国 作家名:森本晃次