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最後のオンナ

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 そんな勝沢の性格を、意外と風俗仲間の後輩は分かっているようで、
「だから、僕とは、風俗のお店で会うことはないんですよ」
 という。
 この時の、
「だから」
 というのが、どこからくるのかがわからなかったが、彼の言いたいことは、勝沢なら分かると自分で思っているので、そこにわざわざこだわることもなく、話を合わせているのだった。
 そんな時、ちょうど、
「オキニ」
 になっていた女の子がいて、ある日、彼女が寂しそうな顔をしていたので、思わず、
「どうしたんだい?」
 と聞いたことがあった。
 すると、女の子は、急に泣き出しそうになり、思わず狼狽えた勝沢だったが、
「お兄さんは、優しいから、ついつい甘えてしまうのよ」
 といって、目から流れる涙を拭おうともしなかった。
 そう言われると、男冥利に尽きるというもので、
「風俗嬢と客」
 という感覚ではないことに気づかされるのだった、
 それまでも、彼女と一緒にいると、
「風俗で遊んでいるという感覚じゃないんだけどな」
 と思う、
 それだけ、彼女がすれていないというところを好きになったのだと思ったが、逆に、彼女には飽きを感じないという証拠でもあると思うのだった。
 彼女の話を聞いてみると、
「私、詐欺に騙されたの」
 というではないか?
 どういう話なのかというと、彼女は、以前から小説を趣味にしている、文学少女だったという、その彼女が騙されたのは、かくいう、例の、
「自費出版社系の会社」
 だったという、
 短大に進んだ時、実は、作家を目指していたという。
「私、作家を目指して、芸術の専門学校に行ったんだけど、その時にね、ちょうど、自費出版社系の会社が全盛期の時で、何度か作品を送ったことがあったんですよ。それで、あなたの作品は実に素晴らしい、だけど、うち側だけの出資というのは危険なので、もしよかったら、共同出版という形にしませんか? せっかくの才能を今のまま眠らせておくのは、もったいないじゃないですか? なので、出版社の営業の人を信じて、本を出してみることにしたんですよね」
 というではないか。
 それを聞くと、
「よくそれで、お金があったよね?」
 と聞くと、
「いや、自分の手持ち金額だけで、出せるわけじゃないじゃないですか? 出版社の人は、親にでも出してもらえばいいなんて簡単にいうんですが、そんなことができるわけがない家庭事情だったので、本当はその時、営業の人に対して不信感を抱いたはずなのですが、逆らえなかったんですね。やっぱり、信じようという意識が強かったんでしょう。そう思うと、今では、その人のことを信じてしまったことが悔しくて、まあ、そのおかげで、世の中はきれいごとばかりではないと思い知らされたというのもあったんですが、だけど、その代償は大きくて、借金を背負ってしまったんですね。それで、紆余曲折の上で、今のこのお仕事をしていることに繋がったんですけど、さっき、その時のことをちょっと思い出してしまったんです。さっきも言ったように、普通の人が相手だったら、私はこんな弱いところを見せないんですよ。でも相手がお兄さんだから、私は安心して話ができたということになるんでしょうね」
 というのであった。
 それを聞いて、感無量な気持ちになった勝沢だったが、それを聞いているうちに、
「あれ? 待てよ?」
 と感じたのだ。
「借金って。そんなに高かったのかい?」
 と聞くと、
「いいえ、借金としての部分は、すでに完済しているんですよ。元々、そんなに高いのには手を出せないと言っていたので、安い方のプランにしてもらったんだけど、単位としては、百万円以上ですからね。普通に仕事をしていたのでは、成り立たない。もちろん、誰かに頼れるわけもないお金だと思っているのもあって、風俗の世界に、足を突っ込んでしまったんです。」
 という。
「完済したのに、戻ってきたんだ」
 と聞くと、彼女の気持ちも分からなくもないと思った勝沢は苦笑いをするしかなかった。
「完済したのは、2年前だったですかね、その時は別のお店で、私も目標金額まで稼げたので、これで風俗は卒業できると思ったんです。店の方でも、他の女の子も、お客さんも卒業っていうと分かってくれたんですよ。お客さんの中には寂しいといってくれる人もいましたけど、そのうちに、私のことなどすぐに忘れるんだろうなと思うと、却って私の方が気が楽になったくらいですね」
 といった。
 しかし、彼女は今も風俗嬢を続けている。そのことはさすがに言及できないと思って、わざと聞かないでいると。
「私ね。きっと、このお仕事が好きなのよ。男性に奉仕をするということへの喜び、そして、奉仕をすることで、男性が喜んでくれる、普通の会社だとそんなことはないの。もちろん、こういう仕事をしているって分かれば、昼職の会社にはいられなくなるのは分かり切っていることなのね」
 という。
「君は昼職をしているということなのかい?」
 と聞くと、
「ええ、そうね。私に限らず、昼職をしている子は多いわよ。特に何かの目標を持っている子とか、いたりすればね」
 というではないか。
「君はどうして、また戻ってきたんだい?」
 と聞くと、
「私もあのまま引退すればよかったんだけど、人から慕われる気持ちを一度覚えると、忘れられなくなってね。昼職はせっかく就けたお仕事だということもあって、できれば、両立させたいの。その気持ち、わかってくれるかしら?」
 というではないか。
「それは、どういうことなんだろう? もしだけど、どちらかしか、体力的に無理だとすれば、どちらを選ぶのかい?」
 と聞くと、
「それは正直難しい質問ね。このお仕事を続けていきたいという気持ちはあるんだけど、昼のお仕事も大切なの。今のところ、目標があるわけじゃないんだけど、その目標のための勉強だと思うと、辞めたくはないし、かといって、夜のお仕事で、目標を達成させるためのお金が必要だと考えると、捨てがたいしですね。でも、どちらかといわれれば、こっちを辞めるでしょうね。そして、ほとぼりが冷めた頃にまた、このお仕事を始めると思うの」
 という。
「じゃあ、ほとぼりが冷めてからまた初めても、また見つかった時は?」
 というと、
「その時は昼職を辞めると思うの。だって、二度も昼職でバレたということは、その仕事が自分に合っていないかも知れないということでしょう? もし、このお仕事に対して、気持ちが変わっていなければ、きっと、昼職の方を辞めることになると思うわ」
 というのだ。
「なるほど」
 と、一応の納得をした。
 ということは、基本的には、
「夜のお仕事を辞めたくはない」
 ということだ。
 彼女にとって、夜の仕事は、すでにお金のためということではなくなっていて、辞めるとすれば、
「昼職のため」
 と思っているのだろう。
 しかし、それでも、また昼職から妨害を受ければ、
「今度は昼職を犠牲にしてでも、このお仕事を辞めない」
 と思っているのだ。
 昼職において、仕事をこなすということは、どうしても、夜の仕事に関わってこないとはいえない。
「人に知られてしまったらどうしよう?」
作品名:最後のオンナ 作家名:森本晃次