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五感の研究と某国

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 このことを、研究所の所長である教授に話すと、
「それは面白い着想かも知れないぞ。私は、研究しろと言われると、二の足を踏むが、サイトウ君だったら、きっと、できるんじゃないかな?」
 と言われた。
 この教授は、大学の中でも少し、
「異端」
 と言われている人で、研究成果よりも、その研究過程と大切にする人だった。
 そういう意味では学生からは人気があったが、教授内では、あまり人気がない。だから、年齢的にも学長は無理としても、学部長くらいにはなっていてもいいのだろうが、立候補すらしないのだから、当選するはずもない。
 まわりの同僚も、
「立候補すればいいおに」
 という人もいない。
 他の教授だったら、
「我々が支援しますから、立候補してくださいよ」
 と言われたとしても、不思議はない。
 それを思うと、確かに異端児であるが、
「岳著や学部長レースなんて、派閥が強いところが勝つだけなので、結局、出来レースでしかないんだよ。私は、そんなものには興味がないね」
 といっていた。
 教授をあまり知らない人は、
「学部長になれない言い訳をしているだけなんじゃないか?」
 というだろうが、まさにそうだろう。
 本人自身が、
「言い訳だ」
 と思っているのだから、しょうがない。
 そのうちに誰も教授を推す人など、誰もいないことが、あからさまになるだけだった。
 そんな教授は、本当は物理学が専門なのだが、生物学にも造詣が深く、実際には教授の知識と実力があれば、
「生物学者としてもやっていける」
 と言われていたほどの逸材だったという。
「どちらか、一つ」
 ということだったので、物理学を専攻したのだが、教授になってからは、生物学の研究も、遅ればせながら行うようになった。
 というのも、教授の恩師が引退する時、
「彼の生物学の知識は、いずれ物理学においても、大きな転機を迎えることになるのではないか?」
 ということで、引退のはなむけに、
「生物学研究を、解禁しよう」
 と言い出したのだ。
 そして、その時を機会に、自分のゼミ生や研究員に、生物学に造詣の深い人も、どんどん入れるということをした。
 さすがにゼミ生の場合は、なかなかこれからの進路を考えると、中途半端なことはできないということで、二の足を踏む人が多かったが、研究員は、結構幅の広い考え方の人がいて、早い段階で、予定人数が埋まったのだ。
「今までにも、生物学に興味のある物理学専攻の人が、結構いたということなのだろう」
 と、教授は納得していた。
 そんな研究員の中にいたのが、サイトウであり、彼には、
「いずれ、生物学と物理学の融合を新しい学問として認められることが来る」
 ということが、予見できていたのだった。
「これを、先見の明というんだろうな」
 と、教授も思っていて、二人は教授と研究員という立場を超えて、結構対等に話をしているところが見て取れたのだ。
 教授にとって、サイトウという研究員は、最初に面接をした時から気になっていた。
 別に何か特徴があるというわけではなく、他の面接をした研究員も、
「まさか、教授がサイトウを推すなどと思っていなかった」
 と後から言っていたくらい、正直目立っていなかった。
 教授は、実は、そんな目立たないところに興味を持ったのだ。
「どこにでもいる青年なのに、何か、こちらを見る目が捉えているようで、こちらが気にすると、サラリを避けるのだ」
 と、教授は思っていた。
 教授にとって、研究というのは、
「人材を育てることだ」
 と思うようになった。
 それは、生物学も一緒に研究していれば、研究だけが自分の人生だというように思っていたことだろう。
 しかし、そうではなく、生物学への研究を断たれた時、
「私は、研究員という器ではないのかも知れないな」
 と思うようになった。
 というのも、
「研究をしていても、時々、何か壁にぶつかったような気がするのだが、それでも、研究をしていると、その不可思議な感覚を忘れるほどに没頭できるのだ」
 という。
 しかし、結局、やりたい研究を、半分もできないのであれば、何が楽しいというのか、分かったものではなかったのだ。
 教授は、自分が研究するよりも、
「研究員を育てる」
 ということに興味を持つようになった。
 だから、研究員やゼミ生が、
「私は、他にも研究したいことがあるんです。教授は、そんな人たちの気持ちを受け入れてくださる人だということで、教授の研究室を志願しました」
 といってやってくる人も増えた。
 基本は物理学なのだが、学生や研究員で、
「他の学問に造詣が深い」
 ということで、やってくる人間の多くには、
「心理学を裏で勉強している」
 という人が多いのだった。
 心理学というと、ある意味、
「学問の中での、中心といってもいい」
 と思っている人が多い。
 ただ、考えてみれば、
「心理というのは、ものを考えることができる人間だけに許された学問だ」
 といってもいいだろう。
 しかし、物理学などは、確かに心理学と大きく結びついていたりする。
 いや、もっとも、
「心理学に結びついているのは、物理学だけではなく。数学や化学、そのあたりの学問とも、ある程度、均等な距離の中心に、位置しているものではないか?」
 と教授は考えていた。
 同じことを、サイトウも考えているようで、このあたりの話は、いつも、教授と話をする時、時間を忘れて、議論をぶつけ合うのであった。
 時々、教授とは、酒を呑みに行くことがあった。
 教授は、人と交流するのは好きなのだが、酒を呑む時は、よほど気に入った相手でないと、一緒に行くことはない。
 ほとんどがいつも一人で行くのであって、サイトウと飲んでいる時も、
「私は、いつも一人でしか飲まないので、人との飲み方を知らない」
 と言った。
 実際に、サイトウも同じようで、
「私も同じようなものですよ。そんなに強い方でもないですからね」
 とサイトウは笑ったが、確かに呑める方ではなかった。
 ただ、居酒屋のようなところは雰囲気が好きなようで、一緒に飲みに行く相手は、こっちが欲しても、まわりが受け付けない。つまり、誰も誘ってくれないというわけだった。
 サイトウはそれでよかった。
「そんなに強いわけでもない酒を、誰が好き好んで飲んだりするものか」
 と言い訳にも聞こえるが、それこそ、この男の本音だった。
 教授もそのことが分かっているので、ニッコリと微笑んで、サイトウと一緒に飲めることを喜んでいた。
「サイトウ君が、酒が弱いのは分かっていたからね。だから、誘うのは、おこがましいと思っていたのだよ」
 と教授がいうと、
「そんなことはありませんよ。おこがましいなどと言われると、却って恐縮してしまいます」
 と、サイトウがいう。
 これもサイトウの本音だった。
 サイトウは、人と絡むのが苦手だった。友達もいる方ではないのだが、なぜか彼の周りにやってくるのは、似たような性格の人ばかりで、
「類は友を呼ぶ」
 と言えばいいのか、
「俺は、本当は人と飲みたいと思っているんだけどな」
 というと、仲間も同じように、
作品名:五感の研究と某国 作家名:森本晃次